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前米国大使、韓国で受けた人種差別攻撃の衝撃を告白

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
 韓国駐在の米国大使だったハリー・ハリス氏が1月20日、その任務を終え、ソウルを離れた。
 ハリス氏は本来、米軍の太平洋統合軍(現在のインド太平洋軍)最高司令官、海軍大将まで務め上げた生粋の米国海軍軍人だった。同時にハリス氏は日本人を母に持ち、日本国内で生まれたという出自の人物だった。そしてその「日本の血」のため、韓国で米国大使として2年半ほど勤める間に韓国の官民から不当な民族差別の攻撃を受け続けた。
 そのハリス氏が、離任直前の英紙記者との会見で、韓国側からの「人種攻撃」に衝撃を受けたことを告白した。
 同大使の韓国在任中は、米韓関係も朝鮮半島情勢も大きく悪化することはなく、安定が保たれたといえる。その点ではこの英紙もハリス大使の業績を讃えていた。だが「日本人の血」という一点だけで赴任先の国から不当な処遇を受け続けたハリス大使の外交官歴は悲劇だったともいえる。同時に改めて確認されるのは、韓国の反日差別の異様さであろう。
米海軍軍人としての輝かしい経歴
 ハリス氏は1956年、米海軍の横須賀基地勤務の軍人を父に、日本人の女性を母に日本国内で生まれた。だが完全な米国市民として育ち、米海軍士官学校を卒業して以来、主に海軍パイロットとして軍務に就いた。ブルノ夫人も海軍士官出身だった。
 ハリス氏は海軍軍人として湾岸戦争など数々の軍務に就いて優秀な成績を残し、太平洋艦隊司令官、太平洋軍最高司令官などを歴任して、その間に海軍大将となった。ところが太平洋軍司令官として議会の公聴会などで中国の軍事的な膨張への警告を発するようになると、中国政府内外から「ハリス氏が反中の姿勢をとるのは日本人の血を受け継いでいるからだ」というような民族差別丸出しの糾弾を受けるようになる。
 しかしハリス同氏は米国内では超党派から高い敬意を表され、退役と同時にトランプ大統領からオーストラリア大使に任命され、その後、韓国駐在のポストを与えられる。2018年6月に、ハリス氏は韓国駐在米国大使としてソウルに赴任した。
大統領選の結果にかかわらず辞意することを表明
 当時、米国と韓国の間では、在韓米軍経費負担問題に加えて、韓国政府の日本との軍事情報保護包括協定(GSOMIA)破棄の動きをめぐって、トランプ政権が韓国に厳しい要求をぶつけるようになっていた。ハリス氏は当然、米国大使として本国政府の意向を韓国政府に伝えることとなったが、その大使の言動に韓国側官民から感情的な反発が浴びせられた。その反発はいつもハリス大使の母親が日本人であることに絡んでいた。
 ハリス氏がソウルに赴任してから口ひげをはやしたことに対しても、韓国側の活動団体や国会議員までが「ハリス氏の口ひげは、韓国を弾圧した日本の歴代の朝鮮総督を連想させる」と非難した。そしてその種の非難はいつも「ハリス氏は母親が日本人なので韓国に対して特殊な反感を持っている」という類の民族差別的な罵りと一体になっていた。ハリス氏が完全な米国人であり、母国である米国の対外主張を誠実に履行しようとする外交官であるにもかかわらず、である。

© JBpress 提供 ロッテ創業者・重光武雄氏の葬式に参列した在韓国米国大使(当時)のハリー・ハリス氏(2019年1月20日、写真:YONHAP NEWS/アフロ)
 こうしたハリス大使叩きは米国の報道機関によっても大きく伝えられ、米韓関係の新たな摩擦の1つともなった。
 ハリス氏自身は、韓国側が問題にした口ひげは昨年(2020年)7月に剃ってしまった。その理由を問われたハリス氏は「コロナウイルス対策のマスク着用と合わさるとあまりに暑く、息苦しいため」と答えていた。
 ただしハリス氏は昨年4月に、大統領選挙の終わる同年11月には駐韓大使を自発的に退任するという意向を表明していた。大統領選の結果、トランプ政権が続くことがあっても辞任する意向に変わりはない、との言明だった。このハリス氏の辞意表明には韓国側の「日本の血」への攻撃も要因となったようだという観測も出ていた。
 そしてハリス氏はその言葉どおりに辞任した。民主党のバイデン大統領が就任した当日に任地の韓国を離れるという選択は、共和党政権に任命された大使としての一種のけじめだという見方もあった。
「人種差別的な攻撃の激しさには本当に驚いた」
 そのハリス氏がソウルを離任する直前の1月中旬、イギリスの大手紙「フィナンシャル・タイムズ」の韓国駐在記者の長時間インタビューに応じて、種々の感想を語った。まずその内容の要点を紹介しよう。
「歴史のある駐韓米国大使を務められたことは私の誇りだ。私の大使在任中は駐韓米軍の駐留経費負担の問題など米韓両国間の懸案もあり、複雑なやり取りもあったが、全体として米韓両国の信頼の絆を損なうことなく、勤務を終えることができたと思う。その間の体験で痛感したのは、人間同士の関係の重要さだった。私のソウルでの在勤中も、韓国の一部の旧知たちとの絆が役立った」
 ハリス氏は以上のようなことを語りながら、とくに在任中にトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長の間で異例の首脳会談が3回開かれたことについても述懐した。
「米国の大統領と北朝鮮の最高指導者とが1対1で会談すること自体、私には想像もできなかった。私は少年時代からサイエンスフィクションを読むことが大好きで、世界情勢についても非現実が現実になるという夢想が好きだった。しかし米国と北朝鮮の首脳会談というのは、その夢想の域も越えていた。そんな異例な出来事に当事者の一端として加われるのは嬉しい出来事だった」
「とくに印象が強烈だったのは、トランプ大統領と金正恩委員長との3回目の会談だった。両首脳が南北境界線で会談するという計画が突然私にも告げられ、在韓米国大使館は異例の緊急事態となった。全館をあげて緊急会談の準備に備えたが、私自身にとってもきわめて貴重で類例のない体験となった。首脳会談がそれなりに順調かつ円滑に進むことができたのは幸いだった」
 そのうえでハリス氏は、韓国で自分の「日本の血」を理由に攻撃され、その激しさに衝撃を受けていたことを告白した。
「一部の人たちからの人種差別的な攻撃の激しさには本当に驚いた。韓国側の日本への歴史的ともいえる反発がこれほどひどいとは、まして私自身が個人としてそこまでの標的になるとは、予期していなかった」
 韓国側のハリス大使への攻撃が不当な偏見や差別だったことはいうまでもない。そんな攻撃の的となったハリス氏は、韓国でさぞかし不快な日々を過ごしたことだろう。
 しかしフィナンシャル・タイムズのこの記事は、ハリス大使の業績の総括として以下のような評価を述べていた。
「ハリス大使の業績は、彼の任期中に起きたことよりも、起きなかったことによって、終局的には高く評価されるかもしれない。トランプ氏と金正恩氏は戦争を起こさなかった。米国は北朝鮮を核兵器保有国としては受け入れなかった。在韓米軍は撤退しなかった。韓国は日本との軍事情報共有の協定を破棄しなかった」
 だからハリー・ハリス氏は韓国駐在の米国大使としての任務を立派に務め上げたのだ、と記事は結んでいた。


駐韓大使なんて罰ゲームだからなw
ハリス氏は責任感をもって立派に務めた。