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安倍総理の志は死なない!!

「誰も信頼できない」香港から英に逃れても、中国当局の影におびえる日々

 【ロンドン=広瀬誠】反体制派を取り締まる国家安全維持法(国安法)が施行された香港から、旧宗主国の英国に逃れる人が相次いでいる。身の安全が保証される新天地に至ったというのに、昨年9月に渡英した20歳代後半の男性は今でも、中国、香港当局の影におびえていた。


■名も明かせず


 パソコンの真っ黒な画面には「Peter」という仮名の頭文字「P」が浮かぶだけ。「『誰も信頼できない』というルールは英国でも変わらない」。スピーカーから聞こえてきた香港なまりの早口の英語は震えていた。


 香港出身者を対象とした支援団体の紹介を受け、オンライン取材に応じた男性は、顔を出すことも、実名を明かすことも拒んだ。英国に逃れたことが当局に知られれば、香港に残る家族や友人に累が及びかねないと考えるためだ。


 2019年の香港の反政府抗議運動では、警官隊との衝突も辞さず、時には地下鉄などの破壊行為に及んだ「勇武派」と呼ばれたグループの一員だった。昨年6月の国安法施行以来、当局による最大の摘発対象だ。


 周辺では当局への密告も横行し、人を信用できなくなった。「中国政府に不都合なことを言うだけで理由もなく逮捕され、もはや私の知る香港ではない」と感じている。当時の仲間の多くは逮捕されるか国外に逃亡し、自身も安全に暮らせないと判断した。早い段階で渡英したため、出国阻止は逃れたが、「もう香港には戻れない」と考えている。


 今年1月末、香港住民の英国市民権取得を可能とする「英国海外市民ビザ」の受け付けが始まり、すぐに申請した。建設コンサルタント会社の仕事も見つかった。それでも、ロンドンの家賃は高額なため、英国人とのルームシェアだ。香港では外食中心だったが、最近はアジア料理を自炊しては昔を思い出している。親には「英国で仕事を見つけた」としか伝えていない。


 渡英後も複数の団体を通じ、香港に残る人々を支援してきた。今後は香港から逃れてくる人に建設関係の仕事を紹介しようと考えている。「助けるためなら何でもする」と話すが、匿名は継続しようと考えている。


■金銭面、仕事探し不安


 19年11月に渡英し、亡命が認められたサイモン・チェンさん(30)。昨年7月に市民団体「英国の香港人たち」を設立し、ビザ申請や英国での生活について支援や助言を行っている。団体メンバー13人のうち実名を公表するのは2人だけだ。


 この団体は昨年9~10月、香港の渡英希望者ら約300人にアンケートを行った。16%が「渡英後に半年間生活する余裕がない」と金銭問題を訴え、家や仕事探しを不安視する声が相次いだ。52%は「英国に友人がいない」と答えた。団体は英政府に、香港住民の定住に向けた支援強化を求めている。


 チェンさんはかつて在香港英国総領事館で勤務し、19年8月には中国本土の警察に拘束された経験を持つ。「民主主義の灯を保ち続ければ、いつか自由のある香港に戻れるかもしれない」と希望を抱き、香港出身者で議員を選出する「影の議会」の準備も進めている。


 ◆英国海外市民ビザ=香港の「英国海外市民(BNO)旅券」を持つ住民を対象に長期滞在を認める英国のビザ制度。国安法施行への対抗措置で、ビザが承認されれば英国に5年住んで働くことができ、さらに1年住めば市民権を申請できる。英政府は5年間で約30万人の申請を見込む。