Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

小池百合子氏とカイロ大学の深い闇

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)
 7月に行われる東京都知事選挙では、現職の小池百合子知事が圧勝する情勢である。もともと有力な対抗馬がいない上に、新型コロナ騒動では毎日のようにテレビに登場して「感染爆発の重大局面だ」と都民の不安をあおったおかげで都民の支持率は70%に急上昇した。
 都議会の最終日6月10日には、立候補を表明するとみられていたが、表明を見送った。この背景には、彼女のアキレス腱になっている学歴詐称疑惑がある。いくら大量得票しても、選挙公報に嘘の学歴を書いたら当選無効になってしまうからだ。
カイロ大学の出した奇怪な「卒業声明」
 小池氏が出馬表明する予定だった前日の6月9日、東京にあるエジプト大使館のFacebookページに、奇妙な声明が発表された。
カイロ大学は、1952年生まれのコイケユリコ氏が、1976年10月にカイロ大学文学部社会学科を卒業したことを証明する。卒業証書はカイロ大学の正式な手続きにより発行された。
遺憾なことに、日本のジャーナリストが幾度もカイロ大学の証書の信憑性に疑問を呈している。これはカイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉棄損であり、看過することができない。
本声明は、一連の言動に対する警告であり、我々はかかる言動を精査し、エジプトの法令に則り、適切な対応策を講じることを検討している。
 原文は英文でカイロ大学学長の署名もあるので、これはエジプト政府としての抗議だろう。それを受けて、都議会で卒業証書を出すよう求める決議案を提出する予定だった自民党は決議案を撤回した。
 だが一卒業生について大学が声明を出すのは異常であり、先進国では考えられない。「エジプトの法令に則り、適切な対応策を講じる」というのは訴訟で脅しているのだろうが、大使館に立ち入らない限り、日本人をエジプトの法令で処罰することはできない。
 むしろこれで明らかになったのは、小池氏の学歴を証明する証拠はカイロ大学に存在しないということだ。卒業生名簿に小池氏の名前があれば、こんな声明を出す必要はなく、そのコピーを出せばいい。卒業証書を発行した記録を出してもいい。
 いちばん簡単なのは、小池氏が自分のもっている「カイロ大学の正式な手続きにより発行された卒業証書」を出すことだが、彼女はテレビで何度か見せたその卒業証書を都議会に出すことを拒否した。疑惑はそれだけではない。
小池氏の矛盾だらけの学歴
 1971年にカイロ・アメリカン大学に入学した小池氏は、72年にカイロ大学の2年生に転入して76年に卒業したというが、黒木亮氏も指摘するように、この話は嘘である。小池氏がカイロ大学に転入できたのは73年10月。彼女は自分で著書に「1年落第した」と書いているので、76年10月に卒業することはできない。
 石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋)によると、小池氏はアラビア語の読み書きはほとんどできないという。もちろんそんな語学力で大学は卒業できないので、卒業名簿にも名前はなく、卒業証明書も成績証明書も出せないのは当然である。
 問題は彼女が、今度の都知事選で学歴をどう書くかだ。2016年の選挙公報には「カイロ大学卒業」と書いているが、公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)の公訴時効は3年なので、検察は起訴できない。
 しかし今度の選挙でそう書いたら、当選無効になる可能性がある。過去にもそういう事例はあり、国会議員の場合には大学が選挙管理委員会に「卒業した事実はない」と答えると失職する。ただ今回はカイロ大学が「卒業した」と声明を出したので、これが証拠になるかどうかが焦点である。
 小池氏が卒業に必要な単位を取っていなくても、学長が「卒業した」と認定することはできる。これは「名誉学士号」のようなもので、卒業証書も証明書もなくても、選管が学長の声明を卒業の証拠とみなせばいい。
 この場合は2016年にテレビで見せた卒業証書や証明書が、偽造有印私文書行使にあたる疑いがある(時効は5年)。その容疑で都民が東京地検に小池氏を告発したが、検察が受理するかどうかは不明だ。
 本質的な問題は、そんなことではない。なぜ今エジプト政府が、こんな声明を出したのかということである。
軍事政権に弱みを握られた政治家
 エジプト大使館が都議会の日程を把握しているはずがないので、これは小池氏が自民党の決議案を封じるためにエジプト大使館に頼んだものと思われるが、政府の声明はそう簡単に出せるものではない。大使館がそれに応じたのはなぜだろうか。
「カイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉棄損」にあたるという理由はおかしい。本当に卒業したなら、その記録を出すのは容易である。それはカイロ大学の名誉を傷つけるものではなく、名誉を回復するものだ。
 その理由は、逆にカイロ大学が「あの卒業証書は大学の発行したものではない」と認めたらどうなるかを考えればわかる。その瞬間に小池氏の選挙違反が決まり、当選無効になる。小池氏の学歴を証明するものはカイロ大学の声明以外に何もないので、彼女の運命はエジプト政府に握られているのだ。
 エジプトの政権は「アラブの春」を弾圧してできた軍事政権であり、カイロ大学の学長もシシ大統領の身内である。学歴を偽造することなど何でもないだろう。
 シシ政権の財政を支えているのは開発援助である。年間3億ドルにのぼる日本からの開発援助が軍事政権を支えてきた。日本とエジプトをつなぐ人脈として、国会議員だった時代から小池氏の果たした役割は小さくない。
 カイロ大学を卒業したかどうかという学歴は、彼女の政治家としての資質とは無関係である。大学中退でも高卒でも、立派な政治家はたくさんいる。問題は、こんな嘘を40年以上もつき続けてきたことである。
 経歴で嘘をつく者は、他のことでも嘘をつく。経歴詐称が、解雇理由として認められている所以である。それは「国際派キャスター」の経歴の飾りとしては大した問題ではなかった。小池氏が都知事であるうちは、エジプトが都政に及ぼす影響は大きくない。
 しかし都庁幹部によると「小池さんはもう都政には興味がない。レクも聞いてくれない」という。これまで出世の階段を駆け上がってきた彼女のターゲットは首相なのだろう。エジプトの軍事政権に弱みを握られた政治家が、日本の指導者としてふさわしいのかどうか。審判を下すのは都民である。