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砂漠、北極でも生産可能! 空気と電気でつくる食用タンパク質の可能性

ITmedia ビジネスオンライン 画期的な食用タンパク質「ソレイン」
 今や、世界中の最重要課題の一つとなっている「温室効果ガス」の問題。排出源の約80%はエネルギー、約20%は食料生産と土地利用の変化であり、再生可能エネルギーの普及や森林保護、エネルギー効率のよい食料調達方法が求められている。
 2017年に創業したフィンランドのスタートアップ「Solar Foods」(ソーラー・フーズ)は、農業や漁業とは一線を画す食料調達のアプローチで、世界規模の課題に立ち向かう。同社は独自のバイオテクノロジー技術により、空気と電気から粉末状の食用タンパク質「Solein」(ソレイン)を開発した。
 砂漠や北極のような厳しい環境でも生産可能で、食べ物の味に影響しない無味の特徴を持つソレインは、肉の代替品をはじめとした次世代の食用タンパク質として期待されている。CEOのPasi Vainikka(パシ・ヴァイニクック)氏に、ビジネス戦略を聞いた。
●環境負荷を最小限にした次世代タンパク質
 ソーラー・フーズは、フィンランドのVTT技術研究センターとラッペーンランタ工科大学(LUT)の研究プログラムから生まれたフードテック企業だ。
 ヴァイニクック氏いわく、ソレインは「発酵」に似たプロセスを採用しているという。まず、電気を分解して発生させた水素に、二酸化炭素、水、ビタミン、ミネラルを組み合わせる。それを微生物に与えてタンパク質を生成させ、さらに熱処理によって乾燥させると粉末状のソレインができあがる。
 広大な土地を必要とする農業とは異なり、限られた土地、かつ砂漠や北極といった厳しい気候の地域でも生産ができる。殺虫剤や除草剤などを含む農薬も使用しない。使用する電力は太陽光と風力の再生可能エネルギーだ。
 主な原料は尽きることのない二酸化炭素であり、植物や畜産農業に比べて水の使用量も非常に少なくて済む。数字にすると植物の100分の1、牛肉の最大500分の1の水で生産できるという。
 「世界の総人口は増え続けると予想されており、食料不足や温室効果ガス削減への早急な対策が求められています。当社のバイオテクノロジー技術は、より多くの食料を生産することと農地を増やすために森林を伐採することを切り離すことができ、未来をより良く変えられるという確信を持っています」
●少量の“うまみ”を含み、食品の栄養価を引き上げる
 ソレインは栄養価が高く、65%前後の豊富なタンパク質のほかに、10%前後の炭水化物、脂肪、ミネラル、カロテノイドなどを含む。現在は量産可能な工場施設を持っていないが、フルスケールの施設で生産した場合の販売単価は、1キログラムあたり3ユーロ(約390円)弱だ。オプションとして、他の栄養素を含まないタンパク質100%のソレインの生産も可能で、その場合は1キログラムあたり4ユーロ(約510円)となる。
 風味について、専門家は「ほとんど無味だが少量のうまみがある」と分析する。そのため、さまざまな食べ物に混ぜることが可能で、わずかにマイルドな風味が加わることで、よりおいしく感じられる可能性もあるという。
 現在、同社では22年中を予定しているソレインの量産に向けて、代替肉、パン、麺(めん)、ヨーグルト、スムージー、スナック、豆腐など幅広い食品にソレインを加えて、栄養価と味覚にすぐれた魅力的な食品を生み出すための研究を実施している。
 近年、国内では「完全栄養食」と呼ばれるドリンク、麺、パンなどが発売されているが、主に大豆などの植物由来のタンパク質を原料としている。また、市場で人気の高タンパク質をうたったヨーグルトは、通常のヨーグルトと比べ3倍の乳原料を使用しているとの記述がある。
