Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

コロナワクチンを輸出品目に据える台湾の戦略

新型コロナウイルスの流行が始まった当初から、台湾で対策の最前線に立ってきた衛生福利部(日本の厚生労働省)部長で対策本部指揮官の陳時中氏は2021年3月5日、現地メディアの取材に対し、臨床試験の結果にもよるが、順調にいけば7月には国産ワクチンの量産を開始できると述べた。また、国民の間にワクチンに対する不安があるのなら、行政院長(首相)の蘇貞昌氏とともに率先して打つと語った。
3月3日に英アストラゼネカ製のワクチン11万7000回分が製造国の韓国から台湾に到着したばかりで、いよいよ接種が始まるそんな状況下での発言だった。
2021年末までに1億2000万本を生産予定
中国の度重なる妨害で、公衆衛生の分野でも国際的に孤立が続く台湾では、世界中を巻き込むパンデミックが発生すれば、ワクチン入手は相当な困難に直面することが予想されていた。そのため当局では、ワクチンの輸入と並行して国産ワクチンの開発も進めていた。
この政府の方針に従って開発を進めてきたとされるのが台湾バイオ大手の4社だ。独自に研究開発した国光生技と連亜生技、アメリカ国立衛生研究所の技術協力を得た高端疫苗、台湾国家衛生研究院からのバックアップを受けた安特羅生技のうち、陳氏が「7月に量産開始する」と述べたのは、高瑞疫苗と連亜生技と見られている。両社合わせて月産2000万本、そのうち1社は2021年末までに1億2000万本の生産を見込んでいるという。
台湾の人口は2200万人、1億2000万本はさすがに多い。陳氏は議員からの質問に対し、それはメーカーのビジネス分も含まれていると語った。つまり、ワクチン輸出に向けて着々と準備を進めているということだ。
2000年頃のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行で国際的な孤立を経験した台湾にとって、医療医薬品の国産化は悲願だったに違いない。しかし台湾人にとって、国産の医療医薬品に対する信頼は薄い。医薬品の安全性もさることながら、「日本のものは『効く』、台湾のものとは違う」と思われている。
日本へ観光旅行でやってくると必ずドラッグストアに立ち寄って医薬品を多量に購入するのは、そうした日本の医薬品に対する絶対的な信頼と、国産品への懐疑的な心情が表裏一体になっているためだ。
一方、医療従事者は一流である。日本統治時代、台湾人が立身出世を望むならば医師になるのが一番という風潮があった。戦後の中華民国による統治でもその流れは変わらず、一流の学生は医学部に進学して医者になるという状況が1世紀以上続いている。
台湾政界でも、前副総統の陳建仁、現副総統の頼清徳、現台北市長の柯文哲、現高雄市長の陳其邁の各氏など政界にこれほどまで医師出身者が多いのはそういった土壌があるからだ。
日本の医薬品への絶対的な信頼についてもう一つ例を挙げるとすれば、2015年に台湾政府が富士フイルムから直接「アビガン錠」を輸入、備蓄を決めたことだろう。SARSの苦い経験から、戦時下さながらの準備を続けてきた台湾。アビガンを採用するにあたり、先述の「日本製のものだから『効く』」、そんな信頼があったのは間違いない。
水際対策で自信を深めた台湾の次なる一手
しかし、今回のコロナ禍で、国産マスクの手配や供給、さらに品質面での優位性などで、国民はすっかり台湾産に信頼を強めるようになった。そのような中、国産ワクチンの開発を後押ししているのが、各国、特に日本から伝わる海外製ワクチン接種後のアナフィラキシーなどの副反応情報である。本当に台湾人の体質に合うのだろうか、水際対策で成功しているのだから焦って海外ワクチンを接種する必要はない、もう少し周辺国の様子をみて国産ワクチンが完成してから接種してもいいのではないか――。そんなムードが国民の間で広がっている。
水際対策が成功したからこそ、ワクチン接種の選択ができた。開発レースでは先頭集団に入れなかったが、その分、国産ワクチンのニーズが醸成された。そんなビジネスの好循環が今の台湾で続いている。そして、官民一体で「国産だから安心」を打ち出し、十分な生産量を確保したうえで、輸出品として世界に打って出る。マスク、半導体に続く戦略物資のビジネスという観点から、台湾は世界を見据えている。
今さらながら日本の国産ワクチンがもっと早くできていれば、台湾への輸出も可能だったかもしれないと思うと、日本人としては歯がゆい。何より危機下における生存方法を台湾からつねに見せられているようにすら感じる。
中国に輸出するパイナップルが突然禁輸され、代わりに日本へやってくるようになった今、農産品だけでなくワクチンさえも台湾からやってくる日が近い将来あるのかもしれない。日台間のビジネスは、私たちが感じる以上にダイナミックに動き出している。