Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

やっと始まる外資の土地取引規制、阻むのは何者?

軍事施設や原発の周辺、離島や水源地帯を外国人に買い占められたら安全保障上の大きな問題となる
(姫路大学特任教授:平野秀樹)
 おそらく読者の方々は、近年、日本の国土を中国系企業などが秘かに買収しているという話は耳にしたことがあるだろう。これは安全保障的にも大きな問題となる可能性がある。そのため筆者はながらく外資の土地取引規制の必要性を訴えてきた。そして、ようやく政府が重い腰を上げだした。
 現在〈外資の土地買収調査法案〉*を内閣立法で成立させるべく調整が進んでいる。ただし、与党内野党の各論反対は根強く、3月に入っても終わらない。本件は2008年からの懸案だから、13年目になるが、日の目を見るかどうか予断は許されない。
 期待の新法はどういった内容でまとまるか? 外資(外国人及び外資系含む:以下同)の土地買収の深刻度はどれほどか? ファクトを基に見通したい。
*〈重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案〉
どれだけ買われたか?
「外資」による土地買収の現況について、分かっているのは一部だ。
 財務省は外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づき、一度だけ集計値を発表した。民主党政権の時(2011年)で、3700ヘクタールだった(07~10年の全地目累計値)。ただし、それっきりで、もうやらないという。
 農水省は山林の外資買収について毎年公表している(累計値)。2010年では、43件、831ヘクタールだったが、10年後の2020年には、465件、7560ヘクタールに膨らんだ。山手線の内側(約6000ヘクタール)の1.2倍に相当する。農地の方は2018年から公表された。最新値(2020年)は、3件、47ヘクタールだ。政府発表はこの他にはない。「なんだ、たったこれだけか」と思うかもしれないが、そうではない。
 実は公表値にカウントされていない事案が山ほどある。それらは、日本人や日本法人をダミー的に登記名義人にしたケースや未届出のケースである。対馬(長崎県)や奄美(鹿児島県)の現場では、明らかに外資が占有し、登記簿上でも確認できるが、これらは前述の国の公表データには入っていないのだ。
 さらには、太陽光発電、風力発電の用地(推定20万ヘクタール)の中にも外資分が相当数混じっているが、こちらも詳細は不明だ。リゾート地や雑種地、原野の買収数値に至っては担当省庁が見当たらず、宙に浮いている。
 こう見てくると、外資の買収面積は、公表されている数値より一桁から二桁多いと考えるのが妥当だろう。
 現在、北海道全域、長野県、大阪市、対馬など、国土買収の動きは水面下のものも含めると、依然止むことなく続いている。沿岸部の半島や岬、海峡を望む一帯もリゾートや再生エネルギー用の名目で買い進められ、街中のアパート、マンションも一棟買いがフツーに出てきている。インバウンド待望は観光業にとどまらず、全産業に及んでおり、買収の矛先は市街地、農林地、リゾート地のみならず、工業団地、卸売市場等へ進んでいくと予測できる。
 影響は列島全土に広がっているが、こういった買収の大半は新法の網には引っかからない。
「外資の国土買収は、安全保障上の問題と税ガバナンスの喪失、公衆の秩序の維持の問題を惹起する。だから、法制度を整えた後で許容すべきだ」
 筆者の主張はこうだが、買収のスピードに政策が追いついていない。
新法の効果はどれくらいか?
