Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米中会談の蹉跌:米国民の反中感情煽る中国の一言

脚本家や演出家がしゃしゃり出た三流芝居
 米中の外交トップが厳寒のアラスカ州アンカレッジで2日間、激突した。
 会談が開かれたのは市の中心にあるキャプテン・クック・ホテル。屋外は零下10度。米中関係の現状を象徴するかのような凍てつく寒さだった。
 共に食事をとることもなく、共同記者会見もせず、会談後の共同声明もなかった。
 それでいて、全世界が「目撃」したのは、会談冒頭の楊潔篪国務委員、王毅外相とアントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン大統領国家安全保障担当補佐官との間で繰り広げられた舌戦だった。
「外交儀礼も何もあったものではない。超大国の名が廃るような大人げない外交ショーだった」(米主要紙のベテラン外交記者)
 4人とも、つい最近、外交最高責任者になったような外交音痴な政治家ではない。何十年にもわたり、国家を背負って外交に携わってきた外交のプロフェッショナルたちだ。
 芝居でいえば、ドラマの筋書きを書く脚本家や観客の前には出ることのない演出家が化粧もせずにしゃしゃり出て、慣れない役者を演じたようなものだった。
 しかも第1幕第1景のでの「言葉の乱闘」となったのだ。
ブリンケン国務長官:
「ルールに基づいた国際秩序は抽象的な概念ではない。各国が平和的に違いを解決し、多国間の努力で効果的に調整し、誰もが同じルールに基づいた国際的な商取引に参加することを助けるものだ」
「ルールに基づいた秩序の代わりにあるのは、勝者が総取りするような世界であり、それは世界の人々にとって暴力的で不安定な世界となるだろう」
「新疆ウイグル自治区、香港、台湾、米国へのサイバー攻撃、米国の同盟国やパートナーに対する経済的な威圧、こういった中国の行動に対する深い懸念について議論する」
楊潔篪国務委員:
「新疆ウイグル自治区、チベット自治区、そして台湾は中国の不可分の領土だ。中国は米国の内政干渉に強く反対する」
「われわれはそうした干渉に断固たる反対を示し、それに応じて断固たる行動をとるだろう」
「人権については、米国内にも多くの問題がある。『ブラック・ライブズ・マター』(黒人の命も重要だ運動)のような問題は、最近になって出てきたものではない。誰かに責任をそらすのではなく、それぞれの問題を解決することが両国にとって重要だ」
「米国に強い立場から中国に話をする資格はない。20年、30年前でさえ、そんな資格はなかった。米国が中国と適切な取引をしたいのであれば、外交儀礼に従って正しい方法で行動すべきだ」
中国トップのひと言でアジア系殺戮
「アラスカ対話」は、米南部アトランタでの韓国系マッサージ店襲撃事件が起こった直後に行われた。
 中国系だけでなく日系、韓国系などアジア系米国人に対するヘイト・クライムはついに韓国系女性ら6人を白人男が殺害する事件にまで発展している。
 その「元凶」は、中国による過激な経済的、軍事的進出や武漢から始まった新型コロナウイルス禍に対する白人の憤りにあるとも言われている。
 これまで数十年となく潜在的にあった黄色人種に対する白人の偏見が、ここにきて一気に噴き出したと説く識者もいる。
 中国系米国人のジャーナリストは吐き捨てるように筆者にこう言う。
「中国外交トップが米国の国務長官を面罵し、自分たちがいかに正しいかを主張するのをテレビやインターネットで見た白人の米国人は、アジア系米国人に対するヘイト・クライムを増幅させている」
「そんなことには楊潔篪氏も同氏を操っている習近平国家主席もあまり関心がおありではないようだ」
「習近平さんが『世界の中華民族は一つだ』などと公言するのを聞くと、あきれるだけだ。われわれ中国系米国人は強硬な反中勢力にならざるを得ないね」
小説:米中戦争は2034年勃発する
© JBpress 提供 2034: A Novel of the Next World War by Elliot Ackerman & Admiral James Stavridis USN Penguin Press, 2021
 その最中、衝撃な本が出た。タイトルは『2034: A Novel of the Next World War』(2034年:次の世界大戦の小説)。
