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武漢ルポ 「震源地」異様な沈黙 消された「蔓延は人災」論文

 新型コロナウイルス感染の「震源地」となった中国湖北省武漢市で、市当局が「原因不明のウイルス性肺炎」の発生を公表してから31日で1年となる。洞窟や森に生息するコウモリが保有していたとみられるコロナが、なぜ人口過密地帯で感染爆発を起こしたのか。約3カ月ぶりに現地を訪れると、中国政府が真相を究明するそぶりすらみせず、当局の責任を問う声を押さえ込む実態が浮かび上がった。(武漢 西見由章)
 最初のコロナ患者が発症したとされる日から1年を迎えた今年12月8日。新型コロナの感染拡大の舞台となった華南海鮮卸売市場は閉鎖されたまま、3カ月前と比べフェンスがより分厚く高くなっていた。北東部の遼寧省から一人で旅行に来たという高校1年の男子生徒(15)が市場の外観を写真に収めていた。「私だけでなく全国の人民が注目している。多くの医師が奮闘し、人々が支援したことに感動した」
 発生源についてどう思うか尋ねると「昨年10月に武漢で開かれた世界軍人運動会と関係があると思う」と答えた。中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は3月、ツイッターで、このイベントを念頭に「米軍が武漢に新型コロナを持ち込んだかもしれない」と主張した。国内での宣伝効果はてきめんだ。
 眼鏡店が集まる市場の2階は3カ月以上前から営業を再開しているが、今も客足は乏しい。海鮮店も大半が郊外に移転し、市場そのものが撤去されるとの噂も流れる。眼鏡店の女性店主は「今月に2年間の賃貸契約を結んだばかりなのに、取り壊しなんてありえない」と憤ってみせた。
 市場を近くのホテルから見下ろすと、周囲の人口密集地ぶりが一目瞭然となる。周囲には高層マンションや官公庁、総合病院、商業施設が所狭しと並ぶ。市場の南を走る大通り「発展大道」を渡って数分歩くと「武漢市疾病予防コントロールセンター(WHCDC)」がある。救急総合棟、疾病総合棟と並ぶ「疾病実験棟」。この建物が、新型コロナの発生源だとする論文が発表されたのは2月6日のことだった。


© 産経新聞社 【新型コロナ発生1年】武漢ルポ 「震源地」異様な沈黙 消された「蔓延は人災」論文
 華南理工大(中国広東省広州)の生物学部門で研究する肖波濤(しょう・はとう)教授はその日、ドイツに本部がある研究者向けサイト「リサーチゲート」に「新型コロナウイルスの考えられる原因」と題した論文を投稿。華南海鮮卸売市場からわずか約280メートルにあるWHCDCの実験室で、動物が飼育され病原体の収集と識別が行われていたことを明らかにした。
 官公庁やホテルの間に建つセンターを訪れると、真新しいオフィスビルの入り口に「実験棟」と書かれていた。外観からは動物実験が行われているとは想像もつかない。
 WHCDCは中国各地で数百匹単位でコウモリを捕獲。研究員が尿や血液をかけられる事例があり、その都度14日間の隔離を行っていた。捕獲数は1万匹近くに上り、新型のウイルスを発見したこともある。中国メディアは「中国はウイルス基礎研究の最前列を走っている」とたたえた。
 論文は、こうした生物標本や汚染されたごみが外部に漏れ、ウイルスの一部が最初の患者に感染したと考えるのが「妥当だ」と結論付けた。だが、肖氏はすぐに投稿を削除した。
 「リスクがある実験室は人口密集地から遠ざけるべきだ」。肖氏の主張は、中国政府がいう新型コロナの「政治化」とは無関係で、純粋に研究の安全性を求めるものだ。だが、その指摘は、新型コロナの蔓延(まんえん)が「人災」であることを意味し、習近平指導部に打撃となりかねない。肖氏は2月下旬、米メディアに「発表済みの論文や報道を基にした推測で、直接の根拠はない」と論文の撤回理由を釈明したが、当局の圧力があったことは明らかだ。
 中国当局が現在、宣伝を強化しているのは、新型コロナに汚染された冷凍食品が海外から持ち込まれ、感染が拡大したというストーリーだ。中国疾病予防コントロールセンターの呉尊友首席専門家は「発症者は(華南)市場の冷凍海産物区域に集中しており、輸入海産物が発生源だろう」と共産党機関紙、人民日報系の環球時報に述べた。当局は10月、山東省青島で輸入冷凍タラの外装に新型コロナが付着していたと発表するなど、外国産冷凍食品からの検出例を盛んに公表している。国内の感染抑制状態も「コロナは海外発」との印象をさらに強めている。
 市場から近くの商業施設に足を延ばすと、8月下旬と比べても多くの飲食店が営業を再開し、活気を取り戻しつつあった。武漢市の1~9月期の域内総生産は前年同期比10・4%減と、主要都市では突出して影響が大きい。居酒屋の経営者は「売り上げはまだコロナ前の3分の1程度だよ」と嘆いたが、目抜き通りも買い物を楽しむ若者の姿が目立つようになっていた。
 それでも、新型コロナが残した傷痕は消えない。武漢で貿易業を営む男性の陳さん(34)は、都市封鎖直前の1月15日ごろに父親(63)が肺炎の症状を発症した。陳さんは「わが家はコネのある方だが、それでも入院できなかった。普通の庶民はもっと緊迫していたはずだ」と振り返る。父は1月末、検査で自宅から病院に移動する際に倒れ、息を引き取った。
 日本の自治会に相当する「社区」の担当者は、死亡証明書に「新型コロナによる病死」と書こうとしなかった。「当時は政府部門が、(コロナの)死者数の増加を望んでいなかった」と陳さん。数時間に及ぶ説得の末、当局側はようやく死因を新型コロナと認め、遺体を専用の火葬場に送った。当時、感染者や死者が過少に発表されていたことをうかがわせる証言だ。
 武漢で父(76)を亡くした張海さん(51)は6月、流行初期に人から人への感染を隠蔽したとして、武漢市政府などを相手に損害賠償訴訟を起こした。武漢市の地方裁判所や上級の湖北省の高裁に訴状を送ったが、理由も説明されず不受理とされた。今は北京の最高人民法院(最高裁)に訴状を送っている張さんは「訴訟が全て不受理でも、政府の責任を追及していく」と悲壮な決意を語った。