Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米国、中国を強烈批判するも致命的な「間の悪さ」

 私が新著『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(講談社現代新書)で予見した「米中新冷戦の7つの戦い」が、ひたひたと進行している。


「7つの戦い」とは、(1)貿易、(2)技術、(3)人権、(4)金融、(5)疫病、(6)外交、(7)軍事である。3月18日、19日に米アラスカで行われたジョー・バイデン政権になって初めての米中高官協議は、(6)の「外交戦争」にあたるが、この両日、7つのすべての問題を巡って、米中が激しい火花を散らした。


 楊潔篪中国共産党中央政治局委員(中央外事活動委員会弁公室主任)と王毅国務委員兼外交部長(外相)は、協議の冒頭発言で、アメリカ側のアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリバン大統領安保担当補佐官に、強烈な非難を浴びせた。この「戦狼(せんろう)外交」(狼のように吠える外交)の模様は、日本でも繰り返し映像が流れ、多くの日本人を唖然とさせた。


 ただ、この件に関して、あまり俎上に上っていないことを、中国とアメリカについて1点ずつ述べたい。


中国外交トップの強硬姿勢は習近平に対するアピール
 まず中国だが、楊&王の「戦狼ペア」は、アメリカに向かって吠えているように見えて、その実、中国国内に向かって、特に「中南海の主」(習近平総書記)に向かってパフォーマンスしている部分がかなりあるということだ。


 中国は、来年秋の第20回共産党大会で、習近平総書記が「任期」を迎える。だが、引退する気などさらさらない習総書記は、自らの政権の力を鼓舞するため、「3大イベント」を準備中だ。第一に、今年7月の中国共産党100周年の記念式典、第二に、9月の中国国連加盟50周年の記念スピーチ、第三に、来年2月の北京冬季五輪の開催である。


 そのため、いまは「習近平強国外交」の正当性を、14億中国国民にアピールしたい時期なのだ。中国において、外交はあくまでも、内政の延長なのである。


 そのため楊&王の「戦狼ペア」は、習総書記の代弁者を演じた「俳優」とみるべきだ。楊氏は「名前に入っている虎のように勇ましく、外交官の鑑(かがみ)だ」と習総書記の覚えがめでたいことで知られる。王氏も、習総書記に絶対忠誠を誓っており、「同世代の北京人」ということもあって、いまや最側近の一人だ。


米中高官協議の直前にアトランタで起きたアジア系女性6名殺害事件
 一方、アメリカについて述べたいことは、ホームグラウンドであったジョー・バイデン政権側の「間の悪さ」である。


 米中高官協議2日目の19日、バイデン大統領はカマラ・ハリス副大統領を引き連れて、その3日前にアジア系アメリカ人女性が6人も殺されたアトランタを緊急訪問した。地元のアジア系市民のリーダーたちとの対話集会を行ったが、彼ら、彼女らの多くは、中国人と同じ顔つきをしていた。


 バイデン大統領はアトランタで、全米に向けてスピーチも行った。「多くのアジア系アメリカ人が、通りを歩くことにも不安に苛(さいな)まれながら、毎朝目を覚ましている。アジア系アメリカ人たちは攻撃され、非難され、スケープゴートになっていじめられ、心理的に叩かれ、殺されているのだ・・・」


 CNNは繰り返し、そうしたバイデン大統領の様子をトップニュースで伝えていた。米中高官協議のニュースはその後に掻き消され、何だか「正義」は中国側にあるかのような印象なのだ。


 もちろん、アメリカ国内のアジア系への差別は、大変由々しき問題だ。だが、その一因が中国の「戦狼(せんろう)外交」(狼のように吠える外交)にあるのも事実である。そうした結果、アメリカ国内の反中感情は、1979年の米中国交正常化以降、最高潮に高まっている。


プーチンは「殺人者」
 バイデン大統領の「間の悪さ」は、他にもある。それは米中高官協議前日の17日、ABCニュースのインタビューで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を「殺人者」と認定したことだ。ABCニュースのアンカーマンであるジョージ・ステファノブロス氏に、「プーチン氏は殺人者と思いますか?」と問われて、「そう思う」と答えたのだ。さらに、「彼(プーチン大統領)は代償を払うことになるだろう」と発言。その代償については、「じきに分かる」と述べた。CNNは、プーチン大統領に近い複数のロシア人に対する経済制裁を来週、発表する予定だと報じた。


 このインタビューは、放映前日の16日に行われた。バイデン大統領は同日、昨年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ前大統領の再選に向けてロシアが工作していたという報告を受けた。それはプーチン大統領の命令だったというものだ。前回の2016年の大統領選挙でも、ロシアはプーチン大統領の命令で同様の工作を行っていたとアメリカは見ており、バイデン大統領は堪忍袋の緒が切れた格好だった。


 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官も、「米ロ関係は、トランプ前政権の時とは違うものになるだろう」とダメ押ししている。


 これに対し、ロシアの反発はものすごかった。これは中国や北朝鮮なども同様だが、強権的な国家においては、「国家」を非難された時よりも、「国家指導者」を批判された時のほうが、より過敏に反応するものだ。


 ロシア外務省は、「アナトリー・アントノフ駐米大使を召還した」と声明を発表。クレムリン(ロシア大統領府)のドーミトリー・ペスコフ報道官も、「バイデン氏は前代未聞の発言をした」と、電話会見を開いて怒りを露わにした。


 プーチン大統領本人も、18日に出演した国営テレビで、バイデン大統領との生中継でのオープンな会談を、19日か22日に開くことを提案し、挑発した(アメリカ側は拒否)。


 そんな中、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は22日、中国を訪問し、アメリカから戻ったばかりの王毅外相と中ロ外相会談に臨む。アメリカが「共通の敵」になったことで、中ロが「準同盟」化していくのは必至の情勢だ。


中国と対決するのにロシアを敵に回してどうする
 このほど日本でも発売されたバラク・オバマ元大統領の回顧録『約束の地』(集英社刊)には、2009年4月、ロンドンG20サミットで外交の初舞台を踏んだオバマ大統領が、誰よりもロシアのドミートリ―・メドベージェフ大統領との米ロ首脳会談に神経を遣った様子が描かれている。最大のライバル・中国に対峙していくにあたって、ロシアを味方に引き入れようと腐心したわけだ。


 当時、副大統領だったバイデン氏は、当然、「米中ロの三角関係」は熟知していて然るべきなのに、なぜ中国もロシアも同時に敵に回してしまうのか? これでは、「中ロよ、くっつきなさい」と導いているようなものだ。


 ともあれ、米中新冷戦は、もはや世界の誰も止められないということなのかもしれない。