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【世界の論点】フェイスブック 豪で記事制限

 米IT大手フェイスブック(FB)が2月中旬、オーストラリアでニュース記事の共有や閲覧を制限する異例の対応を取った。記事使用時に対価の支払いを義務付ける法案が、同国議会で審議されたのを受けた措置。法案の修正可決に伴い制限は解除されたが、現地では巨大ITが一方的に情報インフラを奪うことへの非難が相次いだ。ネット社会で、記事の対価は誰がどのように支払うべきなのか。FBなどとの協議で先行する英国では、政府介入の効果や是非についても議論が起こる。

 □豪州
 ■メディア反発「あり得ない」
 インターネットの普及に伴って広告収入減少が続いていたオーストラリアの報道機関は、政府が米IT大手、グーグルとFBに記事使用料の支払いを義務付ける法案の可決を歓迎している。地元メディアが一斉に反発したのは、議会で審議が進んでいた際、FBが対抗措置として国内からのニュース記事の閲覧、共有を制限したことだ。社説などでFBの措置を「あり得ない交渉戦術だ」などと厳しく批判した。
 法案はグーグルとFBに対し、画面に表示されたニュース記事によって発生した広告収入などについて、一定割合を配信元の豪州報道機関に支払うよう義務付けている。
 FBは法案の審議段階から反発を強め、2月18日には対抗措置として豪州報道機関によるニュース記事の投稿を一時制限。同時に豪州のFB利用者は海外からの報道を含めてニュース記事が閲覧できなくなった。
 19日付の地元紙オーストラリアン(電子版)は「FBの戦術は裏目に出て、国民はそっぽを向いた」との社説で、技術的な問題で閲覧制限がニュース記事以外にも及んだことを手厳しく批判した。「ニュースコンテンツだけでなく、山火事の対策から家庭内暴力(DV)への助言まで、質の高いサイトの数々が(FB上から)閲覧できなくなった」と述べ、「交渉戦術として、これは本当にあり得ないものだ」と断じた。
 同紙は、FBが利用者のニュース記事へのアクセスを一方的に止めたことを特に問題視している。「FBはフェイクニュース(偽情報)や陰謀論の拡大を助けている」と指摘。報道機関や企業、行政当局などの情報発信を妨げたことで、「誤報や誤解、分裂を助長するようなとっぴな主張を訂正する機会を奪った」と非難した。
 同紙は記事使用料支払いを義務化した法律については、「(報道機関に)公正な価格を支払うことを保証するものであり、非常に合理的だ」と評価している。社説ではIT系巨大企業の強い影響力を制御するために「政府の監視と規制を必要としている」とも述べた。
 地元紙デーリー・テレグラフ(電子版)も同様の主張だ。19日付の社説でFBの閲覧制限を取り上げた。昨年、豪州との関係悪化を受け、中国が豪州産大麦などに高関税を課したことに触れ、「中国は豪州に貿易障壁で打撃を与えた。そして今、FBは無差別的なページの閲覧制限で私たちを攻撃している」と批判。外国や外国企業の豪州への圧力という意味で中国と同列と断じた。(シンガポール 森浩)

 □英国
 ■国家の法的介入拡大に懸念
 FBに記事利用料の支払いを義務付ける法整備をめぐり、豪政府は同社と対立を深めた。英メディア(電子版)は、FBの一連の措置を批判する一方で、豪州側の対応にも「不備があった」などと言及。国家による法的介入の拡大を懸念する声も上がった。
 欧州連合(EU)では2019年、巨大ITが各国メディアにニュースの適切な使用料を支払うことを盛り込んだ改正著作権法が成立した。英国でも1月、FBが新サービス「ニュース」を開始。米国以外では初めてで、枠組みに加わった一部報道機関に記事の対価を支払う。
 記事利用料の支払いに前向きな姿勢を示すFBが、なぜ豪州では強硬姿勢に転じたのか。英BBC放送は「FBが欲しいのは主導権だ」と指摘。「各国政府がメディアへの支払いを命じ、価格まで決めるような事態をFBは避けたい」とし、「政府が(FBに)強気の姿勢を見せた場合、どんな結果を招くのか見せようとした」と解説した。
 絶大な存在感を示す巨大ITが、状況に応じ強権を発動できることを示した今回の事態を受け、英国内でもFBに対する非難が相次いだ。
 英紙テレグラフは2月23日、新型コロナウイルスに関する政府の情報などもFBで閲覧できなくなったことを挙げ「強硬な戦術は非民主的と批判されている」と指摘。「FBは世界中で罰を受けようとしている」と警告した。英下院のナイト議員は自身のツイッターで「FBは品がなく、無責任だ」と不快感を示した。
 一方、国家主導による記事利用料支払いの義務化を疑問視する声も上がる。豪州の法案は広告収入の減少に苦しむ新聞や出版業などを救うために提出されたものだが、FBによる記事の閲覧制限などの対抗措置を招いた。英紙インディペンデントは19日、法案は狙いとは逆の効果をもたらしたと指摘。法案を提出した豪州政府の対応に「不備があった」との見方を示した。
 「ウェブの父」と呼ばれる英計算機科学者、ティム・バーナーズ=リー氏も豪上院に提出した意見書で、IT企業が記事への一定の支払いを強制されれば、インターネットが機能しなくなる可能性があると訴えた。同氏は、ネット上のすべてのやり取りは負担を課されたり速度を制限されることなく公平、自由に行われる、という原則が優先されるべきだとの考えを示す。
 英紙フィナンシャル・タイムズは今回の問題が「(各国が)ニュース市場に法的に介入して実現できる効果と限界を評価する上で、重要な要素となるだろう」と論じた。(ロンドン 板東和正)

 ≪ポイント≫
 ・豪紙、記事制限は「陰謀論拡大に寄与」
 ・FBの圧力を中国と同列視する社説も
 ・強硬姿勢背景に「政府主導への拒否感」
 ・豪政府の法的介入は「逆効果」指摘も