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安倍総理の志は死なない!!

改善する中国の対日認識と低迷する日本の対中認識

日本に対して良い印象を持つ中国人が増えている一方で、多くの日本人が中国にネガティブな印象を持ち続けている。それはなぜか? 中国各地を旅して中国の魅力を伝える活動をしている著者が、各種の調査を基に明らかにする。(JBpress)


 いまこの記事を読んでいるあなたは、中国に対してどんな印象を持っているだろうか。私はその答えが聞かなくてもわかる。もし私の読みが間違っていたならば、あなたは“めずらしいほう”だ。


世界一ネガティブな日本人の対中認識
 2021年2月19日、内閣府が「外交に関する世論調査」(2020年10月~12月実施)を公表した。それによると、中国に親しみを感じる日本人は22.0%にとどまる一方、77.3%もの日本人が親しみを感じないという(図1)。これはどちらにも「どちらかというと」親しみを感じる、あるいは感じない人を含めた数字だが、それらを除いた場合の割合は、3.9%(親しみを感じる)対41.0%(親しみを感じない)となる。日本人の対中認識は、とてもネガティブだ。

© JBpress 提供 図1:中国に対する親近感 (出所)内閣府「外交に関する世論調査」(2020年10月調査)
【本記事は多数の図版を掲載しています。配信先で図版が表示されていない場合は、JBpressのサイト(https://JBpress.ismedia.jp/articles/-/64411)でご覧ください。】


 このような傾向は、他の調査でも明らかになっている。


 例えば、言論NPOの「第16回日中共同世論調査」(2020年9月~10月実施)によると、中国に良い印象を持っている日本人はたったの10.0%であり、良くない印象を持っている日本人は89.7%になる(図2)。

© JBpress 提供 図2:相手国に対する印象 (出所)言論NPO「第16回日中共同世論調査」
 また、アメリカのシンクタンクであるピュー研究所の「Global Attitudes Survey」(2020年6月~8月実施)によると、中国に対して好ましい印象を持つ日本人は2桁にも届かない9%であり、好ましくない印象を持つ日本人は86%だ(図3)。

© JBpress 提供 図3:Unfavorable views of China prevail (出所)ピュー研究所 "Unfavorable Views of China Reach Historic Highs in Many Countries"
 ピュー研究所は、アメリカや韓国などほかにも13の先進国で同様の調査を行っているが、日本ほど中国に対して好ましい印象を持っている人が少なく、逆に、好ましくない印象を持っている人が多い国はない。つまり、日本人の対中認識は世界で一番ネガティブだ。


 さて、私はあなたの対中認識もネガティブだと予想したが、当たっただろうか。


日本人の対中認識は大きく変化してきた
 では、なぜこんなにも日本人の中国に対する印象は悪いのか。わかりやすい理由の一つは、新型コロナウイルスの問題だ。それは、中国の武漢市から世界中に流行が広がってしまったこともあり、中国の初動対応は批判に晒された。実際、日本人の対中認識は、2012年の尖閣問題で極度に悪化して以降、緩やかに改善してきていたが、2020年の調査で再び悪化に転じた(前出の図2)。


 ピュー研究所によると、調査が始まった2002年以降、2020年は14カ国中9カ国で中国に対する印象が過去最悪のものになったという(日本の過去最悪は2013年で、中国に対して好ましくない印象を持っていた人は93%だった)。例えば、新型コロナウイルスの原因究明を巡って中国と外交問題に発展したオーストラリアでは、中国に対して好ましくない印象を持っている人が2019年から24ポイントも増加した。また、イギリス、スウェーデン、オランダ、ドイツ、アメリカ、韓国、スペインでも、ネガティブな印象を持つ人のパーセンテージが2桁増えた。


 しかし、急激に印象を悪化させたそれらの国と違い、日本の対中認識は2010年代以降「安定的に」悪い。それには、尖閣諸島を巡る領土問題に加え、ほかにも歴史問題や人権問題、政治体制や価値観の違いなども影響していると考えられる。


