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台湾のコロナ感染増加で浮き彫り、日本政府との「決定的な対応の違い」とは

台湾では昨年12月22日、253日ぶりとなる域内感染が発生した。さらに1月12日には帰国感染者の治療に当たっていた医師の感染が発表され、その後、複数の院内感染から家庭感染へと広がった。医師の感染から始まった域内感染は1月末時点で19例。感染した医師らが勤務する病院がある桃園市では現在5000人近くが隔離処置を受けている。この感染拡大の過程で、PCR検査の陰性判定が必ずしも安全でないこともわかった。この緊急事態に台湾はどう対応しているのかリポートする。(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司代表 藤 重太)
医師と看護師の感染に
病院は迅速な対応
 中央感染症指揮センターは1月12日、30代男性医師および20代女性の域内感染が確認されたと発表した。30代男性医師は、感染症で入院していたアメリカから帰国の60代台湾人男性の治療の際に感染した。一方、20代女性は看護師であったが、30代男性医師との生活接触による感染として、院外感染として扱われた。
 12日の会見では、11日に医師の感染が確認されてから現在までに464人の関係者すべてに検査を行い陰性が確認されたこと、全員3日後に再検査を行うこと、引き続き感染者2人の足取りの確認と接触者への聞き取りなど調査を進めている旨が報告された。さらに病院の完全消毒、濃厚接触者への隔離処置、院内での安全確保、感染者の訪問先の消毒と営業停止など徹底的に感染拡大を防ぐ措置が行われていることも発表された。
 発生確認から半日近くでこの対応と機動力には驚くばかりだが、それでも記者からは「11日の感染確認から発表までの時間が空きすぎてはいないか、この間感染の危険にさらされた市民がいたかもしれない。なぜすぐに会見や発表をしなかったのか」などの厳しい質問が相次いだ。
 中央感染症指揮センターの指揮官である陳時中衛生福利部長(厚労相に相当)は「濃厚接触者は55人、それ以外の400人は検査範囲を拡大して行っている。もちろん、これで完全に防げるとは言い切れないが、できる限りのことをやっている」「今回初めて医師が新型コロナウイルスに感染したが、我々は昨年3月に院内感染を経験している。その経験を踏まえ、しっかり対応していく」と会見を締めくくった。
医療現場を責めず
みんなで守るのが台湾式
 しかし、残念ながら感染は拡大した。1月16日、17日、18日に毎日1人ずつ医療従事者の院内感染が報告された。中央感染症指揮センターは18日、感染源が衛生福利部管轄の「部立桃園病院」であると発表。病院内に「前進指揮所」を開設した。
 さらに19日には、18日に感染した看護師の家族2人の感染も確認された。久しぶりの域内感染が院外にも広がったことで台湾でも緊張が高まった。同日から陸軍所属の33科学兵部隊を投入して、病院を完全消毒。そして、感染者が10人まで増えた21日には病院付近の隣接地区まで国軍の消毒作業が徹底的に行われた。
 1月13日の中央感染症指揮センターの定例会見後、記者からは「感染した医師や病院に油断や気の緩み、管理ミスなどがあったのではないか」ときつい質問が寄せられた。
 これに対し、陳時中衛生福利部長は、「軍人が前線で、どんなに準備(注意)していても敵弾に撃たれることがある。その撃たれた人を責めることはできないはずだ」と病院と医師を守ると同時に、防疫の第一線で戦っている医療従事者への思いやりと理解を求めた。
 この発言に呼応するように、蔡英文総統や台湾政府はホームページやSNS上で「防疫団結、医療従事者を支えよう。みんなでもっと応援して、もっと防疫に協力しよう」などのスローガンを掲げるようになった。そして、部立桃園病院には連日、全国からお弁当や果物などの差し入れが届けられた。
 1月22日には、蘇貞昌行政院長(首相に相当)が、「この瞬間、我々は全員桃園人だ。今こそ国民が団結して、憎いウイルスとの戦いに勝利しよう」と動画を配信し、「全国民で桃園を支えてこそ国も守れる」と訴えた。
院内感染から家庭へそして8人目の犠牲者
PCR検査陰性は安全ではないという事実
 台湾ではその後も域内感染が拡大している。
