Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米国、2022年の北京冬季五輪をボイコットか

JBpress 提供 対中強硬策のため米国の国防費が大幅増額される可能性がある(写真は米国防総省)
人権・民主主義を主軸に置いた功罪
「君子豹変する」
「Soft on China」(中国に対して軟弱)とか「Panda Hugger」(パンダを抱きしめる親中派)などと言われてきたジョー・バイデン氏は、大統領になるや対中強硬路線を打ち出した――。
 ニューヨーク・タイムズはじめ主要メディアはそう書きたてた。
 2021年2月4日、米国務省で行った就任後初の外交演説でバイデン氏は、次のように中国を呼んだ。
「中国はわれわれにとって最も手ごわい競争相手だ(China is our serious competitor)」
「米国はヒューマン・ライツ(Human Rights=人間の権利と尊厳)、知的財産権、グローバル・ガバナンス*1(Global Governance=GG、グローバルな統治・管理・支配)で中国と対抗していく」
*1=すでにグローバルに合意している事項を執行させる権力が存在しない場合、一国、一地域に対して影響力を与える問題の解決のために国境を越えた主体が政治的相互作用。
(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/02/04/remarks-by-president-biden-on-americas-place-in-the-world/)
 ドナルド・トランプ前大統領は、当初は訪米した習近平国家主席を厚遇し、「私の親しい、素晴らしい友人」などと言っていた。
 ところが、政権中盤頃からは中国への強硬姿勢を見せ始めた。
 外交も商売と考える「そろばん勘定」から、対中貿易の大幅な赤字解消を目指して一方的な関税引き上げに踏み切った。
 その結果、米中通商戦争を引き起こした。
 新型コロナウイルス感染では中国がウイルスの発生地だと断定し、「チャイナ・ウイルス」「カンフルー」(カンフー=中国拳法とフルー=インフルエンザを掛け合わせた造語)だと中国を非難。
 トランプ氏は、マイク・ペンス副大統領を使って中国共産党、中国人民解放軍を徹底的に批判した。
「タフ・オン・チャイナ」(対中強硬スタンス)は多分に大統領再選を目指す選挙戦略の一環として利用された。
 米国民の7割以上が嫌中感情を抱く中でこの戦略は、「ソフト・オン・チャイナ」の民主党批判には功を奏した。
 選挙選では中国寄り(?)のバイデン氏を揶揄して「Beijin Biden」と語呂合わせたキャッチ・コピーまでSNS上に流した。
 だが、対中外交の実態をみる限り、トランプ氏がレトリックで中国をいくら叩こうと習近平政権はビクともしなかった。そしてトランプ・習近平時代は期限切れとなった。
グローバル・ガバナンスは内政干渉か
 バイデン氏の外交演説をどう読み解くか。
 Human Rights(ヒューマン・ライツ)*2には、日本語でいう「人権」というよりももう少し広範囲な意味合いがあるような気がする(筆者の独断的な見方であるかもしれないが)。
 つまり、ヒューマン・ライツには、国家権力による反政府・反対勢力、少数民族への抑圧、弾圧、拘束、女性蔑視やセクハラ、人身売買なども含まれている。
*2=この拙稿では以上のような意味合いを含んだ上で、便宜上、「人権」とした。
 バイデン演説では、この「人権」が後に続く「グローバル・ガバナンス」と密接なつがりを持っている。
 つまり、物理的にも国際法的にも、米国はじめ第三国には手の届かない新疆ウイグル自治区やチベット自治区での中国政府によるジェノサイドや強制収容、人種の浄化に対し抗議。中国がどこまでも無視するのであれば、対抗措置をとる、といっているのだ。
 香港問題についてもバイデン氏は同じスタンスだ。
 国際法上、中国が2047年まで守らねばならない香港の「一国二制度」という高度の自治に違反する習近平政権。香港での民主化運動弾圧も、この「人権」の範疇に入る。
 中国の主張する内政干渉など論外だという米国の理念なのだ。
 トランプ政権があまり声高には主張しなかった「人権」は民主党という政党の党是なのである。これについてバイデン政権は大真面目なのだ。
