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安倍総理の志は死なない!!

コロナ入院格差、自宅死亡を引き起こした都庁「入院調整」の機能不全

持病のある80歳代のコロナ患者が自宅で死亡する反面、自民党の大物国会議員が無症状で入院。都内では「自分のコネでコロナ患者を入院させた」と明かす医師がいるが、都はそうしたケースを把握していない――。子飼いの元都議の選挙応援に多忙だった小池百合子東京都知事は、まず都庁内の入院調整のあり方を抜本的に見直すべきだ。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟、野村聖子)
保健所が調整つかず高齢者が自宅で死亡
石原伸晃氏は無症状で即日入院の謎

「がんばってくださいねえ」――。新型コロナウイルスへの対応を協議するため都庁を訪れたある区の関係者に、小池知事はこう微笑みながら声をかけた。
「それだけか、と。都としてやるべきことをちゃんとやってくれ。病床を確保してくれ」。ある区幹部は落胆を隠さない。
 今でこそ都内の新規感染者数は減少傾向だが、政府が首都圏などに緊急事態宣言を発すると決めた1月7日には2477人に達し、医療体制は逼迫。1月20日には入院患者2893人、自宅療養者8965人、入院・療養等調整中は6799人となった。1月には、糖尿病の持病がある都内の80歳代の男性ら少なくとも8人が自宅療養中に死亡している。
 一方で、自民党元幹事長の石原伸晃衆議院議員が無症状であるにもかかわらず、持病があるとして、PCR検査の結果が陽性と分かった1月22日に即日入院。前日に同僚議員や閣僚と会食していたこともあり批判を浴びた。
 80歳代の糖尿病患者は当初、軽症だったというが入院できずに自宅で死亡し、自民党の大臣経験者が無症状で即日入院できる――。保健所の枠を超えた入院調整は都が担うが、この結果を見れば、十分に機能していないことは明白だ。区関係者に「がんばってくださいねえ」と声をかけた小池知事は果たして、事態の深刻さを理解しているのだろうか。
医師が「私のコネで入院させた」と証言
都は「保健所がやること」と把握せず

 陽性と分かったコロナ患者の容態を見極め、必要に応じて入院させるのは感染症法上、保健所の役割だ。ただ、保健所は感染経路や濃厚接触者の特定といった業務もあり、昨春の第1波から業務過多状態になっているのは周知の事実である。
 また東京23区や政令指定都市、中核市など一定規模以上の市は自らが設置者として保健所を運営し、それ以外の地域での保健所業務を都道府県が担う。都内の場合、23区と八王子市、町田市が保健所を設置し、他の多摩地域や島嶼部は都がカバーする。
 ただ、23区内を見ても大規模な病院は都市部に集中しており、東部には少ない。保健所管内で発生した患者全員を入院させることが難しいケースがあるため、都は昨年、入院調整本部を設置し、保健所の枠を超えた広域での入院調整を担っている。
 それが、冒頭で落胆の念を表した保健所幹部が言うように、十分に機能していないというのだ。一体どうなっているのだろうか。
「保健所が入院先の病院を探せなかったので、私が自分のツテで病院を探して、患者を入院させたんですよ」――。ある都内の開業医はダイヤモンド編集部の取材に対し、こう語った。複数の開業医が、同様の証言をしている。
 開業医が自らの医院でPCR検査を実施し、陽性と判明した場合は地元の保健所に届け出なければならない。保健所は感染症法に基づいて感染者を入院させるため病院を探すことになるが、前述の理由でそれが難しい。
 その結果、医師個人の人脈で入院先が確保できればいいが、人脈を持たない医師のクリニックなどで陽性と判断された場合、感染者は入院できないままとなる。ある都内の医療関係者は「補助金が入るコロナ病床はまさに公共財。診察を受けた医師のコネ次第で入院の可否が決まるような“命の選別”があっていいのか」と憤る。
 果たして、都内で実際にそんなことが起こり得るのだろうか。都福祉保健局医療政策部医療政策課の行本理課長は「保健所がやることなのでわからない」、同局感染症対策部防疫・情報管理課の担当者も「保険所がどのように入院先を確保しているのかわからないので、事例としてないとは言えない」と回答。都は実態をよく把握していないようだ。
北海道は道庁が病床を把握して調整
医師の世界は都職員で左右できない

