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ネコと憂国

【風を読む】「政冷経熱」はあり得ない 論説副委員長・長谷川秀行

 どこか引っかかる。無料通信アプリ大手「LINE(ライン)」の個人情報が中国の関連会社で閲覧できる状態だった問題で、LINEが開いた記者会見をみてそう思った。「ユーザーの感覚でちょっとおかしい、気持ち悪いといったことに対して気を回すことを怠っていた。それが一番の問題だ」という出沢剛社長の物言いである。
 利用者目線は確かに大切だ。けれども、「気持ち悪い」という空気をみて動くことが本当に一番か。それ以上に問われているのは、中国政府が国家情報法で企業に情報提供を強いるリスクをどう認識し、対処したかというデータ管理の在り方だろう。だから、この発言に違和感を覚えたのである。
 もう一つ、気がかりな別の動きがある。強制労働が疑われる新疆(しんきょう)ウイグル自治区産の綿を使わない企業への不買運動が中国で広がっていることだ。使用停止を表明したスウェーデン衣料品大手H&Mのほか、ユニクロなどへの飛び火も懸念されている。
 ユニクロを運営するファーストリテイリングはコメントを控えている。ただし自治区内に取引先工場はなく、ユニクロで使う綿も人権などに配慮したものだけだという。それが攻撃対象になるのなら実にやっかいな話だ。
 ユニクロでは2012年9月にも上海店舗が反日デモに巻き込まれる騒動があった。それでも同年8月末に145店だった中国の店舗数を今年2月末までに800店に増やした。巨大な中国市場を取り込むことに経済合理性を見いだしているからだろう。これは多くの対中進出企業にいえることだ。
 問題は最近の政治リスクの高まりである。国家情報法しかり、不買運動しかり、習近平政権でこの傾向はさらに強まった。経済と軍事一体での覇権追求や米国との対立長期化を見据えれば、なおさらリスクは高い。その前提で事業の再構築を急がないと、どんな企業も大やけどを負いかねない。
 新型コロナウイルス禍からの復調が早いため中国が米国の国内総生産(GDP)を追い抜く時期が早まるとの見方もあるが、前のめりに対中依存を強めるのはやはり危うい。かつてのように政治的緊張と裏腹に経済関係が深まる「政冷経熱」が再来すると期待することこそ、経済合理性に反する。