Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

森が女性蔑視で辞任なら北京五輪はボイコットが筋

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)


 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が自らの女性差別とも受け取れる発言の責任をとって辞任し、後任にオリンピック担当大臣だった橋本聖子新会長が選出された。


 森前会長の失言に、ここぞとばかりにあちらこちらから批判の声が上がり、次期会長の選出に日本中が(少なくともメディアは)大騒ぎしての交代劇だった。


 これで焦点は、このコロナ禍で、今夏のオリンピック・パラリンピックが予定どおりに開催できるのか、するとすればどのような条件で開催されるのか、そこに移る。


五輪開催は「コロナに打ち勝った証」?
 報道各社の世論調査では、概ね8割が中止もしくは延期を支持しているとされる。


 現在開会中の国会の施政方針演説で菅義偉首相は、こう明言している。


「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります」


 この発言は、菅首相の就任直後から繰り返されてきたものだ。昨年10月23日に就任後はじめての東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部を官邸で開き、そこでも、


「東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として開催し、東日本大震災の被災地が見事に復興を成し遂げた姿を世界へ向けて発信する場にしたいと思います」


 と、この時から同じことを述べている。


“政治家は言葉が全て”と言われるが、この発言の意味するところの責任は重大だ。


 この状況下でオリンピックが中止もしくは延期となれば、それは逆説的に「人類が新型コロナウイルスに打ち勝てなかった証」となるからだ。「無観客」での開催や、徹底した検査と管理で選手を招いたとしても、それが「打ち勝った証」となるだろうか。むしろ、ウイルスを「避けて通った」というほうが正しい。いや、そればかりではない。


 東京大会が中止となれば、次にやってくるオリンピックは来年2月の北京冬季大会になる。仮に再延期となったとしても、その前の東京大会開催は難しい。それで北京大会が平然と開催されるようなことになれば、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」が持って行かれることになる。発生地のはずの中国が「打ち勝った証」の場所になってしまう。


北京五輪にボイコットの動き
 この北京大会のボイコットを求める動きが出ていることは、すでに報じられている。


 米国では、トランプ政権の最終日だった1月19日に滑り込むように当時のポンペオ国務長官が、中国の新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒少数民族への「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を認定している。バイデン政権もその姿勢を変えていない。そんな場所でのオリンピック開催は、明らかにオリンピックの精神、理想に反する。


 ジェノサイドとオリンピックと言えば、真っ先に1936年のベルリン大会が想起される。ヒトラーのナチス政権下でのこのオリンピックは、国威発揚とプロパガンダに利用されたことで知られ、その後のホロコーストの発覚が、欧州では苦い歴史として残る。このベルリン大会で聖火リレーがはじまり、そのコースを遡るようにナチス・ドイツが欧州に侵攻していったことは以前にも書いた。


(参考記事)「失言王」森会長の首をすげ替えても何も解決しない 歴史を見れば分かる、オリンピックは綺麗事ばかりじゃない


https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63990


 今月16日には、ポンペオ前国務長官が米国のニュース番組に出演。このベルリン大会を引き合いに「中国にプロパガンダ上の勝利を許してはならない」として、開催地の変更を訴えている。


 すでに昨年から、世界各地の160以上の人権団体が、IOC(国際オリンピック委員会)に北京開催の見直しを求める共同書簡を送っているとされ、英国、カナダ、オーストラリアでも政治家がボイコットについて言及。


 米国上院では1月22日に、共和党の7議員が開催地変更を求める決議案を提出。


 下院でも2月15日に共和党議員が、IOCが北京に代わる開催地を見つけられないのなら、米国はボイコットするよう求める決議案を提出するなど、開幕まで1年に迫ったこの時期にその流れは加速している。


ジェノサイド指摘される国に選手団送り出すのでは筋通らない
 オリンピックの政治利用と言えば、ベルリン大会だけに限らない。東西冷戦時代には、1980年のモスクワ大会、84年のロサンゼルス大会と、雪解けの効果を期待してあえてIOCが開催地を並べたのだが、79年のソ連のアフガニスタン侵攻を受けて、当時の米国のカーター大統領がモスクワ大会のボイコットを呼びかけ、日本を含む西側諸国がこれに呼応している。その報復に東側諸国はロサンゼルス大会をボイコット。


 ところが、このロサンゼルス大会が初めての商業オリンピックと呼ばれるようになる。それまでは、オリンピックの大型化と共に大きな赤字を生み出し、開催地の負担となっていたものを、この大会からショービジネス化したことで黒字に転換。オリンピックの商業利用がはじまった。延期された東京オリンピックの開催時期を7〜8月からずらせないのも、放送権を持つ大型スポンサーである米国テレビ局の意向であることも、オリンピックがいまやスポンサービジネスとなっていることの証だ。


 陰に日向に政治と商売がオリンピックには絡む。そこに今回の組織委員会会長の交代劇には、多様性とジェンダーギャップが絡んで日本は騒然とした。女性差別する組織委員会会長のもとでは、オリンピックなんてやっていられない、という非難囂々からはじまり、女性会長の誕生で、これで日本がようやくオールドスタイルから抜け出し、世界標準に追いつけると称賛の声すら上がる。


 だとしたら、ジェノサイドというもっとも深刻な人権問題が指摘される22年の北京オリンピックに、日本が選手を平然と送り込んでいたら、おかしい。東京大会を前に中国を刺激する声を上げられないのはわかるが、組織委員会会長の交代人事の正当性に従うならば、もはや日本もボイコットの足並みから外れられなくなった、ということだ。


G7は本当に東京五輪開催を支持したのか
 20日未明、主要7カ国(G7)のオンライン首脳会議(サミット)を終えたあとの菅首相は、記者団に向かってこう述べている。


「東京オリンピック・パラリンピックでありますけれども、今年の夏、人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として、安全・安心の大会を実現したい、そうしたことを私から発言いたしまして、G7首脳全員の支持を得ることができました。大変心強い、このように思っています」


 だが、G7の首脳声明では、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の結束の証しとして今年の夏に開催するという日本の決意を支持する」と明記されている。あくまで「決意」が支持されているだけだ。そこに東京開催に懐疑的な本音が透けて見える。それよりも、中国の覇権主義に対抗すべく、その先にある北京にこそ世界の政治が絡みはじめている。