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安倍総理の志は死なない!!

コロナで起きた世界的な「電車離れ」の末路

「脱炭素」計画の支障になる可能性も
The New York Times
2021年04月01日
ロンドン地下鉄のピカデリー・サーカス駅には平日の朝でも人がほとんどいない。インドの地下鉄デリーメトロの乗客は以前の半分以下。リオデジャネイロではバス運転手が給料未払いに抗議してストライキに出た。ニューヨークの地下鉄の乗車率はパンデミック前の3分の1でしかない。
公共交通分野で最も重要な危機
新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから約1年。世界中の都市で公共交通機関が危機的状態に陥っている。外出自粛に加え、利用者が感染を恐れてバスや電車を避ける中、運賃収入の低下から公共交通機関の収益は急落。地域によってはサービスが縮小されたり、運賃が値上げされたりしている。従業員がリストラにさらされている地域もある。
これにより、世界が別のグローバル危機に対処する能力は大きく損なわれることになる。その危機とは気候変動だ。公共交通は都市が温室効果ガスを減らす比較的手っ取り早い手段となっている。大気汚染、騒音、渋滞の改善にも役立つ。
「私たちは公共交通分野でおそらく最も重要な危機に直面している」と指摘するのは、世界資源研究所で都市交通部門を統括するセルジオ・アヴェレーダ氏だ。同氏は以前、ブラジルのサンパウロで運輸長官を務めていた。「ただちに行動しなくてはならない」とアヴェレーダ氏は言う。
だが、どう行動すればよいのか。政府支援で命脈をつないでいる公共交通機関は、政府の寛大な措置がいつまで続くかという問題を抱える。経済・社会活動の再開が進む中、どうやったら公共交通を乗客のニーズによりよく対応させていくことができるのか。世界の各地で、専門家が答え探しを急いでいる。
一部地域では、感染の恐怖から自動車の利用が急拡大した。アメリカでは中古車販売が急増し、中古車相場が跳ね上がった。インドでも、インターネットで中古車販売を行う会社の売り上げが2020年に大きく伸びた。その一方では、自転車の販売が伸びた地域もある。自転車の利用が多少増えてきたことを示す動きだ。
公共交通機関離れは将来に二重の不安をもたらす。都市の活動がパンデミックから回復する中、人々が公共交通ではなく自動車を使うようになれば、大気汚染と温暖化の対策に甚大な影響が出る。これが1つ目の不安だ。
2つ目の不安はさらに重い。公共交通機関の運賃収入がこのまま減り続ければ、必要な投資が行えなくなる。効率的かつ安全で、利用者にとって魅力的なサービスを提供するのに必要な投資だ。
頼みの綱は政府支援
ロンドン地下鉄は世界で最も利用者の多い地下鉄網の1つで、通常なら平日の利用者は毎日400万人ほどになる。しかし、現在は通常能力の2割程度での運行を余儀なくされている。
バスは地下鉄ほどガラガラではなく、便数も通常の4割程度だ。これらを所管するロンドン交通局は2020年に黒字を見込んでいたが、パンデミックで大打撃を受けてから経営は政府支援頼みとなっている。同局は、利用状況が以前の水準に戻るまで最低でもあと2年はかかるとみている。
「率直に言って、壊滅的な打撃を受けている」とロンドン交通局で都市計画部門の責任者を務めるアレックス・ウィリアムズ氏は話す。「懸念の1つは、公共交通機関の利用の大幅な減少に加えて、自動車の利用度合いが高まっていることだ」
ロンドンは都心部に流入する自動車の数を減らすことを目的に「渋滞税」を課している数少ない都市の1つだ。ロンドンとパリはコロナ禍のロックダウン(都市封鎖)を利用して自転車専用レーンの整備を進めた。
インドの首都ニューデリーでは、何カ月という営業停止期間を経て9月に地下鉄が再開されたが、2月の利用者数は前年同月が570万人超だったのに対し、260万人を下回った。バスの利用者もパンデミック前の半分を若干上回る程度にすぎない。
とはいえ、インドやヨーロッパなどのように、政府から援助が得られる公共交通機関はまだマシだ。私営バス会社への依存度が高い都市では、問題はさらに深刻なものとなっている。
「新常態」に合わせて生まれ変われるか
ナイジェリアの大都市ラゴスの私営バス路線では、1キロメートルを超える区間の運賃が2倍になった。
かつて称賛されていたリオデジャネイロのバス路線も、今ではガタガタだ。リオデジャネイロの交通課によれば、利用者が昨年3月から半減する中、バスを運行していた民間企業が車両数を3分の1以上減らし、従業員を800人リストラした。加えて運転手のストライキで、バスの運行にはさらなる遅れと混乱が生じている。
「こんな状況は今まで見たことがない」と語るのは、リオデジャネイロでバス運転手の労働組合を率いている68歳のホセ・カルロス・サクラメント氏だ。公共交通機関で50年働いてきた同氏は、「もう元どおりにはならないのではないか」と話す。
国際公共交通連合のモハメド・メズハニ事務局長によれば、あらゆる都市が抱える大きな課題は、利用者が戻ってきてくれるように公共交通システムの見直しを直ちに進めることだ。在宅勤務の広がりに合わせてピーク時の運行を調整したり、バス専用レーンを拡充してバスでの通勤をより効率的で快適なものにしたり、換気システムを改善して利用者の安心感を高めることなどが選択肢となる。
「投資を行ってきた都市(の公共交通は)コロナ後にもっと強くなっているだろう」とメズハニ氏は言う。「(そうした都市では)人々が新しい公共交通機関の利用を快適と考えるようになるからだ。最終的には、利用者の感じ方が物を言う」
(執筆:Somini Sengupta記者、Geneva Abdul記者、Manuela Andreoni記者、Veronica Penney記者)
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