 米海軍の退役軍人2人が書いた近未来小説だ。著者はエリオット・アッカーマン、ジェームズ・ストラブリディス両氏。
 22年後、南シナ海とイラン領空で米軍の艦船と偵察機が同時に攻撃を受けたことで米中戦争が勃発するという筋書きだ。
「2034年3月12日、南シナ海を航行中のの旗艦のブリッジにいたサラ・ハント艦長は駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズから黒煙が上がるのを目撃した・・・」
「現地時間同時刻、ホルムズ海峡上空を飛行中のクリス・ウェッジ・ミッチェル米海兵隊少佐が操縦するステルス多用途戦闘機F-35Eがイラン軍に撃墜された・・・」
 中国とイランとが示し合わせて対米開戦に踏み切るストーリーは、これまでの米中戦争モノとは趣を異にしている。
(これ以上は小説のネタばれになるので差し控えておく)
 2人の著者の豊かな実戦体験に基づく軍事衝突の「現実」がビビッドに描かれている。と同時に浮かび上がってくるのは、米国人の中国脅威に対するリアルさだ。
「これ以上中国の横暴な侵略行動を許すわけにはいかない」という米国人の半端ではない憤りが全編を通じて迸(ほとばし)っている。
 発売と同時にリベラル派、保守派の隔たりなく読書愛好家の間で引っ張りだこだという。
外交パフォーマンスの中にも妥協点
「アラスカ対話」に話を戻す。
 米中関係を定点観測してきた米主要シンクタンクのK氏は、「アラスカ対話」についてこうコメントする。
「冒頭のフォト・オポチュニティ(写真撮影)を利用して先制攻撃を仕かけたのは中国。計算し尽くした行動だった」
「これで終わられては米国サイドは面目丸つぶれということで、カメラマンや記者団を会談場に足止めさせて、メディアの前で反撃に出た」
「発足間もないジョー・バイデン政権のブリンケン国務長官は、必要以上に反中国の米議会や世論に神経を使ってきた。弱腰に出れば一斉に批判されるからだ」
「今回の白熱したパフォーマンスは、むろん外交上の駆け引きの一環だが、それをどう国内向けに見せるかも重要な要素だった」
「共産党一党独裁の中国ならいざ知らず、報道の自由を建前にする米当局者は隠し立てできない。冒頭のやり取りは、そうした国内の政治状況を勘案してみるべきだろう」
一致点は気候変動、イラン、北朝鮮
 ブリンケン氏は3月19日、会談を終えた後、記者団にこう「総括」した。
「われわれは、中国のカウンターパート(対話相手)との数時間に及ぶ対話(Conversation)で広範囲なアジェンダについて話し合った」
「われわれはかなりの分野とは根本的な食い違いがあることが分かった。その分野には新疆ウイグル自治区、香港、チベット、台湾、サイバースペースでの中国の行動についてだ」
「われわれは、これらの分野におけるわれわれの立場について明確に、単刀直入に問題提起した」
「中国側の反応は、重苦しい、陰鬱な回答(A pensive response)だったが、われわれは(すでに周知のことなので)驚いてはいない」
 中国側高官を肩書では呼ばず、「会談」ではなく、「対話」と表現するブリンケン氏は、今回の会談が取引の場でも交渉でもないことを強調したかったのだろう。
 あくまでも非公式な、双方が相手の考え方を聞く「対話」ととらえていることを力説しようとしたかったのだ。
 では、全くの成果がなかったのかというと、そうではない。ブリンケン氏はこう付け加えている。
「(話し合った広範囲なアジェンダの中には)イラン、北朝鮮、アフガニスタン、気候変動といったわれわれの関心事が含まれている」
「経済、通商、テクノロジーについては、われわれはカウンターパートに現在米議会や同盟国、パートナーと緊密な協議を行い、再検討していると伝えた」
 これを受けて、バイデン大統領の「分身」、サリバン氏はこうコメントした。
「われわれははっきりとした認識を持ってここに来た。そしてはっきりした認識を持ってここを後にする。ここで得た情報を基に状況判断するためにワシントンに帰る」
「ここで出たイランからアフガニスタンなどのアジェンダについて通常の外交チャンネルを通じて同盟国およびパートナーと引き続き協議する」
