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中国が「中印国境の死闘映像」公開、次は尖閣が舞台

 中国が突然、公開したインドとの「死闘」映像が、波紋を広げている――。


 2月19日、CCTV(中国中央電視台)の7チャンネル(軍事チャンネル)が、8分41秒の衝撃的な映像を公開した。それは昨年6月15日、中印国境のカラコルム山脈のラダック地方で、両軍が衝突し、インド側兵士20名が死亡したものだ。インド側からは、「中国側兵士も約40名死亡した」との証言が上がってきていたが、中国側はこれまで、この事件自体をひた隠しにしていた。


 それがいまになって唐突に、「死闘」映像の公開に踏み切ったのである。それは、ざっとこんな内容だ。


顔面血だらけの兵士
<祖国の西部の辺境、カラコルム高原で、昨年4月から、ある外国軍は両国の協議協定に違反して、一線を越えて即席の橋を作り始めたり、道路を修繕したりした。頻繁に一線を越えて、一方的に辺境管理の現状を改変しようと試みた。それによって、辺境の情勢はにわかにヒートアップしてきた。


 6月、外国軍は公然とわが方との間で一致した共通認識に違反して、一線を越えて挑発を行った。辺境の事件を処理する際の慣例と、双方が以前に結んだ約定に照らして、祁発宝団長は、問題解決の誠意をもって、数名の兵士を引き連れただけで、交渉のため前進した。そうしたら、相手方の暴力攻撃に遭ってしまったのだ(顔じゅう血だらけになってタンカで運ばれる映像が入る)。



 祁発宝の軍団は、相手方と交渉すべく話をしながらも、有利な地形に回り込み、こちらより数倍多い外国軍と死闘を繰り広げた(*中印の取り決めで双方が火器類の武器を持たないことになっているため、棍棒などを使っての殴り合いとなった)。援軍が来るまで、兵士たちはわが身も顧みず、勇ましく戦闘した(浅い川瀬で昼と夜に戦闘するシーンの映像が入る)​。そして一気に、侵犯者たちを蹴散らしたのだった。



 外国軍は軍の体をなさず、頭を抱えて四散した。大量の死傷者が残され、惨事の代価を払ったのだった。


「祖国の領土を一寸たりとも失わない」
 この激しい戦闘で、祁発宝団長は、身体に重傷を追った。陳紅軍営長と陳祥榕戦士は、相手の囲いを突破しようと反撃し、犠牲となった。肖思遠戦士は、戦友を救おうとわが身も顧みず突入し、戦闘によって命を落とした。王焯冉戦士は、川を渡って支援に行く途中で、溺れた戦友を救おうとして、自らが氷河で溺死してしまった。


 中央軍事委員会は、祁発宝と陳紅軍に「衛国戍辺英雄団長」の栄誉称号を贈った。また、陳祥榕、肖思遠、王焯冉には、「一等功」を与えた(空港で遺体を荘厳に出迎えるシーンが入る)​。



 英雄たちはすでにこの世を去ってしまったが、その精神は永遠に辺境の関所に残されている。


 張志鵬指導員「官兵全体に、国と辺境を守る情熱が、高く漲っている。われわれは高原に骨を埋める気概でいる。


 そして絶対に、祖国の領土を一寸たりとも失わない。


 王利軍某辺境防衛団政治委員「われわれは平和を愛し、他人の物は、いささかも不要である。だが、いかなる者、いかなる勢力も、祖国の領土と主権を侵犯することは、決して許さない。


 われわれ辺境を守る兵士たちは、終始肝に銘じる。祖国と辺境を守ることは、神聖なる使命であると。高度な警戒状態を常に維持し、長期の戦闘の準備を行っていくと。そして決然と、祖国の主権と領土の整備を死守し、決然と、辺境地域の平和と安寧を維持していくと」>


 以上である。私は繰り返しこの映像を見たが、3つの疑問が沸いてきた。


なぜ「インド」ではなく「外国軍」か
 第一に、誰がどう見ても、中国軍とインド軍が昨年6月15日に衝突した時の映像なのに、「インド」という言葉が一度も使われていない。「外国軍」というナレーションになっているのだ。


 これはどういうことなのか? 中国軍の事情に詳しい中国人に聞いたところ、こう答えた。


「それは、中国国内で反インド感情が爆発し、ミャンマーのようなデモが起こることを、中国当局が恐れたからだ。7月に中国共産党100周年を控えた現在、中国国内に不安定要因を作ってはならない。そのため、インドに気を遣ったということではなく、中国の国内事情のためだ」


「陸でこのような戦闘が起きたのなら、次は海でも」
 第二の疑問は、なぜこれまで沈黙してきたのに、いまになって唐突に発表したのかということだ。それについては、こう答えた。


「それは二つの事情によるためだ。第一に、2月初旬に行われた第9回中印軍長級会談で、双方が同時に争点の区域から撤退するということで合意に至った。実際、インドメディアは、「中国側が200輛の戦車を撤退させた」などと報じていたが、2月10日から、双方が同時に撤退を始めた。


 20日には、第10回中印軍長級会談を行い、双方が撤退したことを確認しあった。それで昨年6月の衝突事件は、一区切りついたと判断したのだ。


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 もう一つの事情というのは、軍からの突き上げだ。中国軍が外国軍との戦闘で死者を出したのは、今世紀に入って初めてのことだ。かつ殉職した4人の兵士の栄誉を称え、称号まで贈っている。そうした国の英雄を、国民に広く知らしめないとはどういうことかと、軍からの強い不満の声が上がっていたのだ」


 第三の疑問は、おしまいの2人の中国軍の軍人のセリフである。彼らは、中印国境のことを言っているようだが、映像を制作した側は、近未来の日本との尖閣諸島の衝突のことも示唆する意図があったのではないかということだ。これについては、こんな答えだった。


「それは当然、そうだろう。現在、中国軍が特別に注視しているのは、『陸のラダック』と『海の釣魚島(尖閣諸島)』だ。陸でこのような戦闘が起きたのなら、次は海でも起きると考えている」


 明日はわが身ではないが、尖閣諸島は要警戒である。