Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

親中にあらず 本音は中国「大嫌い」のミャンマー

(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)


 ミャンマー・ヤンゴンの中国大使館の前で数百人のデモ隊が「ミャンマーを支持せよ。独裁者を支持するな」と中国語と英語で書かれたプラカードを掲げて抗議活動を行ったというニュースが報じられた(2021年2月11日、ロイター)。


 多くのミャンマー人が、今回のクーデターに中国が関わっていると思っている。ミャンマー人だけではない。世界の多くの国が中国の関与を疑っている。


 米中対立が激化する中、中国にとってミャンマーの重要性が増している。それはミャンマーに石油パイプラインを造れば、マラッカ海峡や南シナ海が封鎖されても、中東からタンカーで運ばれた石油をミャンマーで陸揚げして中国に運び入れることができるからだ。


ミャンマー経済を牛耳る華僑
 米国のバイデン政権はクーデターを非難したものの、それほど強い制裁を課さなかった。強く制裁すると、ミャンマーを中国側に追いやってしまうと考えたからだ。


 しかし、日本では意外に知られていないがミャンマーは親中国ではない。ミャンマーの人々は中国を恐れるとともに嫌っている。


 その最大の原因は、華僑がミャンマー経済を牛耳っていることにある。敬虔な仏教徒であるミャンマー人は一般的に金儲けが苦手である。そんなミャンマーで、いつのまにか華僑が経済の実権を握るようになってしまった。華僑はミャンマーの人口の2%ほどに過ぎないが、彼らが経済の98%を握っているなどと言われている。


 ただ注意しなければならないのは、華僑は、中国共産党が派遣した者ではなく、その支持者でもないことだ。彼らの親や祖父母、その前の世代が中国から東南アジアにやって来た。だから、現在生きている華僑と中国の間に直接の関係はない。中国が大国になったことから、中国語が話せる華僑は中国と仲良く商売しているが、本音では台湾を支持している者も多い。中国共産党と華僑は一枚岩ではない。


 とはいえ、ミャンマー人にとっては華僑も中国共産党も同じように見えてしまう。そんなわけでミャンマー人は中国を嫌っている。


中国とミャンマーの複雑な関係
 少数民族問題もミャンマーと中国の関係を複雑なものにしている。それは少数民族の中でも有力なカチン族やシャン族が、中国との国境近くの山岳地帯に住んでいるからだ。中国はカチン族やシャン族の分離独立運動を陰で支援していると言われている。


 現在、ロヒンギャ問題に注目が集まっているが、ミャンマーが統一を維持する上ではカチンやシャンの方がより大きな問題である。カチン族はカチン独立軍を持っており、現在もミャンマー北部山岳地帯はカチン独立軍が実効支配している。


 中国が水面下で少数民族への支援を強化することによって武装勢力が力を増すと、ミャンマーの治安は一気に悪化する。少数民族への援助は中国がミャンマー政府を揺さぶる道具になっている。


 アウン・サン・スー・チーは政権の座につくとすぐに中国を訪問した。それは中国に友好的な感情を抱いているからではない。中国のご機嫌をとらなければ政権を維持できないからだ。


 ミャンマーの軍部も心の底では中国に接近したいわけではなく、中国に対して激しい敵対心を抱いている。だから筆者は今回のクーデターに中国が直接関与している可能性は低いと考えている。現在、中国はミャンマーのクーデターに対して沈黙を守っているが、それは、この機会に軍部をなんとか取り込むことができないか考えているからだろう。


クーデターが起きた本当の理由
 ミャンマーは袋小路に入り込んでしまった。人口の約30%を占める少数民族が分離独立を求めているが、国土の約半分を占める山岳地帯をテリトリーにする彼らが独立すれば、ミャンマーは領土の半分を失うことになる。それを防ぐためには軍の力が必要になる。しかし軍による独裁は欧米の制裁を招いてしまった。そんな状況の中で、ミャンマーは経済面で中国に傾斜せざるを得なくなっていた。


 だが、大国になった中国がミャンマーの資源を漁り始めると、軍部もそれを容認することができなくなった。中国の影響力を減じるためには、欧米や日本との関係を強めるしかない。多くの人がそう考えたために、軍部も民主化に舵を切らざるを得なくなった。これが、アウン・サン・スー・チーが政権の座についた真の理由である。


 しかし、スー・チーは政策遂行能力が低く、少数民族の反政府活動すら抑えることができなかった。彼女が政権の座について以降、山岳地帯の治安は確実に悪化している。今回のクーデターは、そんな彼女に対して軍部がノーを突きつけたものと言える。


 ただ、クーデターを起こした真の理由はそれではないだろう。全ての大きな政治的決断にはお金が絡んでいる。先にミャンマーの経済の98%は華僑が握っていると述べたが、それは軍が華僑と組んで大きな利益を享受してきたことをも意味する。だが、その利権構造は民主化が進行する過程で、少しずつ侵食されてしまった。その利権を取り戻すことがクーデターを起こした最大の理由と考えられる。米国はクーデターを受けて、軍が関与する企業に制裁をかけたが、それは軍が経済活動によって利益を得ていた証左でもある。


中国との関係を深める可能性は低い
 ミャンマーの人々は中国を嫌っているが、そうした感情はここ10年ほどの間でさらに強くなった。それは、中国があからさまにミャンマーの資源を簒奪(さんだつ)しようとするからだ。支配欲を剥き出しにすることは習近平政権の欠点と言える。


 華僑は福建省や広東省潮州の出身者が多く、その多くは客家(はっか)など中国で差別されてきた人々である。彼らは東南アジアに来ると黙々と働き、気がつくと現地の経済を牛耳るようになっていた。そのやり方は実にソフトである。


 一方、習近平政権は途上国の人々に対して居丈高な態度で接する。そして資源を中国に持ち去ろうとする意図が傍目にも見えてしまう。それが現地の人々の反発を招かないわけはない。


 今後、ミャンマー軍部が欧米と断交して中国との関係を深める可能性は低いと考えられる。軍部は一時の怒りに任せてクーデターを決行してみたものの、今後どうしてよいか分からなくなってしまった。このような現状を正しく認識できれば、日本は今回のクーデターをチャンスに変えることも可能である。