「われわれは中国と引き続き、努力して進むことになるだろう。われわれは米国の国益と価値観を推し進めるために本題に入るのを楽しみにしている」
(https://www.state.gov/secretary-antony-j-blinken-and-national-security-advisor-jake-sullivan-statements-to-the-press/)
習主席:言うだけ言って、舵を切れ
 中国側はどうか。
 ブリンケン氏らの日韓歴訪を知るや、中国に立ち寄らないかと言い出したのは中国。「アラスカ対話」の日程が決まるや、中国共産党機関紙「人民日報」は社説でこう書いた。
「米中両国が英知を発揮し、対立と対決を避ける方向へ舵を切れるという希望を呼び覚ます動きを歓迎する」
 米国人には言いたいことはズバズバ言えばいい。彼らには東洋的な惻隠の情など通用しない。言い争う中で相手が譲歩できるスキを見つければいい――おそらく、それが中国の戦術だったに違いない。
 習近平国家主席も、バイデン政権の「対立は対立、双方の利害が一致する分野では協力する」とする発言を信じて、外交トップをアンカレジに送り出したに違いない。
 だとすれば、米国は人権問題などの対立点は、「継続審議」として神棚に上げ、最重要懸案の気候変動や核がらみのイラン、北朝鮮問題で中国に協力を求めてくる――そう睨んだに違いない。
 気候変動阻止は中国とっても急務の課題だ。
 また超大国を自負する中国にとってはイランでも北朝鮮でも非核化に向けた動きに一枚噛む必要がある。
 その一方で、バイデン政権の心証を良くし、その見返りにドナルド・トランプ前政権が中国製品に課した関税を何とか撤廃させてもらいたい、という本心が見え隠れしている。
強くなるしか米国の道はない
 白熱したパフォーマンスの陰でちらついたのは、米中の緊張関係を少しでも和らげ、前に進めようとするバイデン政権の思惑だ。
 それがブリンケン氏が上げた気候変動であり、イラン、北朝鮮、アフガニスタンだ。
© JBpress 提供 Stronger: Adapting America's China Strategy in an Age of Competitive Interdependence by Ryan Hass Yale University Press 2021
 米国では、まさに猫も杓子も口さえ開けば反中国一色だ。
 しかし、そうした中でブルッキングス研究所上級研究員のライアン・ハース氏(元米国家安全保障会議=NSC=中国部長)が書いた本が出た。
 今や屈指の中道派のアジア外交専門家だ。
 タイトルは『Stronger: Adapting America's China Strategy in an Age of Competitive Interdependence』(より強くなれ:競争的相互依存時代における米国の対中戦略)だ。
 前述の手に汗握る(?)米中戦争ものとは対照的な地味だが、説得力のある本だ。
 ひと言でいえば、本書の趣旨はこうだ。
「米国は今や、中国と競争的依存関係にある。軍事、経済、ハイテク、サイバーでは敵対的競争関係にある」
「これに打ち勝つ唯一の戦略は米国自身が中国より強くなること。国内で対立したり、分裂などしている余裕はない。米国の強みは世界中から集まった多国籍的な英知と頭脳があることだ」
「それをオープンで自由な民主主義体制が守り、育んでいる。一党独裁政権が牛耳っている中国などに負けるわけがない」
 バイデン大統領にとっては「応援歌」のような本だ。
 具体的には新疆ウイグル自治区における中国の政策(人権問題)にどう対応するべきか、中国の侵略的海洋進出への対抗策(南シナ海問題)などについて鋭く切り込んでいる。
 例えば、
①「人権問題」では日本などの東アジアの同盟国ではなく、伝統的に人権を重んずる欧州連合(EU)との結束を強化する。
②また人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)や協定(International Covenant on Civil and Political Rights)を大義名分にした対中圧力を強化する。
 人権問題などでは、いくら日米豪印の「クアッド」間の協力強化を叫んでも、日本などは乗ってこないことを知っているのだ。