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「脱炭素」原子力捨てるのは不合理 論説委員・岡部伸

産経新聞社 【論壇時評】3月号 「脱炭素」原子力捨てるのは不合理 論説委員・岡部伸
 コロナ後の復興を見据えて各国では首脳が脱炭素化を唱えている。菅義偉首相も昨年10月、就任後初の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」を宣言し、太陽光や風力などの再生可能エネルギー転換と電気自動車(EV)への移行を中心に脱炭素社会実現へ動き出した。技術力のある日本企業に新たなビジネスチャンスとの期待もかかるが、そもそも再エネ拡大だけで目標達成が可能だろうか。
 「再エネを主力電源化していく(中略)。三〇年に地域での再エネ倍増を目指すべきと考えています」。環境相の小泉進次郎は、『中央公論』3月号で述べ、「ポイントになるのは、再エネとEV(電気自動車)をはじめとした電動車、そして地方の取り組みだ」として、「日本の将来は再エネとEV抜きには考えられない」と主張する。
 そして再エネ導入に自治体200以上が動き出し、「二五年までに脱炭素のモデルケースを作り、それが次々と連鎖していく」と、「脱炭素ドミノ」を起こし、日本全体の再エネ比率を最大限高める考えを示した。
 政府に続き、昨年11月、衆参両院で「気候非常事態宣言」が決議され、国会も「脱炭素」に取り組む。超党派議連の共同代表幹事を務めた国民民主党衆院議員の古川元久は、『文芸春秋』3月号で、「『気候変動』ではなく『気候危機』との現状認識を与野党で共有した」「オール・ジャパンで脱炭素社会の実現に向けて努力を」と意気込み、自民党衆院議員の古川禎久は、「日本列島を一極集中型から分散自立型に改造することと、脱炭素社会を建設することとはバッチリ親和性がありますからね」と述べ、再エネ推進と地域振興が相乗効果をあげるよう改造する考えを表明した。
 「脱炭素」社会実現には新たな技術開発が必要で、それに伴う巨大なマーケット創出も見込まれる。昨年末、策定された「グリーン成長戦略」では、2兆円の基金を設け、次世代型電池開発などを国が支援する。
 東京大学教授の高村ゆかりは、『中央公論』3月号で、「依然として、日本の強みの一つは技術力」と述べ、「日本の脱炭素分野やクリーンエネルギー分野のパテント(特許)の数は世界有数」として、「日本企業が有する技術力、開発力は高い。これを生かし、グローバル市場に売っていく、それを支援する経済戦略が必要」と提言する。そして、「日本の企業の九割は中小企業です。中小企業が、脱炭素に向かう大きな流れを理解し、対応できることが重要」と強調した。
 具体的戦略として古川元久は、『文芸春秋』で「自動車産業で培ってきた技術を生かして、脱炭素時代に世界をリードする新たなビジネスモデルを生み出して欲しい」と日本企業が世界の市場を獲得するため、「世界標準」を取る必要があると唱えた。
 ただ再エネ転換だけで本当に排出量ゼロを達成できるのか。東京大学・国際基督教大学名誉教授の村上陽一郎は、『中央公論』で「『三・一一』によって、原子力に関しては、有無を言わさない絶対悪という世論が造り上げられたことは事実である」と指摘したうえで、「温室ガスの排出という点に絞れば、原子力は優等生である」と喝破し、「すでに建設してしまった施設に関しては、温室ガス排出についての原子力の優位性は、認めざるを得ない以上、これを徒(いたずら)に休ませておく、というのは不合理である、という見解は、見捨てるわけにはいかない」と結論付ける。
 さらに大規模原発を新設することは非現実的とすると、2つの選択肢しかないとし、「一つは、少なくとも当面は、既設の発電所を、安全面に対する徹底した管理の下で利用すること(中略)。一切の再稼働を認めないという選択ほど、不合理なものはない」と述べ、原発の再稼働を主張する。
 もう一つ可能な選択として、「出力はそれほど大きくはないが、施設も小体な、そして安全性も向上するような、新機軸の技術に依拠した施設を開発する」と次世代の小型原発新設を提唱する。そして「脱炭素社会の実現に、原子力を単に過去のものと捨ててしまうのは、賢明ではないように思われる」と力説する。
 2年前、50年に排出量「ゼロ」をいち早く掲げた欧州連合(EU)で、オランダやスウェーデンでは脱原発から温室効果ガスを排出しない原発への見直しが進行している。英国は、複数の原発を建設、フランスは原子力で70%の電気を維持し、ポーランドやルーマニアなど東・中欧各国は原発を新設方針だ。
 世界第2位のエネルギー消費国米国は、95基の原発が稼働し、世界最大のエネルギー消費国中国も原発を重視し、大規模な新増設が進む。
 世界では、原発復活なしで実質ゼロの目標達成は不可能とされつつある。
 原子力について菅首相は、所信表明演説で「安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立する」と述べるにとどまった。 「50年までにゼロ」実現には原子力復活が不可欠と明言しなかったのは残念でならない。(敬称略)=次回は3月25日掲載予定