 中国が態度を変えなければ、バイデン政権は短期的には何をするのか。
 アントニー・ブリンケン国務長官は2月16日の米公共放送(NPR)のメアリー・L・ケリー記者とのインタビューでこう明言している。
「中国から米国に入ってくる製品やテクノロジーを厳しく監視している」
「新疆ウイグル自治区で中国当局から強制労働を強いられているウイグル人が作った生産品があるかどうかを徹底的に調べている。それらの輸入は全面禁止する」
「香港からの輸入品やテクノロジーも同じだ。全面禁止だ」
 ケリー記者は、これを受けて「2022年の北京冬季五輪ボイコットをすべきだ、との声も米国内から出ているが、どうか」とただした。
 ブリンケン長官はこう答えた。
「その他の事案が表面化すれば一つひとつチェックする。我々はなすべき多様なことをやらねばならない」
 米五輪関係者は、この発言をこう受け止めている。
「人権問題で進展がなければ、米国は2022年2月4日から17日間、北京で開かれる冬季五輪をボイコットする可能性をほのめかしたものだ。北京冬季五輪ボイコットは米国内だけでなく、カナダでも表面化している」
(https://www.gpb.org/news/2021/02/16/transcript-nprs-full-interview-secretary-of-state-tony-blinken)
天安門制裁を最初に解いたのは日本
 米国が目論む同盟国統一戦線には脆さがある。
 この共通の主柱に「人権」と「民主的な価値」を置いていることに問題はないのだろうか。そう簡単に足並みがそろうか、どうかだ。
 特に底辺では儒教思想で結びついている東アジア諸国には欧米とは異なるスタンダードがある。中国に対する対話や交渉の仕方は明らかに違っている。
 過去に実例がある。1989年の天安門事件に対する日本の対応だ。
 人権抑圧だとして欧米諸国は対中経済制裁措置をとった。日本も最初は同調していたのだが、真っ先に禁を破ったのは日本だった。
 最初に訪中したのは日本の海部俊樹首相(当時)だった。これを受けて日本は天皇の訪中を実現させた。
(中国の銭其琛副首相(当時)は回顧録の中で「天皇訪中は西側の経済制裁を打破する最も良い突破口だった」と明かしている)
 このへんをバイデン氏とブレーンはどう考えているのだろう。
対中戦略責任者の妻は中国人
 バイデン氏は、外交演説の6日後、国防総省に赴き、演説した。
「中国の脅威に対抗して平和を堅持するためにインド太平洋地域や世界で米国の国益を守らねばならない」
「そのためには各省庁の横断的な取り組み、議会における超党派的協力、さらには強い同盟関係が必要だ」
 こう述べて軍事面での対中戦略を再点検し、見直すよう指示した。
 カマラ・ハリス副大統領は「中国問題に関する明確な道筋を描くための一助になる」と表現している。
 見直すと言ってもトランプ政権が立案し、実施してきた対中戦略をひっくり返すわけではむろんない。
 岩盤のような制服組と軍事シビリアンからなるペンタゴン・エスタブリッシュメント。政権交代などではその国防哲学はビクともしない。
 それを百も承知でバイデン氏は、制服組、シビリアン計15人で構成されるタスクフォースを作った。
 バイデン氏は4か月の間に再点検するよう命じた。
 その長に民主党の国防政策立案に携わってきたエリー・ラトナー博士(44)を抜擢した。
 プリンストン大学を出てカリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得している。バイデン政権発足とともに国防長官補佐官に就任している。
 カート・キャンベル上級調整官とはリベラル系シンクタンク、「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)で一緒に研究活動をしてきた。
 2018年には共著の報告書「The China Reckoning: How Beijing Defied American Expectations」(中国の思惑を推し量る:中国はいかに米国を侮るか)を発表している。
 この中でキャンベル、ラトナー両氏はこう言い切っている。反省の弁だ。
「米国が過去40年にわたり行ってきた対中関与政策は失敗だったと、トランプ氏が非難しているのは間違いではなく、正しい指摘だ」
 バラク・オバマ政権の対中政策を立案していたキャンベル氏らは、この頃からすでに自分たちの対中政策の誤りを認めていたのだ。
