Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

対中批判が噴出、自民党で何が起きているのか

今年に入り、自民党の外交部会や国防部会などで外交や安全保障政策に関する議論が活発化している。
連日のように党本部で会合が開かれている。主なテーマは中国で、尖閣諸島問題や中国国内の人権問題などへの批判が噴出している。「中国が好き放題やっているのに黙ってみていていいのか」「日本も対抗措置を講じるべきである」などの発言が相次ぎ、外務省や防衛省の官僚が対応に追われている。
タカ派議員が集う外交、国防部会
自民党の部会は党政務調査会の下部組織で、政策分野ごとに設けられており、官僚が政策を説明したり、有識者の意見を聞くなど、国会議員にとって政策を勉強する場になっている。自民党では政府の重要政策について、閣議決定の前に党の政調と総務会の承認が必要という「事前審査制」が制度化されているため、部会での議論は主要政策決定過程の最初のプロセスでもある。
従って中央省庁にとって、自民党の部会は政策実現のために無視できない関門となっている。時には部会の反対にあって重要な政策が大きく変更になることもある。だが、会議が非公開なこともあって、どのような議論が行われ、政策がどう変更されたかなどは不透明で、国民にはあまり知られていない存在となっている。
数ある部会の中で特異な存在が外交部会や国防部会だ。自民党は選挙公約などにはタカ派色の濃い外交・安保政策を掲げるが、政権につくと、おしなべて現実的で、どちらかというとハト派的な政策を打ち出す。つまり党はタカ派を売りにするが、政府は国際政治の現実を踏まえて柔軟に対応してきた。
その結果、外交部会や国防部会は、昔からタカ派議員が多く集まり、外務省や防衛省の官僚に対して政府の政策が軟弱であるなどと批判する場となっていた。
例外的だったのが長期政権となった安倍政権時代だ。北方領土問題をめぐる対ロ交渉や、従軍慰安婦問題合意に代表される対韓政策など、タカ派議員にとって納得できない政策が多かったが、部会が声高に安倍首相を批判することはなかった。「安倍一強」という現実が、タカ派議員に無言の圧力となっていたのであろう。ところが、菅政権が誕生すると空気が一変したようだ。
タカ派議員の最大のターゲットは中国である。香港の国家治安維持法制定と民主化運動の弾圧、南シナ海のサンゴ礁の軍事基地化、新疆ウイグル自治区でのウイグル人の強制収用や強制労働問題という人権問題など、対中批判の材料には事欠かない。
さらに2021年1月、海上警備などを任務とする中国海警局の権限などを定めた海警法が施行されると、尖閣諸島周辺の領海で海警局の船舶が頻繁に領海に入り、日本漁船を追跡する活動を繰り返している。日本の実効支配を力によって揺るがそうとしていることは明らかだ。
怒りの矛先は外務省や防衛省の官僚に
当然、自民党内での中国批判が高まっているが、中国政府関係者と直接やり取りできるわけもないので、怒りの矛先は部会に出席する外務省や防衛省の幹部に向けられる。
「中国船の領海侵犯は、抗議だけでは効果がない。日本も行動すべきである」
「経済関係を重視するあまり、中国の人権問題に対して日本政府の対応は腰が引けているのではないか」
特に海警法に対する危機感は強く、「このままでは尖閣諸島が奪われてしまう」「海警法が国際法違反であるとはっきり言うべきである」という声も出ている。しかし、政府は公式見解として、海警法が国際法違反であるとは断定していない。
部会に出席している官僚は、「中国に対してあいまいな部分を明確にするよう求める」などと答えることしかできない。それが自民党議員の不満にさらに火をつけ、「尖閣諸島に石垣市の字名の標柱を立てるべきだ」などという極論まで飛び出している。
さらには海警法に対抗して、武力行使に至る前の状態を指す「グレーゾーン事態」でも自衛隊が出動しやすくするための「領域警備法」を制定する動きも出ている。
すでに述べたように、自民党の外交部会や国防部会がタカ派議員の威勢のいい声であふれかえるのは今に始まったことではない。これまでは多くの場合、そうした声が政府の政策に反映されることはなかった。部会はしばしばタカ派議員の不満のガス抜きの場となってきたのだった。しかし、菅政権ではどうも少々様子が違うようだ。
その1つが、政府が3月にも閣議決定を予定しているとされている新法制定の動きだ。
自衛隊や米軍基地、原子力発電所などの周辺の土地が外国企業などに買収されそうな場合、その内容を調査したり、規制したりすることが目的の法案だ。
2010年代、長崎県・対馬や北海道の自衛隊基地周辺の土地を中国や韓国企業などが購入していることがわかり、法律による規制が必要だとして自民党が議員立法の動きを見せた。しかし、安倍政権は積極的に動かず、法案は成立しなかった。
タカ派議員の声が法案に
ところが菅政権が発足すると、一転して政府は積極的に対応し始め、現在開かれている通常国会に法案を提出し、成立を目指す方向となっている。つまり、タカ派の声が政府の政策に反映されるようになってきたのである。
中国の問題ある行動は今に始まったことではなく、安倍政権時代にもあった。にもかかわらず、安倍政権は日中関係を重視してきた。ここにきて自民党タカ派議員が大きな声を上げるようになったのは、中国側の動きの変化も背景にあるが、最大の理由は菅首相の対中政策がまったく見えないためだろう。
菅政権は発足直後から新型コロナウイルス対策に追われ、他の政策、特に外交・安保政策に取り組む余裕はほとんどない。外務省や防衛省も、アメリカのバイデン政権が発足直後で、対中政策など主要な外交政策について検討作業を進めている最中であることから、独自の政策を打ち出しにくい。政府が何をしようとしているのかわからず、自民党議員から不満が出るのも仕方がない。