 2月9日時点で院内感染10人、院外感染11人、うち1人が死亡。台湾8人目の犠牲者が8カ月ぶりに出てしまった。死亡したのは1月14日に院内感染した看護師の家族で、家庭内感染5人のうちの1人だった。犠牲者の女性は80代と高齢で慢性腎臓病、高血圧、糖尿病などの基礎疾患もあり、家族が蘇生措置を望まなかったため、1月28日の発症から翌日には呼吸困難などに陥り同日深夜に亡くなった。
 中央感染症指揮センターの記者会見で、指揮官の陳時中衛生福利部長は「新型コロナウイルス感染症を甘く見てはいけない。恐ろしさを再認識してほしい」と語るとともに、「今回の感染拡大は、すべてファイアウオールの中で発生している。感染源不明の市中感染が発生しているわけではない。過度に恐れる必要はない」とも発言している。
 確かに、1月12日から台湾で発生している域内感染は、現在すべて感染経路が判明している。また、感染者のPCR検査における陽性判定の基準値であるCt値や症状も公表している。例えば下記の通りだ。
 1月14日発症19日認定 50代男性(家庭内感染)Ct値15 症状:せき、鼻水
 1月14日発症19日認定 20代女性(家庭内感染)Ct値14 症状:せき、鼻水
 1月18日発症19日認定 30代女性看護師(院内感染)Ct値29 症状:発熱、喉のかゆみ、頭痛
 1月21日発症24日認定 90代男性患者(院内感染)Ct値15 症状:発熱、肺浸潤
 1月21日発症24日認定 60代女性上記患者介護者(院外感染)Ct値35 無症状
 このほかにも感染経路や感染認定までの検査の経緯など詳しく報告されている。
 これらの発表された資料を見ていて気付いた点がある。1月12日に最初の医師の感染が確認された後、関連の医療従事者はすぐに最初のPCR検査を受け、陰性判定を受けている。
 しかし、その2~3日後には数人にせきや発熱の症状が出て、再検査をしたところ感染が確認された。
 先述の陽性判定となった5人のうちの1人である30代女性看護師の場合、1月12、15、17日の3回のPCR検査で陰性判定だったものの、18日に症状が出て、4度目となるPCR検査で陽性判定を受けている。
 つまり、感染直後の一度の陰性判定では安全は担保されていないのだ。今まで一貫して台湾が、感染接触者や帰国者の初期の陰性判定を信用せず、14日間の隔離処置を行っている理由がこれだ。
 台湾中央感染症指揮センターの専門家、張上淳医師は過去の記者会見で、隔離10日後からは他者に感染させる危険性が著しく低下すること、さらにPCR検査のCt値が27より高ければ陽性判定されても他者に感染させる危険性はほぼないとまで発言しているのである(台湾はPCR検査のCt値が35未満で陽性に判定すると発表されている。ちなみに、日本の国立感染症研究所の「新型コロナ検査マニュアル」ではCt値が40以内で陽性と定めている)。ここにも日本がコロナ対策を台湾から学ぶべき理由があるのではないだろうか。
日本とは異なる
医療従事者らに手厚い支援
 桃園市では現在、4300人前後の市民が隔離処置14日間を受け入れている。また、市の防疫体制の再強化策として「桃園防疫アップグレード」が桃園市長から宣言され、蔡英文総統もSNSで協力、理解を訴えている。
 この宣言は、桃園市の大型集会やイベントの禁止、売り場での試食コーナーの禁止、病院への見舞い禁止、各所の消毒の徹底など17項目あり、域内感染源を根絶するために2月末まで続く予定だ。
 なお、台湾では新型コロナ患者対応の手当として、防疫現場で働く医師に毎日1万元(約3万7000円)、看護師に1勤務1万元、その他関連医療従事者にも月1万元が昨年1月から支給されている。その総額はすでに23億元(約86億円)に到達しており、今後も支給され続けることも発表されている。
 日本の新型コロナ対応病院の経営者に医療従事者への手当について聞いたところ、「昨年9月に感染症対応従事者の慰労金5万~20万円が国から一度支払われただけ」とのことである。地方自治体などで別途検討や実施しているところはあるが、そこにも格差があるようだ。現場はいろいろな意味で疲弊しているとも語った。
 日本では、現在「緊急事態宣言」が出されているが、単に「緊急な事態であることを知らせるだけの宣言」であってはならない。「宣言」には、明確な出口が示されているだろうか。その中で、戦う人たちへの支援は十分だろうか。また、国民に明日への希望を与えているだろうか。