Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

激震! 中国「海警法」の尖閣圧力 VS アメリカ非公式連絡

1月にホワイトハウスを去ったトランプ前米大統領は、国際社会から「自国の利益ばかりを優先した」と批判された。しかし、外交はよく「武器を使わない戦争」に例えられるように、その究極的な目的は、自国の利益の追求にある。ただ、米国は自他共に認める超大国であるがゆえに、「ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)」のような立ち居振る舞いが求められてきたし、自身もそのように行動するよう努めてきた。だから、トランプ氏の行動は批判された。


知り合いの米外交官は、「我々は超大国だから、まず相手の話を聞かなければならない。小さな国は激しい言葉を唱えれば良いが、米国は影響が大きすぎるのだ。そう先輩たちから教えられてきた」と語る。


バイデン政権は最近、日米韓協力を繰り返し強調しているが、日韓両国に対し、「日韓で仲良くしろ」とは決して言わない。内政干渉になるのは勿論、米国が全てを仕切る外交は好ましくないと米国自身が自覚しているからだ。


そんな米国の姿勢を示す一つの例が、世界の領土問題に対する中立的な立場の維持だ。世界には依然、南沙諸島やジブラルタルやカシミールなど、様々な領土問題が存在している。米国は、領土問題の背景にある複雑な歴史や民族感情などに配慮し、当事国のどちらにも肩入れしない中立の立場を取っている。


ところが、そんななか、ほぼ唯一と言って良い例外がある。北方領土だ。米国の歴代政権は「北方領土の主権は日本にある」と繰り返し、指摘してきた。


これは、外交史上で有名な「ダレスの恫喝」と関係がある。1956年8月19日、重光葵外相はダレス米国務長官と会談した。当時、歯舞・色丹の2島返還で領土問題を妥結するという動きがあった。ダレス氏は、日本側が国後、択捉両島に対するソ連の主権を認めた場合、米国は沖縄領有を主張する考えを伝えたとされる。米国は、日本の妥協を許さない代わり、北方領土に対する日本の主権を認めるようになった。


その一方、先述したとおり、米国は尖閣諸島について、日本に主権があるとは認めず、施政権があるとの立場を取ってきた。戦後秩序が固まったサンフランシスコ講和条約当時、台湾も尖閣諸島について領有を主張していたからだ。日米安保条約5条は、対象地域を「日本の施政の下にある領域」としているため、米国が防衛の義務を負う対象に北方領土は含まれないが、尖閣諸島は含まれることになる。


中国が漁船や公船による尖閣諸島周辺海域への侵入を繰り返すのは、「日本の施政権」を破壊し、日米安保条約の発動を防ぐ狙いがあるともされた。このため、米上院は2014年11月、国防権限法につく付帯条項として尖閣諸島について「第三者の一方的な行動が、日本の施政権を認める米国の立場に影響することはない」とする条項を可決した。これによって、中国が日本の施政権を侵す事態に至っても、尖閣諸島が日米安保条約の対象であり続けるという保障が与えられた。


ただ、中国はそんなことにもお構いなく、尖閣諸島に対する圧力をエスカレートさせている。2月1日には、海上保安機関である海警局の武器使用条件を定めた海警法も施行した。中国の挑発行為が続くなか、米国も超大国として悠然と構えているわけにもいかなくなっている。


実際、複数の日米関係筋によれば、米国は昨春、日本政府に対して米沿岸警備隊が尖閣諸島周辺で、日本の海上機関と共に行動する準備があると非公式に打診していた。米沿岸警備隊は治安機関であるとともに米軍の一部門という性格があるため、行動する相手については海上保安庁あるいは海上自衛隊と明示はしなかったという。だが、日本政府はこの打診を受け入れなかった。当時の安倍政権が習近平中国国家主席の訪日を進めているなか、中国を不要に刺激したくないという思惑が働いたとみられる。日本側の関係者の1人は「海保のなかに、米軍の一部門でもある沿岸警備隊と一緒に行動することに慎重な意見もあったようだ」と語る。


そして、米国防総省のジョン・カービー報道官が2月23日の記者会見で尖閣諸島について「日本の主権を支持している」と発言した。日本側で米国が従来の立場を踏み越えたのかという声が上がった。だが、カービー報道官は26日の記者会見で、「私の間違いで混乱を招いた」と釈明し、「主権を巡る米国の政策に変更はない」と軌道修正した。日本の安保専門家の1人は「カービー氏はおそらく、歴史的な経緯がよく頭に入っていなかったのだろう」と語るが、逆にいえば、米国側に尖閣諸島を巡る危機意識が強まっている状況を浮き彫りにしたとも言える。


この専門家は「そもそも、米軍兵士が将来、尖閣諸島の領有を巡って戦う日が来る可能性が高まっているというのに、その主権がどこにあるのかを認めないというのもおかしな話だろう」と語る。尖閣諸島の大正島、久場島は米軍の射爆場にもなっている。


米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は初めての外遊として、15日から日本を訪問する。それだけ、中国の脅威を深刻に捉えているからだろう。ブリンケン氏は3日のテレビ演説で「中国は安定して開かれた国際システムを著しく脅かす経済力、外交力、軍事力、技術力を備えた唯一の国だ」と語った。


台湾が領有の主張を取り下げたわけではなく、米国も簡単に日本の主権に言及できない状況ではある。ただ、米国が日本の主権に言及しない理由のひとつは、「中国のエスカレーションを招くかも知れない」(日米関係筋)という配慮からだった。中国の挑発が高まる一方の今、米国が北方領土と同じように、日本の尖閣諸島に対する主権を認める日が、そう遠くないうちにやって来るのかもしれない。