ネコウヨの散歩

ネコと憂国

静岡リニア批判、隣県・市町と比べ際立つ過激度

「ゴールポスト」動かしてJR東海を封じ込め!
リニアを開発中の中国に忖度して日本のリニアを妨害か?

2021年02月22日


JR東海の小牧研究施設にあるリニア車両の試験装置

超電導リニアの走行試験は山梨県内にある実験線だけで行われているわけではない。これまで東海道新幹線の数々の車両を開発してきた愛知県小牧市内にあるJR東海の研究施設でも、リニア車両の走行試験を行っている。JR東海は約66億円かけ、車両を実際に走行させなくても試験ができる装置を昨年3月、小牧研究施設内に建設した。
実際のリニアと同じように磁力によって浮上し、車両走行を模擬した状態で実車体の振動を再現する。これによって、山梨実験線走行の乗り心地をより効率的に確認できる。さらに山梨実験線では難しい地震や機器故障といった異常状態を人工的に作り出し、その対処法を構築することもできる。JR東海リニア開発本部の寺井元昭本部長は、「東海道新幹線の乗り心地に近づけたい」と意気込む。
今後は乗り心地の改良だけでなく、超電導磁石の耐久性の検証や、走行中の異常やその予兆を検知する状態監視システムの試験を行っていきたいという。
開発は順調に進んでいるが…
順調に開発が進むリニア車両と裏腹に、膠着状態が続くのがリニアの静岡工区だ。トンネル工事で発生する湧水が大井川中下流域の利水者や南アルプスの生物多様性への影響を与えかねないとして、静岡県が工事を認めていない。この状況を打開すべく、昨年4月から国土交通省の有識者会議が水資源問題を議論しており、今後は生物多様性についても議論する予定だ。
2月7日に第8回の会議が開催され、JR東海は県境付近でトンネルを掘る約10カ月間に山梨県側に流れる水の量について、JR東海と静岡市の2つのモデル計算した結果を示した。JR東海モデルでは約300万トン、静岡市モデルでは約500万トンという試算だ。
大井川の水が県外に流出すると中下流域の利水者が不利益を被りかねないという理由から、静岡県の川勝平太知事は「1滴も譲らない」と反対する。しかし、JR東海は、県内のほかの工事区間から導水路トンネルを使って大井川に戻す水の量が山梨県側に流れ出る量を上回るため、中下流域の河川流量は維持されると説明した。
また、中流から下流にかけての河川水量は年間約19億トンで年によってプラスマイナス9億トンの変動があることから考えると、県外への流出量は全体から見れば誤差の範囲といってもよい。

2月7日に開かれた国交省の第8回有識者会議
委員からは、工期が延びるリスクや工期が渇水期と重なった場合のリスクを懸念する声が上がったが、有識者会議の座長を務める福岡捷二・中央大学教授は「パズルのピースが埋まってきた」と発言、今後の方向性を示す「中間取りまとめ」の作成もほのめかした。会議の内容を総括する座長コメントでは、「河川流量は維持される」ことが確認されたとして、今後、追加データの提示をJR東海に要求した。
「重大な問題」副知事の指摘
水資源問題の解決に向かって大きく前進したといえる今回の有識者会議だったが、会議終了後の記者会見で、オブザーバーとして会議を傍聴していた難波喬司副知事がかみついた。「JR東海の資料と座長コメントとそれについての国交省の解釈には重大な問題がある」。
難波副知事の説明によれば、導水路トンネルから地下水を強制的に出すのだから上流にある排出口での流量は増えるが、その分、下流に行くほど地下水が減る可能性があるという。「下流側の河川流量が維持されるという説明は正確性を欠き、納得できない」と、難波副知事は述べた。
「オブザーバーなので本来は発言すべきではないが」と、自身の立場をわきまえていた難波副知事のあえての発言には重みが感じられた。ただ、記者会見終了後に、有識者会議の事務局を務める江口秀二技術審議官に「難波副知事の発言は事実か」と尋ねると、「話を聞いたばかりなのでなんとも言えないが、過去に議論済みなのではないか」とのことだった。
地下水の流れだけを見れば、難波副知事の指摘には説得力がある。しかし、昨年10月27日に開催された第6回有識者会議において、大井川中下流域の地下水は大井川の河川水や現地への降水なども供給源であり、上流の地下水だけから供給されているわけではないことが委員の間で確認されている。それを承知した上で発言しているとしたら、難波副知事が有識者会議の議論に不信感を抱いているのは明らかだ。
「静岡県お得意の“ムービングゴールポスト”がまた始まったよ」――。
難波副知事の発言を知ったJR関係者がため息をついた。ムービングゴールポストとは、サッカー競技から派生した隠喩である。交渉して妥結点が見えそうになると、相手が合意条件を一方的に変更して、さらに要求する行為を指す。外交やビジネス交渉などでこのような“ゴールポストを動かす“例はしばしば見られる。
リニアをめぐる静岡県の例でいえば、リニアの環境影響評価準備書について県は、2014年3月にトンネル掘削で発生する湧水を「技術的に可能な最大限の漏水防止対策と鉄道施設内の湧水を大井川へ戻す対策をとることを求める」という知事意見を出した。それを受け、JR東海が導水路トンネルを設置して、トンネル湧水をポンプアップして「大井川に戻す」と表明すると、県は2017年4月に環境影響評価書の事後調査報告書の知事意見で、トンネル湧水について「全量を恒久的かつ確実に大井川に戻す」というより強い表現に変えた。
そこで、JR東海は2018年10月に「原則としてトンネル湧水の全量を大井川に流す措置を講じる」と表明したが、全量戻しの準備が整うまでの間は湧水が県外に流出することを理由に、川勝知事は「(大井川の水は)1滴も譲らない」と発言。さらに、「JR東海は工事凍結を表明すべきだ」と言い出すなど、静岡県の要求レベルはどんどんエスカレートしている。
有識者会議の出す結論に静岡県が同意するかどうかも気がかりだ。会議設置前、静岡県は「メンバーの人選が中立的ではない」として、当初予定されていた人物を外すよう要求、代わりに県のリニア専門部会の委員を兼ねる人物2名を有識者会議に送り込んだ。県が納得するメンバーがそろったことによって、難波副知事は「われわれが必ずしも納得できないような結論が出てきてそれは少し違うかなと思っても、そういう人がおっしゃるならある程度はしょうがないですねと、受け入れる素地ができる」と話した。
水より難関「生物多様性」問題
しかし、これまでの流れを見ていると、有識者会議の結論を県が「わかりました」と受け入れるようにはとても見えない。「納得できない」として約束を反故にする可能性はありそうだ。
水資源問題よりも厄介なのが、その後に有識者会議で議論される予定の生物多様性の問題だ。「水の問題は水が減るのか減らないのかという見解の違いを評価するだけだが、生物多様性は現地調査をしっかりやっていただかないと議論しようがない」と難波副知事は話す。JR東海が行った現地調査は十分ではないというが県のスタンスだ。
だが、視点を変えると気になる点もある。リニアは2014年に登録承認された「南アルプスエコパーク」のエリアを通過する。このエコパークは山梨、長野、静岡の3県の10市町村にまたがる。
静岡県は「南アルプスは人類の共有財産。みんなで保全しないといけない」(川勝知事)として、生物多様性を守るための詳細な議論を求めている。一方で、山梨、長野両県では環境影響の問題はすでにクリアされ、工事が始まっているのだ。
山梨県と長野県はJR東海が行った環境影響評価を問題なしとしたにもかかわらず、静岡県だけが不十分だと批判するのはなぜだろうか。考えられる理由の一つは、山梨県や長野県に比べ、静岡県内における環境影響評価がおろそかになっている可能性だが、JR東海は「どの県でも環境影響評価は同じようにしっかりと行っている」と断言する。