 今となっては悪いのが当たり前となってしまった日本人の対中認識だが、実は、ずっとそうだったわけではない。日中平和友好条約が締結された1978年に始まった政府の「外交に関する世論調査」によると、日本人の対中認識は時代とともに大きく変化してきたことがわかる(図4)。

© JBpress 提供 図4:中国に対する親近感(前回調査まで) (出所)内閣府「外交に関する世論調査」(2020年10月調査)
 まず、1978(昭和53)年から1988(昭和63)年は、中国に対して親しみを感じる人が60%を下回ったことがなく、親しみを感じない人が30%を上回ったことのない「ポジティブな時代」だった。例えば、1980(昭和55)年は過去最高の年であり、78.6%もの日本人が中国に親しみを感じ、親しみを感じない人は14.7%しかいなかった。


 しかし、そのような時代はすぐに終わり、1989(平成元)年から2003(平成15)年はポジティブとネガティブが拮抗する「ミックスの時代」となった。そのきっかけとなり、また日本人の対中認識を劇的に変えてしまったのが、1989年に発生した天安門事件だ。天安門事件直後、日本人の対中認識は20ポイントほど悪化し、それ以降も領土問題や歴史問題などを巡る摩擦により改善することはなかった。


 2004(平成16)年にはターニングポイントが訪れた。それ以降、中国に親しみを感じる日本人の割合が、親しみを感じない人の割合を下回る「ネガティブな時代」が始まった。2004年から2009年には20~35ポイントほどのギャップが生じた。


 そして、尖閣諸島を巡る対立が激化した2010(平成22)年以降、日本人の対中認識は「極めてネガティブな時代」に突入した。過去最悪の状態となった2015(平成27)年には、中国に親しみを感じる日本人が14.8%まで低下した一方、中国に親しみを感じない人は83.2%まで増加した。


 このように、日本人の対中認識は時代とともに大きく変化し、今では大多数の人が中国に対してネガティブな印象を持つようになった。


改善する日中関係と対照的な相互認識
 では、中国人の日本に対する印象はどうか。多くの日本人は、2012年に勃発した非常に激しい反日デモを思い出し、中国人の対日認識も日本人の対中認識と同じように非常にネガティブだと考えるかもしれない。しかし、実は近年よい印象を持つ人が増えていて、現在は過去最も良い水準となっている。


 前述した言論NPOの「日中共同世論調査」(図2)によると、確かに2012年の尖閣諸島を巡る対立は、中国人の対日認識を極めて悪化させた。2013年の調査では、日本に対して良い印象を持っている中国人の割合は過去最低の5.2%となる一方、良くない印象を持っている人の割合が過去最高の92.8%となった。しかし、その後中国人の対日認識は毎年急激に改善し、2019年には日本に良い印象を持つ中国人の割合が過去最高の45.9%となった。2020年には微減して45.2%となったが、それでも中国人の半分近くが日本に対して良い印象を持っていると回答している現状に驚く日本人は多いだろう。


 日中で同じ問題を共有しているにも関わらず、なぜ日本人と中国人の相互認識はここまで対照的なのか。そのためには、まず2012年以降の日中関係を見る必要がある。


 2012年の尖閣問題で戦後最悪と言われる状態に陥った日中関係だったが、その後もすぐに関係改善とはいかなかった。2013年には、第2次安倍内閣の発足から1年経った当時の安倍首相が靖国神社を参拝し、中国との関係はさらに厳しくなった。しかし、G20やAPECのような国際会議において少しずつ対話を再開し、2017年には対中強硬方針を掲げるトランプ政権が誕生すると、徐々に日中関係を改善する環境が整ってきた。


