ネコウヨの散歩

ネコと憂国

「報ステ」炎上CMでわかったニュース番組の高慢

テレ朝焦りの背景に20~34歳女性視聴率の低さ
境 治 : メディアコンサルタント
2021年03月27日
「報ステ」ことテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」のWeb用CMの炎上が話題になった。CMがYouTubeなどに公開されたのは3月22日。23日夜にはSNS上で「女性蔑視だ」「ジェンダー平等に取り組む人を揶揄している」などと批判が殺到、翌24日朝には大きな炎となっていた。すぐに削除されるだろうと思っていたが、意外に粘った挙句24日のうちには削除された。


削除された「報ステ」 Web用CMは、「仕事帰りの女性が誰かに話しかけている」といった体裁のCMだった
何しろコピーの構成がまずい。「ジェンダー平等が時代遅れ」だけが印象に残り、これでは女性たちが不快に感じるのももっとも。よく聞くと「会社の先輩産休あけて赤ちゃん連れてきてた」とも言っている。
この部分と「ジェンダー時代遅れ」の部分の関係がまったくわからないのだが、3回くらい見るとなんとかわかるのは、彼女の会社はジェンダー議論の先を行っていると言いたいらしいことだ。いまの若い層はそこまで進んでいると伝えたかったのだろう。
「報ステ」CM背景にテレビ業界のある変化
時代の先を行くはずが時代とズレまくり、イメージアップどころか逆にイメージを最悪にするCMになってしまった。Web用のCMの場合、予算がかからず影響力も小さいため担当者のみで走って、チェックが甘く炎上する例が数年前はよくあった。本件はその久々の事例ではないだろうか。もしそうなら、Web用CMを作った担当者のせいで終わりかねない。
だが私はこの件からさらにニュース番組が患っている「重病」について語りたい。
そもそもなぜ「報ステ」は若い女性が登場するWeb用のCMを作ったのだろう。以下は私の推論だ。
テレビ業界は2019年、世帯視聴率から個人視聴率に指標が変わった。このテーマは東洋経済オンラインで何回か書いている。ざっくり言うと、世帯視聴率では数の多い高齢世帯の視聴に大きく左右されていたのが、個人の視聴率を世代別に見られるようになったため、広告主が重視する「若い世代の視聴」が問われるようになった。
日本テレビはもともと独自の「コア視聴率(49歳以下)」を設定し、若い層へのリーチを確保してきた。同局の売り上げ、利益が高いのは、世帯視聴率ではなくコア視聴率を重視する戦略が功を奏したからだ。
2019年以降、他局も少しずつそれぞれなりの「コア視聴率」を定めて番組内容や編成を変えていた。ところがテレビ朝日はこの流れに乗らなかった。世帯視聴率重視の姿勢を崩さずやってきた結果、番組が高齢層に寄りすぎて、これまでなかなか修正できなかった。
だが営業への影響が如実に出てきたため、そうも言ってられなくなったのだろうか。去年後半からずいぶん番組が変わり、若者を意識したものが明らかに増えていた。急に、若い世代の出演者が増えたことに気づいていた人も多いだろう。
こうした動きはバラエティが中心だが、テレビ各局、ニュース番組も少しずつ若い世代を意識し始めていた。とくに日本テレビの「news zero」は有働由美子氏をメインキャスターに据え、キャスターに櫻井翔氏、パートナーに落合陽一氏を起用して、取り上げる題材も若い世代に寄せている。
「報ステ」20~34歳視聴率、驚愕の低さ
そんな中での「報ステ」のWeb用CMだ。おそらく、若い世代の視聴獲得が課題になっていたのだろう。「久しぶりに会社に行ったことをリモートで友人に報告する若い女性」という設定の狙いはそこにあると思う。実際、入手した「報ステ」の世代別視聴率を見ると、極端に高齢層に寄っているのがわかる。
(外部配信先ではグラフや図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