南アルプストンネル山梨工区の現場付近=2015年12月
もう一つ考えられる理由は、山梨県と長野県は静岡県に比べると、環境への姿勢が甘いということだ。この見方を山梨、長野両県の担当者は、「静岡県さんと比べて南アルプスの環境問題をおろそかにしているということは絶対にない」(山梨県リニア交通局)、「南アルプスの環境を守りたいという姿勢は静岡県さんと同じ」(長野県リニア整備推進局)と、きっぱりと否定する。
両県はJR東海の環境保全措置を入念にチェックし、工事が環境に与える影響を定期的にモニタリングして、もし課題が生じた場合には、その都度対処するという。10月27日の有識者会議では大東憲二委員(大同大学教授)が、「調査をしながら評価予測し、工事も行い、そのフィードバックを繰り返しながら、最終的に環境に影響の少ないものを作り上げていくのが本来の環境影響評価の考え方だ」と述べている。山梨、長野両県はこの考え方に沿ったものだ。
静岡「市」はどう考えている?
もうひとつ気になる点がある。南アルプスエコパークのうちトンネル工事が行われる周辺エリアは静岡市の管轄だが、実際にエコパークを管理運営する静岡市はJR東海に対する県の厳しい姿勢をどう考えているのだろうか。この疑問を市企画局の担当者にぶつけたところ、直接の回答を避けたものの、代わりにこのように発言した。「市とJR東海は2018年6月にリニアの建設と地域振興に関する基本合意書を締結している」。
JR東海と静岡市は、JR東海が工事車両通過に伴う交通安全の確保や地域振興を目的に約3.7kmのトンネルを新設し、市は道路拡幅などの改良を行うことで合意済み。トンネルは生活道路としての活用も期待され、地元住民が建設を求めていた。JR東海にとっては工事が円滑に進み、市にとってはJR東海の負担でトンネルを造ってもらえるため、双方にメリットがある。
「合意書を締結している」という市の回答は、南アルプスの環境保全は重要な課題ではあることは認識していると同時に、リニア工事は進めるべきという意味に取れる。つまり、山梨県や長野県と同じスタンスと見てよい。

国交省との意見交換会に出席した島田市の染谷市長
2月21日には、国交省と流域10市町の意見交換会が島田市で開かれた。住民の理解と協力が得られなければ着工しないことが双方の間で確認された。
会談後の記者会見で、染谷絹代・島田市長はトンネル工事の湧水が県外に流れ出ることについて問われると、「全量戻しについては議論の途中にある。まだコメントすべきではない」と答えた。また、北村正平・藤枝市長は、川勝知事のリニア凍結要求について、「もっと適切な言い方があるのではないか」と苦言を呈した。当事者であるはずの流域市町の代表たちの発言は、県よりもはるかに冷静だった。
このような隣県、流域市町の姿勢と比べると、静岡県の発言の過激ぶりが際立つ。リニア開業の遅れは静岡県のせいだと誤解されることを県は心配している。もし、全国に県の主張を正確に知ってほしいのであれば、過剰な発言を慎み、首尾一貫した説明が必要だ。