 同様に保健所の枠を超えた入院調整を行っている北海道は、医師個人の判断では入院を決定せず、必ず道庁が調整するという。道も都と同様、保健所内で入院先を探せない場合に広域の調整を行うが、道内全体のコロナ病床を道庁が正確に把握したうえで、保健所からの届け出に基づき入院先を割り振っている。
 陽性と判明した患者を診察した医師のつながりによって入院先が見つかるケースは、これまでに数例あったが、「入院までに道所属の医師である医療参事が間に入って協議しており、道が介在するという形は変わらない」(道医療体制班の担当者)。
 もっとも、高齢で持病があるなど本来入院すべきコロナ感染者が入院できず自宅療養を強いられ、死亡するケースは都内だけではない。とはいえ「都内は大規模な医療機関が多く、神奈川、千葉、埼玉と比べ、まだ医療資源に恵まれている」とは、都の幹部も認めるところだ。
 医療環境がより厳しい北海道で同庁が強いリーダーシップを取って入院調整を行っているのに対し、なぜ都はそれをできないのか。ある都関係者は「都と保健所の間に入って潤滑剤のような役割を果たすことのできた幹部や職員が、すでに過労で倒れたり、小池知事の反感を買ったりして飛ばされた」と証言する。
 都の入院調整本部には大規模災害などで医療を担う「東京DMAT」の医師も入っているが「業務上の軋轢で、いつ引き揚げてもおかしくない」(都関係者)。
 もっとも都内では「コロナ患者の受け入れに積極的な大学病院と、そうでない大学病院がある」と、ある保健所関係者は打ち明ける。元厚生労働大臣の塩崎恭久衆議院議員は1月13日付のメールマガジンで、厚労省が塩崎氏に開示した資料を基に、1月7日時点でコロナの重症者を10人以上受け入れている都内の病院が4つしかなく、全国の特定機能病院(高度医療を提供すると厚労省が承認した病院で、ほとんどが大学病院)では4人以下が87病院中62病院と多くを占めたと明らかにした。もちろん、特定機能病院もまた都内に多い。
「都は、東京大学医学部を頂点とした医師の世界にパイプを持っておらず、職員レベルでコロナ病床の確保のために医師を動かすのは難しい」(医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師)。
 医師の世界では、かつてより衰えているとはいえ、いまだ関連病院を傘下とした大学医局の威光は根強い。前出の保健所関係者によると「医局の関連病院からしかコロナ患者を受け入れていないところもある」といい、これも都がコロナ病床数の実態を把握できない要因となっている可能性がある。
 もちろん、職員レベルで限界があるなら政治家である都庁トップの出番だが、この人の動きは緊急事態宣言下であっても極めてユニークだ。
子飼いの元都議の選挙戦に馳せ参じ“密”状態
小池知事が実態を本当に把握していない可能性

「一言で申し上げまして、まず私、今回、土曜日をフルに活用して朝の8時から夜の8時まで、樋口(高顕)さんの応援に入っていました!」――。
 千代田区長選の選挙戦最終日だった1月30日夜、JR飯田橋駅西口前でこう叫んだのは、小池知事その人だ。
 現場で取材したフリージャーナリストの横田一氏によると、小池知事が屋根の上で演説した「新型コロナ対策に全力!」と書かれた選挙カーの周囲に人だかりができ、小池氏が嫌う“密状態”になっていた(下写真)。
 小池知事は2月5日の記者会見で、自身が実質的に率いる都議会会派「都民ファーストの会」の都議だった樋口氏の応援に入った理由を「樋口さんはもう、大学生のころから我が事務所の方にインターンとして来ていて、20年の付き合いであります」と説明し、「お集まりいただいた方には、密にならないようにと徹底してお願いをした」と述べたが、横田氏は「小池知事の説明は嘘八百だ」と反論する。
 なお、小池知事が子飼いである樋口氏の応援に駆け付けたのはこの日だけではない。小池知事が入院先の確保のため、政府や医療界を相手に、得意の駆け引きやパフォーマンスを駆使して大車輪の活躍を見せた後の選挙応援ならまだよかったかもしれないが、そうした動きはついぞなかった。
 それどころか、「小池知事には、福祉保健局長などを歴任した梶原洋福知事ら都幹部から正確な情報が伝わっておらず、庁内の機能不全ぶりを本当に把握していないようだ」(都関係者)。本当に把握していないとすれば、それ自体が極めて深刻な問題だ。
 感染力が強いとされる変異株のウイルスは都内でも見つかっている。ワクチン接種が遅れれば、今後さらなる感染の波が訪れる恐れがある。小池知事には都民に自粛を求めるだけでなく、医療提供体制の拡充に今からでも大ナタを振るってほしいというのが、都民の切なる願いなのではないか。