M1層:20~34歳の男性、F1層:20~34歳の女性、M2層:35~49歳の男性、F2層:35~49歳の女性、M3層:50歳以上の男性、F3層:50歳以上の女性(出所:筆者提供)
これほど高齢層に偏っている「報ステ」を若い世代に見てもらう方策はあるのだろうか。そもそもテレビを見ないと言われる彼ら彼女らがニュース番組を見る可能性はあるのか。
それを考えるうえで、面白いデータがある。電通のメディア研究チーム、メディアイノベーションラボの3月18日のセミナーで発表された調査結果だ。
「どのメディアを頼りにしますか」と「メディアや情報源にどのようなメリットを感じますか」の2つを聞いて、人びとをメディアとの関係から6つのクラスター(CL)に分類している。
すべてを説明すると長くなるのでニュースに関係するクラスターに絞って簡単に説明しよう。
「CL1:古き佳きマス社会型」は世の中の動きを知るために新聞やテレビの報道を見る人たち。マスメディアのストレートな受容者だ。「CL4:マスメディア=参加・体験型」はCL1よりさらにニュースを求め、民放BSの報道番組も見たりする。テレビのニュース番組を見るのはこの2つのクラスターが中心だ。
他に「CL6:民放テレビで気晴らし型」もあり、比較的40代50代女性が多くドラマやバラエティ志向。この3つがマスメディア型だ。他の3クラスター「CL2:ソーシャルツイン型」「CL3:オルタナコミュニティ重視型」「CL5:ネットショッピング依存型」の説明は省くが、いずれもネットを中心にメディア接触する層。テレビへの依存度は小さい。
「CL6:民放テレビで気晴らし型」は若い世代にもそれなりにいる。「CL1:古き佳きマス社会型」は若い層ではわずかで、50代60代に圧倒的に多い。あくまでも筆者独自の解釈だが、この層こそが「報ステ」のような地上波の帯番組のニュースを見る人たちで、調査にはなかったが70代の団塊世代ではもっと多いと推測できる。ニュース番組で一生懸命世の中のことを知ろうとするのは、年配の男性中心なのだ。
炎上したWeb用CMでジェンダーうんぬんとは別に、圧倒的に気になったことがある。それは最後の「こいつ報ステみてるな」のフレーズだ。「いや、みてないし!」と心の中でつっこんだのは、私だけではないだろう。
炎上CMが炙り出した作り手の問題点
ジェンダー論の扱いや、演出への違和感(久しぶりにキャピキャピした、の言葉を思い出した)を横に置くと、CMに登場しているような女性は現実にいるのかもしれない。おそらく企画意図としては「いまの若い世代は化粧水と消費税の話題を同じように語る」と言いたかったのだろう。
それはそう思う。特にコロナ禍で社会への問題意識を持つ若い世代が増えたことは周囲を見て実感する。ただ、彼ら彼女らの多くが「報ステ」は見ていない。平日夜10時にテレビ朝日系で放送されていることすら知らないかもしれない。
ニュースはLINEニュースやスマートニュースで見るのだ(Yahoo!ニュースではない)。マスメディアのニュース番組はそれぐらい若い世代と距離ができてしまっている。
ジェンダー論とは別になんとなく不快に感じたのは、社会に関心の高い若い女性がいたら「こいつ報ステみてるな」と言えてしまう尊大さ、勘違いぶりにもあったのだと思う。これでは上滑りして、まったく広告効果が望めない。
ニュース番組の作り手が「古き佳きマス社会型」ばかりを相手にしてきて、その向こうにいる人びとの感覚が見えなくなっている証ではないか。これは「報ステ」だけの問題ではない。大きく言えば新聞も含んだニュースの作り手たちは、「古き佳き」視聴者つまり高齢の政治好き(政局好き?)を重視してきたように思う。
30代40代の報道局員でさえ、感覚が団塊の世代と同化している人をよく見かける。日本を憂えてニュースを作り、若い世代を「なぜニュースを見ないのか」と嘆く一方で、究極の“ボーイズクラブ”(男社会)で長年やってきたのでジェンダー意識はひときわ低い。そんな作り手の問題点を今回の炎上CMは炙り出した。
ニュース番組と若者の距離を作ってきたのは若者ではない、作り手の側なのだ。女性キャスターの横に新聞や通信社の“おじさま”を据える感覚が、若者との隔たりを生んできたように思う。もはや幻想とも言える若い視聴者像を描いて「こいつおれのニュースみてるな」と見下ろすのではなく、若者と同じ場所からニュースを発信することが2021年のテレビ局には必要だ。