(https://www.uscnpm.com/Uploads/kindeditor/file/20210116/Campbell%20Sullivan%20Ratner%20Rapp-Hoope%20Doshi%20articles.pdf)
 保守派軍事関係者が異常な関心を示しているのは、同氏の奥さん、ジェニファー・ヤンさん(42)が中国生まれ、中国育ちということ。
 幼い時に渡米し、プリンストン大学を出たのち、ペンシルバニア大学大学院で修士号を取得している。
 ジェニファーさんの父親、マイケル・ヤン氏は上海在住の企業投資家、母親のベネッサさんはニュージャージー州在住で、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのコンピューター・プログラマー。
 保守派は、中国人妻を持つラトナー氏に対中軍事戦略の見直しをさせるのは情報管理上、危なくないのかという危惧の念を抱いている。
 米国務省関係者の一人は筆者にこう指摘している。
「ラトナー氏は中国について大学や大学院で学術的な研究をしたことはない。専門はアフリカだ。中国語は話せないし、読み書きもできない。中国語の文献は奥さんが訳しているらしい」
「父親は上海を拠点に世界規模で商売をしているようで、当然、中国共産党幹部とも知遇があるはずだ。極秘情報が娘を通じて中国側に流れる危険性はないのかね」
 バイデン氏の脇の甘さや過剰な仲間意識重視を懸念しているのだ。
 さらにタスクフォースなどといった仰々しい名前を冷やかにみる向きもある。
 対中戦略を見直すのであれば、国防総省にある既存の組織、部門でやればいいではないか、という指摘だ。屋上屋ではないのか。
 ましてこれから4か月をかけて何をするというのか。「中国の危機は」は「今そこにある現実の危機」ではないのか。
 対中戦略を検討するタスクフォースは、米議会の外交委員会にもあったし、直近では下院共和党も設置していた。
 共和党下院議員軍事、軍事外交など11の委員会メンバー15人でタスクフォースを設け、専門家やビジネスパーソン、外交官ら130人から意見聴取。2020年10月には報告書を公表している。
 この報告書は、中国共産党による人権抑圧・弾圧、中国人民解放軍による海洋権益拡大活動などに警鐘を鳴らし、米国としては台湾との経済・安全保障の強化、国防費の3%から5%引き上げを提唱している。
「中国は敵対国でも、敵国でもない」
 バイデン氏の外交演説に戻る。
 軍事外交専門家が注目しているのは、中国を「競争相手」(Competitor)と呼んでいる点だ。
 なぜ敵対者(Adversary)、敵(Enemy)ではないのか。
 主要国の大使を務めたことのある元職業外交官K氏は筆者にこう指摘する。
「外交関連の文書、例えばスピーチには厳密な定義づけがある。これは同盟(Ally)、パートナー(Partner)などにも言える」
「Competitorとは、元々商売敵から来たものでライバル関係にある国同士のこと。これには敵対関係にある国同士のこともあるし、同盟関係にある国同士のこともある」
「1980年代の日米は経済摩擦でComtetitorだった」
「これに対してAdversaryは、政治的、軍事的に意見が対立している国家同士で、相手を打ち負かしたいもの同士。ただ、妥協の余地も視野に入れている」
「Enemyは、極度の敵対関係、戦争寸前状態にある国同士で、武力御行使して相手を破壊、壊滅させたい関係だ」
「米国は『中国の脅威』を口にするが、バイデン氏もバイデン政権もまだ中国をAdversaryやEnemyとは見ていない」
 他方、バイデン氏は外交演説でも国防演説でも同盟国やパートナー国との連携、協力を強調している。
 K氏は同盟国とパートナーとの違いについてこうコメントする。
「同盟とはラテン語のAlligo (to bind to=縛る、義務付ける)からきており、競争相手に対抗して互いに提携することを条約などで義務付けている国同士だ」
「一方のパートナー(同伴者、片棒担ぎ)はラテン語のPartitoから来た言葉。対格の一部、対格のもう一人という意味」
「最近では恋人や配偶者の意味でも使われているが、別れればそれまで相手と行動を共にする義務などない関係だ(笑)」
対中統一戦線はかえって米国にマイナス?
