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コロナでも「客トラブルゼロ」台湾そごうの秘訣 非常事態で見えた、店と客の「望ましい関係」

5月下旬に緊急事態宣言が解除され、休業していた百貨店や商業施設、飲食店の営業も再開された日本。出入口にアルコール系消毒液が置かれ、マスクやフェイスシールドをつけた店員が対応するなど、各店がコロナ対策に知恵を絞っている。
 多くの客はこうした店側の対応に従っているが、店とお客がトラブルになる事件も過去にはいくつか話題になった。3月に愛知県で新型コロナウイルスに感染した男性が飲食店を訪問して従業員らに感染させた事件は全国的に話題になったし、5月上旬には、千葉県で商業施設の店員が入店者に検温を求めたところ、突き飛ばされ、警察沙汰になったというニュースもあった。そうした報道に、台湾在住の筆者は驚きを隠せなかった。
 というのは、台湾では、個人と店側のトラブルはほぼ聞いたことがないからだ。
 また逆に、日本ではコロナ自粛が続く中での店側の営業姿勢を問題視、監視する“自粛警察”も話題になっている。こちらも台湾ではあまり聞かない。
 コロナとともに暮らす生活が長く続いていく中、個人と店の関係はどうあるべきか。
 それらを探るため、台湾で七店舗を展開するデパート「遠東SOGO」に取材をしてみた。台湾のデパートはフードコートなどが入っており、老若男女が気軽に訪れる憩いの場として、広く親しまれる存在だ。
「魚一匹からシャネルまで」扱うも、トラブルはゼロ
 取材したのは、「遠東SOGO」の運営元である太平洋崇光百貨股份有限公司。日本の「そごう」が33年前に合資で台湾に進出、現在は店名のライセンス契約のみで、完全に台湾企業による経営となっている。一貫して日本式のサービスを提供しながら、ローカライズをして地元に定着してきた。
 「遠東SOGO」では、新型コロナウイルス流行下にあっても、営業時間の短縮や休業などをすることなく営業を続けてきた。これは台湾のほかのデパートや商業施設も基本的には同じで、政府の方針に沿ったものだ。
 かなりの人が出入りする「遠東SOGO」を、コロナ問題の渦中も営業する中で、お客とのトラブルはなかったのか。
 副社長であり、日本のそごう出身の播本昇(はりもと・のぼる)氏に聞くと、防疫対策において来店客とのトラブルはゼロだったという。
 「むしろ、こちら側が遠慮していると『これもやらないとダメでしょう』などと、お客様側からお叱りをいただくような状態でした」
 後述するが、「遠東SOGO」は入店時の検温など、政府の指針に沿ってさまざまな対策を行っている。充分すぎるほどだが、それにしても台湾のお客はなぜ店側に協力的なのか。
政府の情報や「防疫の要」啓蒙に信頼感
 「台湾政府が、ずっと必要な情報を発信し続けてくれたのが大きいと思います。新型コロナウイルス対策責任者の陳時中さんや、デジタル大臣のオードリー・タンさんなど、閣僚たちがその道のプロフェッショナルだから、政府が発信している情報は信頼できる。そして毎日コロナ対策の記者会見をするから、メディアがその情報を拡散してくれるんです。
 だから私たちが啓蒙しなくても、お客様は防疫に何が必要かわかってくださっているので、とても協力的です。台湾の方々はもともと健康に対して意識が高いということもあると思います」
 感染予防のためには、検温や両手の消毒、マスク着用が極めて重要だが、デパートでの楽しみの1つである試食の禁止や、来店客の動線を細かく把握するために施設の入り口を減らすことなどはどれも客側にとっては不便なことだ。
 それでも一つひとつが”防疫の要”であることが、政府が毎日開催するメディアへの記者会見のほか公式FacebookやLINE、インスタグラムにYouTubeなどあらゆるチャネルで啓蒙されてきた。
 毎日定時刻に開催される記者会見では、不眠不休で対策に当たる陳時中氏が時間無制限でメディアの取材に応じる姿に多くの人が感動し、「防疫最前線の方々がこんなに必死で立ち向かってくれている。自分にできることはすべてやろう」という気持ちにさせられた。
 そこから生まれたのは「きちんと防疫をしていない人は許せない」「感染者は排除されるべきだ」という気持ちではなく、「気づいていない人がいたら手を差し伸べよう」「誰もが感染する可能性がある」という姿勢だったように思う。
 台湾では、台湾内でマスクが十分に生産・供給されるようになった4月1日から、地下鉄やバスなど公共交通機関でのマスク着用が義務化された。しかし、実はそれよりずっと前、まだ日本はもちろん、世界中でコロナの危険性が認識されていなかった1月末から、ほとんどの人がマナーとして着用していた。
 播本氏によれば、旧暦の元旦である1月26日、デパートは初売りセールで超満員だったが、翌日に地下鉄に乗ると、乗客の半分がマスクをしており、さらに翌日は9割の乗客がマスクを着用していたという。
 「遠東SOGO」では、1月15日ごろにコロナ情報が入り、すぐに社内の法務・人事・営業・販促それぞれの主要メンバーによる対策本部を設置。1月28日には「遠東SOGO」でも入口に消毒液を置き両手の消毒を促し、マスク着用をお願いするようになった。デパートで御法度だった、スタッフのマスク着用もいち早く始めた。