 そこで今回、ようやく〈外資の土地買収調査法案〉が検討されることになったわけだが、実は「これで一歩前進」となるかどうかはまだ不明だ。
「実質的に何の縛りにもなっていない」
 新法の実効性を危ぶみ、そう批評する識者もいる。理由は二つ。新法による〈規制区域〉と〈規制内容〉だ。
 報道等によると、新法が規制する土地「注視区域」は、防衛関係施設や重要インフラ施設の周辺、国境離島等である。自衛隊拠点、米軍基地、国境離島、原子力発電所、国際海底ケーブルの陸揚げ局、軍民両用空港の周辺だという。こうした区域内の不動産については、所有と利用状況の調査が行われ、特に重要性が高い施設の周辺や離島は「特別注視区域」となる。この注視区域の面的な広がりは、各施設から概ね1キロメートル以内となる模様だ。米国の対米外国投資委員会(CFIUS)は、軍・政府施設の場合、周囲最大100マイル(160キロメートル)をとっていて、日本の新法より二桁多い。
 そして、ここ十数年来、ソーラー用地やリゾート用地、資産保有の名目で、また目的不明のまま最も大量に買収されたのは森林、農地、雑種地なのだが、これらの地目は直接的な注視区域の対象にされていない。「大きな意味では含まれるものの、(第一義的な)対象にはしない」という(2021.2.10小此木領土問題担当大臣 衆議院予算委員会)。
 要するに、調査対象は軍備に直結した「薄皮一枚」のエリアだけになるということだ。安全保障や防衛リスクについての所管が防衛省と外務省と見られているせいか。
 しかし現行法制の森林法、農地法には、海外からの買収を想定した安保上の視点はなく、許認可の際にそういった視点での判断は入っていない。農林水産業において、外為法による中止勧告の適用事例は70年間で一件もないのだ。
 今回の新法では、買収が進む国土ついて、おしなべて安保の新しい観点をプラスオンしてチェックしてほしいと願いたいが、軍備にかかる狭い範囲しか調査しないというのは寂しい。
 法成立後に策定される新法の基本方針(閣議決定)で、エリア指定の詳細が整理されるだろうが、その内容しだいで広がりのレベルは変わるだろう。
限界はあるが意義は大きい・・・
 もう一つの論点――規制内容についてだが、安全保障の観点から注視区域の機能阻害を防止するため、調査と利用規制(勧告・命令)が行われる。今後、「どのような利用形態が不適切とされるのか」「安全保障上の視点がどう追加されるのか」。規制のレベルについて引き続き、注目したい。
 一方で、新たな踏み出しもある。調査に対する虚偽の報告や無届には罰則も用意されるというので心強い。また特別注視区域の土地取引に際しては、事前届出が義務付けされるので監視が可能になる。
 しかし、既に買収済の国土については如何ともし難い。利用状況の調査はするだろうが、海外在住で連絡不通の所有者にしてみれば、ダミーにうまく語らせれば乗り切れるし、国の調査者に立ち入り権限等が付与されなければ手も足も出まい。
 新法はまた、各省庁と自治体がもつ所有権情報等を一元的に政府内新組織が管理することで不適切な利用の防止を図る。内閣府の総合海洋政策推進事務局の土地版だ。
 ただこれも、所有者が外国に所在する場合、容易ではない。登記簿と固定資産台帳の二つが頼りだが、登記簿は任意だし、所有者情報は更新されていない。また国への報告を求めようとしても、そもそも相手は不在だし、都合の悪いときには「所有者不明」になる。国税マンや徴税吏員がもつ権限(質問検査権)が海外では通用しないし、海外での外国人→外国人への転売も、日本への報告は外為法省令で実態上ほぼ不要とできる。
 国際的には「租税に関する相互行政支援に関する条約」があるが、締結国(64カ国)の中に中国や北朝鮮は入っていない。英領ヴァージン諸島などは締約国だが、相互支援にはそもそも限界がある。しかも、本条約の対象となる税は国税だけで、地方税は対象外である。
 総じて、新法が意図する規制は、①限られた狭い安全保障エリアを調査するにとどまり、②所有規制や収用にまで踏み込まないものだ。ゆえに列島全土への静かなる侵蝕や、将来のガバナンス不安まで一気にカバーする安全保障対策には至らない。
 そうならざるを得ない特殊事情が我が国にはあるからなのだが、根っ子に日本国憲法(第二九条)や国際約束(条約)など、もっと多岐にわたる根深い問題、宿痾がこの国の土地法制として残っているからだ。これらの問題については回を改めたい。
 今日、安全保障にかかわる分野はエネルギー、水、食、レアアースに加え、医療物資へも広がった。国土はこうした物資はもとより、歴史・文化、知財をも生み出す国家の礎、国富のはずだが、その国土が外国人にとっての資産の移転先となり、真の所有者は不明化し、見えなくなっている。税収はじめ、本来ならば将来にわたって土地(国土)から得られるべきはずの果実を、私たちは徐々に失っている。
「静かなる国土への侵攻を見逃すな」「次の世代に主導権が残せない・・・」。筆者はそう思い続けていて、それゆえ新法案に大きな期待をかけている。今回の新法案は物足りないとはいえ、新法が果たす役割は牽制効果としても大きく、次なる規制を考えるための足掛かりになる。
 事実上の外資土地規制の第一歩――新法の成立を祈りたい。