Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

海洋放出に動き出した菅首相 衆院選見据え「決める政治」をアピール

 菅義偉首相が東京電力福島第1原発で生じた処理水の海洋放出に向けて動き出したのは、処理水を保管するタンクが来年夏以降に満杯になるため、残された時間が少なくなったからだ。安倍晋三政権では風評被害の拡大や世論の反発を警戒して問題を先送りしたが、7月に開幕する東京五輪や秋までに行われる衆院選を見据え、首相は「決める政治」を印象付けたい考えだ。


 首相は7日、全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と首相官邸で面会し、処理水の海洋放出が「現実的な選択肢」とした専門家の見解に言及し、「そういうものを踏まえながら政府の方針を決定していきたい」と述べた。面会後、岸氏が記者団に明かした。


 処理水の処分は平成23年の福島第1原発事故以降、歴代の政権にとって“喉に刺さったトゲ”だった。


 トリチウム水は雨水や人体など広く存在し、臓器に濃縮されない。海洋放出も、この問題に批判的な韓国をはじめ、海外の原発で行われている。フランスのラ・アーグ再処理工場は福島第1原発で貯蔵する約15倍の量のトリチウムを1年に海洋放出している。


 ただ、福島の処理水は原発事故と関連付けた風評被害が懸念され、福島沖での漁業への打撃になりかねない。


 だが、首相は就任前から処理水に向き合う決意を固めていた。官房長官時代の首相に環境相経験者が2回にわたって海洋放出を進言すると、いずれも反応は前向きだったという。昨年秋の自民党総裁選の際には「結論を出す時期に来ている」と強調。担当の経済産業相には、信頼の厚い梶山弘志氏を再任した。


 首相は就任直後、昨年10月下旬を決定時期に見定めた。ただ、先行報道により全漁連の態度が硬直化したため、決定延期を余儀なくされた。昨年末も模索したが、党内に海洋放出に反対の勉強会が設立され、反対派が結集の構えをみせた。主導する党ベテランは「選挙前に海洋放出を決めれば政局になる」と息巻いた。


 閣僚経験者は「菅首相もためらうほどの難題だということだ」と解説する。


 ただ、保管タンクの貯蔵量は約1年半後に限界に達する。処分開始には準備工事を含め、2年程度を要し、首相がいう「適切な時期」は過ぎている。すでに仮設タンクの増設は避けられないという。


 東京五輪直前に決めれば“放射能五輪”のレッテルを貼られかねない。衆院選でダメージを最小限に収めるには、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ令和3年度予算が3月末に成立したこの時機を見定めたといえる。


 自民党は首相が決断すれば支える構えだ。閣僚経験者は「英断だ。誤解に基づく批判は党で対応し、首相の決断を支えたい」と強調する。政府も処分方針を決めれば、風評被害対策に万全を期す。


(奥原慎平)