 2月1日には、9箇所ある本店の入り口を半分にして、赤外線による検温と両手の消毒を徹底。駐車場も1台1台に対して同じことを実施と、かなり手間をかけている。
 アウトソースの清掃員を増員して掃除の頻度を高め、エスカレーターのベルトからエレベーターのボタン1つまで徹底して消毒した。その様子を撮影して店内のテレビ広告などで流し、安全性を伝えた。
 3月末には「遠東SOGO」の伝統でありDNAでもある日本の物産展が催されたが、日本から多くの店舗が来台できず、悔しい思いをしたという。一方でこのタイミングから全館のレストランなど飲食スペースにおける試食販売の中止と、アクリル板の設置、飛び石式の座席を実施。今でも継続しているという。
 「もちろん台湾は面積も小さいし人口が少なくて、もともとIDカード(健康保険証)もあるから防疫管理を徹底しやすいということはあるでしょう。でも、決まったことに協力的なところは台湾人の民族性ですね」
 と播本氏は語る。
サービス業が従業員を守るために
 これは筆者の個人的な考えだが、お客に防疫対策に協力してもらえないということは、バックグラウンドのわからない相手に対面接客しなければならないサービス業従事者にとって、かなりのリスクを伴う。
 そういった意味で、サービス業の事業主がこうして上手に防疫対策を実施してくれるというのは非常に重要なことだと思う。
 「遠東SOGO」では来店客以外に、従業員に対して防疫対策についての特別な教育などを行っているのだろうか。
 「今回作った防疫マニュアル(SOP・標準作業手順書)はありますが、衛生管理などは普段から徹底して教育していますので、特別な教育は何も行っていません。フードコートでは水周りはもちろん、食器の片付けもアウトソースしているスタッフさんたちがすぐに片付けてくれます。何十年もかけて培った日本式のOJT教育の賜物です」(播本氏)
デパートに出店しているアパレルやレストランの声
 「遠東SOGO」に出店する、テナント側の見方と現状はどうか。
 『MKミッシェルクラン』『ヒロココシノ』などを出店している日系アパレルのイトキン株式会社。その台湾支社でヴァイス・ジェネラルマネジャーを務める多田由紀氏によれば、
 「弊社の『MKミッシェルクラン』はパンツが好評アイテムですが、フィッティングを必要とするので、コロナが世界的に広がった時期は来店数やお店での滞在時間も大幅に減少、コーディネイト販売にも影響が出て、客単価も思うように伸びませんでした。それが5月に入り、コロナの収束とともにパンツの売り上げが戻りつつあります。
 日本ではデパートが直接お客様をご訪問する外商サービスがありますが、台湾にはその習慣がありません。代わりにデパートのアプリによるイベント告知や優待、決済サービスなどがあることをご紹介しています」
 と、売り上げが戻りつつあるとともに、オンラインを強化する姿勢がうかがえた。
 「遠東SOGO」のレストランフロアで「和食えん」を経営する株式会社ビー・ワイ・オー台湾法人の斉藤進代表は、
 「デパートの入口で検温と両手の消毒を行うほか、当店の入り口でもまた同様のことをお願いしていますが、お客様とトラブルなどは無かったですね。むしろもっとこれをしたほうがいいなどとアドバイスをいただくことのほうが多いです。あと1カ月遅かったら従業員カットもやむ負えないような状況でしたが、台湾は官民が一体となって持ちこたえてくれました」
 と語る。
 なお、「遠東SOGO」の対応がうまくいっていることは、売り上げ面からも見て取れる。
 台湾でお正月シーズンに当たる2月は、前年同月比で30%ほど売り上げが落ち込んだ。3月は15〜20%マイナス、台湾のデパートにとってトップクラスに稼ぎ期である母の日シーズンが15%マイナス。5月は土日が多いとはいえ、ついに前年同月比並みと、徐々に売り上げは戻りつつあるという。日本の百貨店など比べれば、かなり健闘している数字と言える。
 今年の3~5月にかけ、台湾でも巣ごもり需要が伸び、そごうの家電売り場でも、ゲーム機やマッサージチェアなどの売れ行きが大幅に伸びたという。
 「これまでインターネットに接触してこなかった層までが、オンラインで消費することに慣れたことは大きな変化です。そして、不要不急の買い物はしなくなりました。私は今年が台湾の“不要不急の買い物はしない元年”だと見ています。ソーシャルやオンラインをより強化することは必須です」
 と播本氏は締め括った。
防疫は両者の協力あってこそ成り立つ
 本土における新型コロナウイルスの新規感染者が56日連続でゼロだったことから、台湾では防疫に配慮しながら日常生活に戻る「防疫新生活」が6月7日からスタートした。
 夜市やスーパーなどでの試食も解禁され、イベントも人数制限なしで実施できるようになる。国内旅行を促進すべく、政府から宿泊補助などが出るという。官民が一体となって防疫を最優先に早々にコロナを封じ込め、成功してからすぐに経済の回復へと動いている。
 日中の気温が30度を超え、人混み以外で人々はマスクを外して歩くようになってきた。久しぶりに道行く人々の笑顔を見かけたときには感動してしまった。
 「防疫はサービス提供者側だけではなく、サービスを受ける側の協力と信頼があってこそ成り立つ」ということを、台湾は証明しているように思える。そしてその背景には、政府の適切な対応と情報発信があったことも、強調しておきたい。


なぜか台湾に学べという論調はないなw