 2018年には、中国の李克強首相が日本へ、日本の安倍首相が中国へ、それぞれ約7年ぶりに相手国を訪れた。特に、安倍首相は習近平国家主席とも会談し、日中関係を「競争から協調へ」移行していくと表明し、新たな局面の到来を印象付けた。2019年には、習近平国家主席が就任後初めてG20大阪サミットのために日本を訪問した。新型コロナウイルスのパンデミックが始まる直前の2019年12月には、安倍首相が日中韓サミットで再度中国を訪れ、翌年の習近平国家主席の国賓来日への道筋をつけた。


 このように、2012年以降の日中関係は、厳しいながらも徐々に改善していた。それとシンクロするように、中国人の対日認識も徐々に上向いていた。しかし、日本人の対中認識はほとんど改善する兆しを見せず、むしろ継続的に90%近い人がネガティブな対中認識を維持した。


 なぜ日本人の対中認識はそこまでネガティブで、しかも根深いのか。日中関係の改善が表面上のものにとどまり、実際は領土問題や人権問題などが残っているとはいえ、これは不思議な現象だと感じた。私は、当時通っていた北京の大学院でこの点について考えていたが、中国人の対日認識の改善とそれにシンクロするある要因に気がついた。日本を訪れる中国人観光客の増加だ。


訪日中国人の増加と対日認識の変化
 コロナ禍が始まる前、日本は「観光先進国」への新しい国づくりとして、訪日外国人旅行者数を2020年までに4000万人へと増やす計画を立てていた。実際、2019年の訪日外国人は過去最高となる3188万人まで増加していたが、その中でも特に多かったのが中国人観光客だ。


 訪日中国人観光客は、尖閣問題の翌年である2013年には131万人しかいなかったが、その後は毎年急激に増加し、2019年には959万人となった(図5)。訪日外国人観光客の約30%を占めるようになったのだ。

© JBpress 提供 図5:訪中日本人と訪日中国人の数の推移 (出所)日本政府観光局と国家統計局のデータを参照して著者作成※2019年の訪中日本人の数は不明のため空欄
 それとシンクロして、中国人の対日認識も劇的に改善した。日本に良い印象を持つ中国人は2013年には過去最低の5.2%しかいなかったが、2019年には過去最高の45.9%まで上昇した。


 訪日経験が中国人の対日認識に影響を与えることは調査でも明らかになっている。例えば、言論NPOによると、訪日経験のある中国人の81.1%が日本に良い印象を持っていると答えた一方、訪日経験のない中国人で同じ回答をしたのは37.2%だけであり、その差は43.9ポイントにもなった(図6)。

© JBpress 提供 図6:日本への渡航経験の有無は対日印象に影響するか(2019年中国世論) (出所)言論NPO「なぜ、日本人に中国へのマイナス印象が大きいのか」
 また、GMOリサーチの「日本のイメージ、観光嗜好に関する日中比較調査」(2015年8月実施)によると、訪日経験のない中国人は日本に対してネガティブなイメージを持ちがちだが、日本を訪れたことのある中国人は、良いイメージも含めた多様な見方をするようになることがわかっている(図7、図8)。

© JBpress 提供 図7:訪日経験・予定のない中国人の日本のイメージ[N=452、自由回答] (出所)GMOリサーチ株式会社「日本のイメージ、観光嗜好に関する日中比較調査」

© JBpress 提供 図8:訪日経験のある中国人の日本のイメージ[N=445、自由回答] (出所)GMOリサーチ株式会社「日本のイメージ、観光嗜好に関する日中比較調査」
 では、訪中日本人の数はどうだったのか。実は、2012年に尖閣問題が起きた翌年には約64万人も減少し、それからはずっと、中国に対して良い印象を持っている日本人とほぼシンクロして低空飛行を続けている(前出の図5)。しかし、データとしては、日本人の対中認識についてそのような因果関係を示すものは特に見つからなかった。


 そのため、私は日本人の対中認識に影響する要因とは何なのかを独自に調査することにした。


 後編ではその調査結果を紹介する。