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「ロックダウン」狂想曲から一年。混乱はなぜ広がったのか。カタカナ語の弊害を読み解く【新型コロナ】

一年前の今頃、ある言葉が飛び交っていたのを覚えているだろうか。
「ロックダウン」だ。「4月2日に東京がロックダウンする」こんな偽の情報が昨年、まことしやかに広がった。当時の菅官房長官がネットやSNSでの噂を会見で否定する事態になった。
経験したことのない新型コロナウイルス感染拡大の中、ロックダウン、オーバーシュート、パンデミック、ソーシャルディスタンス......カタカナ語が飛び交い恐怖心が煽られた。
2020年3月には学校が一斉休校され、店からトイレットペーパーがなくなり、マスクを買うための列ができた。一年経ったいま、ロックダウンという言葉はどういう流れで使われ、私たちにどう影響を与えたのか。振り返る。
ロックダウンという言葉が一気に広まったのは、2020年3月23日の小池都知事の発言だ。「都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります 」と会見で述べると、ロックダウンという表現を使う報道が一気に増え、SNSなどにもこの言葉があふれた。
海外が行動制限を行う中、海外の日本人などが、現地のロックダウンの状況や備えなどを善意からSNSなどで伝えた。
国内メディアも、日本においてどのレベルのロックダウンになるのか未知の状態の中、先行する他国の状況を積極的に報じた。ハフポスト日本版では、「ロックダウン前にやっておくべき5つのこと。 『都市封鎖』のニューヨークから、日本人ライターが報告」「もしロックダウンになったら、東京はどうなる? 世界の主要都市からは人が消えた」といった記事が3月中下旬に掲載された。
ロックダウンとは...そもそも何を意味?
ロックダウンという言葉は、そもそも、新型コロナウイルスの感染拡大を予防するため、地域や都市ごと、もしくは国全体で、住民の外出や移動を制限することを意味する。2020年3月末までに100を超える国々が、全面的あるいは部分的なロックダウンを実施した。それによって、数十億人が影響を受けたとされる。
基本的に罰則を伴う行動の禁止や制限を意味するが、具体的な制限範囲は各国で異なった。これが、日本で誤解や憶測を生んだ原因だ。
部屋から一歩も出ることができない中国・武漢のような例や、買い物や散歩は許されるフランスやイギリスなどの例、許可証がないと外出できないイタリアなど各国、各地域でロックダウンによる制限範囲は違った。
アメリカ・ニューヨーク州のクオモ知事は、あえてLockdownではなく“Shelter in Place”という表現を使って、ロックダウンとは違うと訴え、鎮静化に努める動きもあった。
各国の事例が日本にそのまま当てはめられないという点が留意されないままロックダウンという言葉が使われ、日本の行動制限措置について憶測が広がる結果になった。
混乱を収束させるため、4月7日、緊急事態宣言を発出する際、当時の安倍首相は「海外で行っている、例えばロックダウンとか都市封鎖、強制力を持って罰則があるようなものではありません」とあえて明言した。
© ハフポスト日本版
一般の人を巻き込んで、ロックダウンのカタカナ語の弊害についての議論を呼び起こしたのは、ロックダウンというカタカナ語の使い方に意義を唱えた2020年3月22日の衆院議員・河野太郎氏のツイートだ。
「クラスター 集団感染。オーバーシュート 感染爆発。 ロックダウン 都市封鎖ではダメなのか」と提言。このつぶやきには約7万回のリツイートと、約25万の「いいね」がついた。
海外からの言葉が音訳のまま「カタカナ語」として使われた際、本来の意味と異なる意味を持ち、結果的に誤情報と同じように誤解を与える結果になってしまった。
ロックダウンというカタカナ語の弊害
ロックダウンという言葉が社会にどう影響を与えていったのか。ロックダウンというカタカナ語をめぐる混乱は様々なところで指摘されている。
総務省は、報告書「新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報」の中で、デマの例としてあげている。「日本で緊急事態宣言が発令されたら3週間ロックダウン(外出禁止)」「日本政府が4月1日に緊急事態宣言を出し、2日にロックダウン(外出禁止)を行う」というデマが実際に広がっていたことを報告している。
