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安倍総理の志は死なない!!

菅政権グリーン戦略、原発増強の決断迫る-震災後のタブー破るか

(ブルームバーグ): 昨年発足した菅義偉政権は、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を実質ゼロとする環境目標(カーボンニュートラル)を掲げた。2011年3月の福島第一原子力発電所の事故以来、国民生活や経済活動に必要な電力の大部分をCO2排出量が多い石炭などの火力発電に頼ってきた日本は、政治的タブーとされていた原発復権の判断を迫られている。
  東京・霞ヶ関の経済産業省本庁舎17階の会議室。ここで開かれる総合資源エネルギー調査会の分科会で政府や企業関係者、学識経験者らが日本のエネルギー供給のあり方について議論を深めている。政府は分科会での議論をベースに中長期的な日本のエネルギー政策を方向づける次期「エネルギー基本計画」を年内に策定する予定だ。
  2月24日の会合で日本商工会議所の三村明夫会頭(日本製鉄名誉会長)は原発事故以来、日本では「原子力の位置付けはずっとあいまいなまま」できたと発言。菅首相の環境方針が出て初めてそれを「明確にしなければいけない時期が来た」と考え、そうした状況を喜んでいると述べた。
  次期計画で焦点の一つとなるのが発電電力量に占める原子力の比率だ。福島の事故を受けて20-22%に引き下げた30年度目標が見直される見通し。日本はかつては米国、フランスに次ぐ世界屈指の原発大国で震災前までは54基が稼働していた。事故後の安全基準強化による再稼働の遅れや運転差し止めの司法判断などで19年度でも6.2%にとどまっている。
© Bloomberg 原発は縮小
  ただ、菅政権がグリーン成長戦略を打ち出したことでCO2の排出が少なく低コストで安定的な電力供給が期待できる原発の見直しが一気に進むという見方について、同分科会の委員で国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授(エネルギー産業論)は明確に否定する。
基幹産業にも混乱
  震災による巨大津波で福島第一原発は電源を喪失、水素爆発が起きてセシウムなどの放射性物質が大量に外部に放出された。一時は東京を含めた同原発から半径250キロメートル圏内の住民が避難対象になるシナリオも想定された未曽有の災害を経て、原発への国民的な反発はいまだに強く、復活へのハードルは高い。
  社会調査研究センターが今年2月に行った世論調査では、39%が原発は「ゼロにすべきだ」とし、「増やすべきだ」との回答はわずか4%だった。
  橘川教授は震災からの10年間、歴代政権は選挙で票につながらない原発の諸課題を先延ばしにしてきたと指摘。その結果、日本の原子力政策は「戦略もなければ司令塔もいない状況」が続いているという。「日本の原子力は野垂れ死にしていく」とみており、50年時点の電源構成でも原子力が占める割合は最大で1割程度と予測する。
  菅政権は、30年代半ばにガソリン車の販売を禁止して電気自動車(EV)を含む電動車の拡大も目指しており、政府の急な方針転換は産業界にも混乱を招いている。
  日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は11日の会見で、カーボンニュートラル達成に向けて「車が全てEVになればいい。そんな報道もあるが、そんな単純なものではない」と強調。カーボンニュートラルは自動車業界だけの取り組みでは難しいとし、「エネルギーのグリーン化が必要」との意見を表明した。
  自工会では、すべての車がEVになれば夏のピーク時に電力不足が生じ、その解消には原発10基分の発電能力が必要になると試算している。豊田氏は今後は自動車生産が「CO2排出の少ないエネルギーで作れる国にシフトしていこうという動きが出てくる可能性がある」とし、火力発電所に大きく依存する日本のエネルギーの状況に警鐘を鳴らした。
  その上で、「10年前とは違った形でまたしても日本のものづくりを守るという戦いがさらに大きなマグニチュードになって自動車業界に押し寄せてきている」と続けた。
複数のシナリオ
  民主党政権で原発事故収束担当相として原子力の問題に向き合った細野豪志衆院議員は「温暖化を止めて、石炭をやめて、そして原発を全く動かさないという選択肢はない」とし、安全が確認された原発の再稼働は必要との見方を示した。しかし、既存の原発を再稼働するだけでは十分な電力が賄えない可能性がある。
  国内で現在稼働が可能な原発は33基。原発は定められた運転期間を終えると順次廃炉となることから、原則40年の運転期間を60年に延長し、大間原発(青森県)など建設中の3基を加えても50年には23基まで減ると経産省は試算する。
  その一方で電力需要は3-5割程度増える見通し。既存の火力発電の脱炭素化のほか、安定的な再生可能エネルギーの活用を可能にする蓄電池などの技術革新が起きなければ原発の新増設や建て替え(リプレース)などが必須となる計算だ。
  総合資源エネルギー調査会の分科会の足元の議論では、50年の原子力比率について0%、10%、20%とする複数のシナリオについて検討を行う方向となっている。
  同分科会の委員の1人でエネルギー経済研究所の豊田正和理事長はインタビューで、新規の原発の建設から運転開始までは10年程度かかるため、脱炭素の取り組みに向けて現在検討中の次期エネルギー基本計画では「新増設を入れる必要がある」と語った。
盟主の面影なし 
  しかし、菅政権の発足後も加藤勝信官房長官や梶山弘志経産相など政府高官は、原発の新増設やリプレースは現時点では想定していないとする考えを繰り返し述べている。
  電力業界でも原発推進の司令塔不在の状況は同じだ。福島第一原発を運転していた東京電力ホールディングスは事故後に実質国有化された。約12兆円にのぼる賠償などの費用を背負って経営再建中で、かつての電力業界の盟主の面影はない。
  小早川智明社長は4日のインタビューで、福島事故後、建設が中断している青森県の東通原発は「将来の開発有望な地点と位置づけている」が、今後の開発については未定だと語った。
  電力大手10社で構成する電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)も2月の定例会見で「世論が新設、リプレースを議論できる段階には今のところないのかもしれない」とし、当面は原発の再稼働や稼働率向上を優先すべきだとの考えを示した。
  分科会委員の橘川氏は安全性の観点からはより新しい原発の方が望ましく、「べき論でいえばリプレースをすべきだ」と語った。しかし、福島事故以来の原子力政策を踏まえれば、「現実感覚ではもうリプレースはない」と予測しているという。
票だけで動くにあらず
  「政治家というのは、選挙で票だけで動いてるのではないというところをたまには見せないといけない」。
  細野衆院議員は4日の記者会見で、福島第一原発で保管されている放射性物質を含む処理水の海洋放出について、漁業団体などからの反対にもかかわらず自らは支持していることを例に挙げて述べた。
  現在は無所属の議員として活動し、2月末に「東電福島事故 自己調査報告」と題する著書を刊行した細野氏。エネルギーの確保は「国の存亡に関わるリスク」だとし、「今の政権なり責任ある立場の方々」に「やるべきことをやっていただきたい、決めるべきことを決めていただきたいと非常に強く思う」と政治家の決断を求めた。
  だが、原発の新増設について自らの意見を問われると、新著でも「書こうか書くまいか迷ったが、中途半端に書くのはよくないとやめた」とし、別の機会に明らかにしたいと述べるにとどめた。