 バイデン大統領はじめ閣僚は、対中戦略で同盟国やパートナー国との提携、協力を強調している。
 だが、外交専門家の中には米国が同盟国に頼りすぎるのはむしろディスアドバンテージ(不利)になるとみる向きもある。
 その一人、スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際問題研究所(FIS)のオリアナ・マストロ研究員はこう指摘する。
「中国は対米戦略でブロックを形成することは一切考えていない。それに引き換え、米国はクアッド(日米豪印との連合)や南シナ海の周辺国とのパートナー関係を模索している」
「同盟国を作らない中国にはアドバンテージ(強み)がある。他国の動きに左右されないからだ」
「中国は周辺国に中立を保ってくれるように要求すればいい。対中批判を避けてくれれば、対中包囲網のタガは緩められるとみている」
「そこに行くと、米国は提携、協力する上での代償を払わねばならない。同盟国の都合で思うようにはいかなくなる事案や制約が出てくる可能性だってある」
(https://www.zocalopublicsquare.org/2021/02/12/united-states-china-new-cold-war/events/the-takeaway/)
 米有力ニュース・サイト、「アクシオス」のディビット・ローラー国際部門担当編集長も米国が目論む同盟国やパートナー国との連携には疑問を抱いている。
「米国はアジアの同盟国やパートナー国、特にクアッドには軍事・安全保障面での提携、西欧の同盟国には通商面、資本投資面での対中戦略提携を要求するだろう」
「問題は、これら諸国で米国の要求に応じて中国に『極端な戦略的競争』を仕掛けられる準備のできている国は極めて少ないことだ」
「米政府高官たちは米国の対中戦略に目鼻が付くのは、今後6か月から8か月が死活的に重要だとみている」
「米経済が順調になり、アジアの同盟国の対米信頼感が回復、そして米国の長期的な対中戦略の土台が出来上がるまでにはそれだけ時間が必要だ」
(https://www.axios.com/newsletters/axios-world-7794b8d9-b77d-4622-aa62-a1c1d0b84a62.html)
厄介な通商、パンデミック、温暖化
 日本でもお馴染みの国際問題専門家のイアン・ブレマー氏は米中対決の今後についてこう予測している。
「トランプ前政権は独りよがりの対中強硬外交に終始した。これに対しバイデン政権は同盟国との提携によって中国の経済政策、国家安全保障政策に多国籍戦線を構築しようとしている」
「欧州連合(EU)、日本、インドが米戦略を実現するためのの主要なターゲットになっている。だが米国が目論む広範囲な対中統一戦線形成はそう簡単にはいかないだろう」
「中国は、米国ににじり寄る米国の同盟国・オーストラリアに経済・貿易面での制裁措置に出ている。また中国は対米緊密化しようとする国を押しとどめるためにカネをばらまくだろう」
「一方、米国の同盟国への徴募、ワクチン外交、地球温暖化阻止のためのテクノロジー競争は、米中間の積年の確執をより複雑化させている」
「米中間の二国間貿易、テクノロジー開発をめぐる対立、新疆ウイグル、香港、台湾、南シナ海をめぐる対立はより激化しそうだ」
「どちらかの状況判断ミスで対立が一気にエスカレートする可能性は常に存在している」
「バイデン政権発足で米中は一呼吸入れたいところだが、それで対決の緊張度が収まるわけではない。デタント(緊張緩和)には程遠い」
「今年は米中のハイレベルの緊張度をさらに高める年になりそうだ」
(https://www.eurasiagroup.net/live-post/top-risks-2021-risk-4-us-china-tensions-broaden)
 最後にバイデン政権の台湾への気遣いだ。
 バイデン氏は大統領就任式に台湾との国交断絶以降初めて、事実上の台湾駐米大使、蕭美琴・台北駐米経済文化代表処代表を正式に招待した(親台湾派のナンシー・ペロシ下院議長らの推薦があったとされている)。
 台湾駐米大使が米大統領就任式に招かれたのは、米国と中華民国(台湾)が1979年に外交関係を断絶して以来、初めてのことである。
 あまり報じられていないが、バイデン氏が習近平国家主席と電話会談した同日(2月10日)ソン・キム国務次官補代行(東アジア太平洋担当)は国務省に蕭代表を呼び、会談した。
 韓国系のキム氏は蕭代表にこう述べた。
「台湾は米国にとって経済と安全保障の重要なパートナーだ。米国は第一級の民主主義を掲げる台湾との関係を深化させていく」
 キーワードは「重要なパートナー」「第一級の民主主義」だ。
 蕭代表は会談後、「米台の相互利益に関する多くの問題について議論した。とてもいい会談だった」とコメントしている。
 国務省は両者が並んで撮った写真をツイッターに掲載している。習近平氏に対する痛烈な挑発だ。
 バイデン政権の、もの静かだが嫌らしい「タフ・オン・チャイナ」スタンスだ。
(https://www.pmnewsnigeria.com/2021/02/11/taiwan-biden-team-hold-first-meeting/)