また、2020年10月上旬に日本記者クラブで発表された、政府対応について検証した民間の調査報告書「新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書」もロックダウンという言葉がもたらすミスリーディングが政治的措置を遅らせたと弊害を指摘する。
リスクコミュニケーションの観点から、ロックダウンはどう伝えるべきだったのだろうか。
カタカナ語のメリットとしては、聴き慣れないがゆえに、注目を集め、注意喚起しやすいという見方もある。一方で、カタカナ変換で逆に伝わりにくくなっているとの指摘もある。特に、感染で重症化しやすい高齢者にこそ伝えなくてはいけない情報が、カタカナ語のために、伝わり切れていない。
ジャーナリストの古田大輔さんは、「東京都は、社会的距離を意味する言葉として、ソーシャルディスタンスではなく、三密という言葉を使ったことで、お年寄りや子供にも一気にわかりやすくなった」と例を挙げ、緊急時はわかりやすい日本語に置き換える努力が必要だと訴える。【ハフポスト日本版・井上未雪】
(以下引用)
◆補足と資料説明◆
英語のLockdown(ロックダウン)という言葉が日本でどのように使われてきたのか、新聞などでの記録から変遷を追う。
Lockdownという英語が、海外の一部メディアで使われ始めたのは、Lexis-Nexisによると、2020年1月20日が初出だった。 1月20日は、中国の教授が「ヒト-ヒト感染あり」と明言し、武漢の医療関係者14人の感染が明らかになった日だ。
大きく事態が動いたのは、 2020年1月23日だ。突然、武漢で「都市封鎖」が始まった。公共交通が一斉に停止され、人々は自宅から外に出ることが禁じられ、武漢の出入りが禁止される措置だ。
この事態を、海外メディアは一斉に、Lockdownという言葉を使って報道した。ニューヨーク・タイムズをはじめ世界各国の主要紙に出ている。
日本では、1月23日夕刊で武漢の措置は、ロックダウンではなく「封鎖」という言葉で初めて伝えられた。
朝日新聞は1月23日夕刊で「武漢市外への移動制限 鉄道・航空、路線閉鎖 新型肺炎」との記事内で、日本語で「封鎖」という表現を使用。読売新聞も同日夕刊1面などで「封鎖」という言葉を使った。
一方、2020年3月10日に始まったイタリアでの全土移動制限は、「移動制限」という言葉が、新聞をはじめ既存メディアでは多く使われてきた。
しかし、既に、SNSの文言や雑誌、海外テレビの同時通訳などでは、ロックダウンという言葉が広がっていた。海外記事のLockdownがカタカナ語の「ロックダウン」として、そのまま使われていたとみられる。
事実、全国紙の朝日新聞と読売新聞の全記事検索で「ロックダウン」と入力し検索すると、朝日新聞が3月20日に初めて使っている。それまでは「移動制限がかかっている」といった表現だったが、ロックダウンという言葉を用いた。
2020年03月20日 朝日新聞朝刊 2総合「(時時刻刻)爆発的拡大、防げ 北海道対策「一定の効果」 専門家会議、新規感染者抑制と認定 新型コロナ」の中で、「気づかないまま感染が広がり、ある日突然、爆発的に患者が増える恐れがある。そうなれば、欧州のように強制的な外出禁止や店舗閉鎖といった『ロックダウン』という強力な措置もとらざるを得なくなる」という記事だ。
そして、3月23日に小池都知事が会見で、「都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります 」と発言すると、この発言を各社一斉に「ロックダウン(都市封鎖)」として報道し始めた。
読売新聞は、2020年3月24日 に「『首都封鎖の可能性』 都知事が言及 新型コロナ」の記事で、「東京都の小池百合子知事は23日、記者会見を開き、『東京は若年層のクラスター(感染集団)が発生し、無自覚のうちにウイルスを拡散させる恐れがある』とした上で、『ロックダウン(都市封鎖)などの強力な措置を取らざるを得ない可能性もある』との見解を示した。」と報じた。
2020年3月26日読売新聞は「新型コロナ 都内へ移動 自粛要請へ 知事 神奈川、埼玉、千葉に」の記事内で、「都は感染爆発の恐れが高まっているとして、26日にも改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の検討を政府に要請する。小池知事は25日の会見で、現時点のロックダウン(都市封鎖)の可能性には否定的な見方を示した一方、『感染拡大を防ぐための重要な局面だ』と指摘した。宣言が出れば、指定された都道府県の知事は大規模な映画館や運動施設の使用停止などを要請・指示できるようになる。」と、ロックダウンという言葉を、強制力を伴う海外の移動や行動制限の意味で使っていた。
(以上引用)