 栄養面だけを見れば、現在の食品市場には幅広い栄養食の選択肢があるが、“持続可能性”を軸にすると、市場の食品には大いに改善の余地があるというわけだ。特に、もっとも環境への負荷が高い動物性食品をソレインに置き換えることができれば、有効な気候変動対策となりえるだろう。
●国内外の食品メーカーとの共創が狙い
 ソレインを使った食品の研究を進めている同社だが、自社で食品の製造販売をする予定はなく、B2Bビジネスにより最短で利益を出すのが狙いだ。
 同社が開発したソレインは、これまで世の中に出回っていない新規の食品であり、販売には各国の専門機関から承認を得る必要がある。そういったプロセスの進行や量産設備の構築、グローバルなPRなどに時間や資金を割く必要があるため、自社で製造販売まで請け負うのは時間がかかりすぎるうえに、リスキーだと判断したそうだ。
 バイオテック企業は同様のビジネスモデルが一般的で、特に資金力のないスタートアップはその傾向が強い。同社の戦略は賢明な判断といえる。
 現状、日本企業との提携実績はなく、日本に特化したプロモーションを行っているわけではないが、「日本市場のパートナーを強く求めている」とヴァイニクック氏は言う。
 「私たちは最先端の技術により、世界的にもレアな次世代タンパク質素材を開発しました。しかし、量産化には利益を得るための事業が必要です。できるだけ早く日本の食品メーカーとの対話を始め、日本への投資を一緒に計画したいと思っています。食品の共同研究のみならず、ライセンスを販売する、合弁会社を設立するなど、柔軟なビジネスモデルが考えられます」
 同様の技術を持つ企業はいくつかあり、英国の「Deep Branch(ディープ・ブランチ)」、デンマークの「Unibio(ユニバイオ)」、カリフォルニアの「AIR PROTEIN(エアー・プロテイン)」などが挙げられる。ディープ・ブランチとユニバイオは、すでに他社と提携して利益をあげているが、現状は動物の飼料用途のみにとどまる。エアー・プロテインは、19年に食肉代替品を開発したと発表しているが、公式情報を見る限り、まだ市場には出回っていないようだ。
 となると、ソーラー・フーズが次世代食用タンパク質を使った食品を世界で初めて発売することになるかもしれない。
●目指すは2022年中の市場進出。その課題は?
 同社は22年中に市場進出を目指しているが、量産への道のりは容易ではないという。現状同社が保有するのは、イノベーション都市として知られるフィンランド・エスポー市内に建設された、小規模のパイロットプラントのみ。実用プラントとほぼ同じ機能を持っているものの、設計データ収集のために試験的に組み立てた施設であり、週に数キログラムしか生産できないという。
 「間もなく、商業用の工場建設を発表できそうな段階にはきていますが、残念ながらここも大きな規模ではありません。この工場が問題なく稼働すると証明できれば、サッカーコートほどの大きな工場を建設できます。それには1億ユーロ(約128億円)の資金が必要になるため、段階的に建設を進めています」
 同社は、フィンランドの政府系機関であるビジネスフィンランドからの融資を含め、これまでに合計2480万ユーロ(約32億円)の資金調達を実施している。加えて、近々フィンランド政府に大規模な投資を申請する予定だという。しかし、量産施設の建設を踏まえると明らかに資金が不足しているのが現状だ。
 これは同社に限ったことではなく、バイオテクノロジーを扱うスタートアップは、どこも似たような課題を抱えている。たとえ世界有数の技術を開発できたとしても、それを利益に変えるのは茨(いばら)の道なのだ。
 「資金調達やパートナーとの提携といった課題はありますが、当社は飛躍的にスケールアップしています。1年前に3人だったメンバーは今では15人となり、積極的な採用活動を継続しています。組織というより家族のように近い関係性です。バイオテクノロジーはイノベーションに不可欠であり、これらの技術を研究所から市場へ展開することが、より良い世界の構築につながると信じています」
(小林香織)