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コロナ公表情報が全国最低レベル、東京都の功罪

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐには、感染症の発生状況を広く公表することが必要だ。感染場所に関する情報も、地域住民に注意喚起するうえで欠かせない。しかし、データ分析の専門家、高橋義明氏(中曽根康弘世界平和研究所・主任研究員)は、東京都の感染地域に関する情報発信は“全国最低レベル”だと指摘する。最も感染者が発生している東京都の対応は、コロナ感染拡大にどんな影響を及ぼすのか?(JBpress)
東京都の公表情報は全国で最低レベル
 感染予防法は「厚生労働大臣及び都道府県知事は、・・・収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報・・・を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない。」と規定している。新型コロナウイルス感染症の感染が拡がり始めた2020年2月27日、厚生労働省は感染予防法に基づき、都道府県、保健所などに対して「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」を通知し、新型コロナウイルス感染症についても「基本方針を参考にするように」とした。そこには公表基準として性別、年齢、発症日、居住都道府県名は公表するものとしているが、職業、居住市区町村名を公表しないものとした。
 この方針に最も忠実に倣っているのが東京都である。
 東京都は厚労省の通知に先立つ1月31日に「感染者の行動歴をプライバシーに配慮して公表する考え方について」を決定し、居住地は都道府県名までとした。さらに感染者が急拡大するのを受けて東京都は3月27日以降、個別患者情報として性別、年齢のみを公表するようになり、職業、濃厚接触者などの情報もアップデートされなくなった。4月1日以降、居住市区町村は集計値のみが公表されるようになったが、1日遅れのため、マスメディアでは東京都のどこで感染拡大しているか、ほとんど報じていない。
 それに対して大半の都道府県、政令市が感染予防に必要と判断し、厚生労働省は公表しない事項とした職業、居住市区町村名を発生症例ごとに公表しており、マスメディアも「◯◯市で何人」などと報じている。北九州市は陽性患者毎に居住区名も公表していたが、5月の第2波において病院、高齢者施設、小中学校名を積極的に公表して感染経路を見える化したのは印象的であった。
 東京都の公表基準の差に関する象徴的事例がいくつか見られたので紹介したい。1つは埼玉県川口市の事例である。
 川口市では陽性患者の発生時、個人が特定できないように配慮しつつ、年齢、性別、国籍、職業、居住市区町村名、発症から医療機関受診、検査確定までの症状・経過、渡航歴、接触歴、行動歴、濃厚接触者の有無、その他が公表されている。そうした中、3月下旬に東京都居住者が川口市内の検査で陽性判明した事例では東京都の公表基準に合わせるということで年齢、性別、職業、居住都道府県名、症状のみが公表された。つまり、川口市で通常公表されていた居住市区町村名、発症から医療機関受診、検査確定までの症状・経過、渡航歴、接触歴、行動歴、濃厚接触者の有無などは伏せられた。
 2つ目はさいたま市の事例である。5月末にさいたま市は市内在住の医療職の方が感染された際に症状・経過・行動歴、同居家族の状況などを発表した。しかし、この方は東京都内の医療機関で陽性が判明したことから公表が取り下げられた。その結果、東京都で公表された同じ方の情報は年齢、性別のみであり、居住地が埼玉県であることも医療従事者であることも判明しなかった。つまり、埼玉県から東京都に通勤していた者が感染していた事実が東京都からの情報では伏せられた。
 それ以外にも埼玉県の発表事例では「県外」居住者が41例、神奈川県では相模原市が「東京都」居住者と公表しているものを含めて「県外」居住者が32例ある。千葉県では基本的に他都道府県居住者についても都道府県名を公表し、船橋市では東京都以外の場合、居住市町村名も公表している。しかし、いずれのケースでも東京都の公表基準に沿うように東京都内の市区町村名は伏せられている。
地域空間という概念での把握
 感染予防対策をしていたとしても病院関係者の感染が多いのは、感染者が病院を訪れる確率が一般よりも高く、結果的に病院関係者が感染者と接触する確率が高いためである。感染症の専門家は濃厚接触という狭い概念に留めているが、確率論は地域空間でも当てはまる。つまり、感染者が多く住んでいる、または感染者が仕事などで訪れることが多い地域では、その地域に出入りする者と感染者が出会う確率は高くなり、結果的に予防していても感染確率は高くなる。逆に感染者がほとんどいない地域に住んでいて、また感染者が仕事などで訪れる機会が少ない地域では感染する確率は極めて低い。さらに人口密度の濃淡が感染者との接触確率、感染確率を変える。つまり、感染者と出会う確率が高い地域をあぶり出すことが感染拡大抑制においても重要になる。
 新型コロナウイルス感染症の場合、発熱などの症状が出る前でも他者に感染させる可能性が高いことが明らかになっている(Cheng et al., 2020)。発症前の感染者を検査などで明らかにするのが難しい以上は、他の感染症以上に空間的にエピ・センター(感染の発生地)を見える化することが重要になる。エピ・センターを見える化するには「都内」か否かでは広すぎる。
東京都が市区町村名を公表しないことの影響
 東京都が居住市区町村を公表しないことは2つの意味でエピ・センター(感染の発生地)を特定する上での足かせになっている。
 1つ目は東京都発表において居住地域住民への注意喚起が十分されないことである。
 3月末の感染拡大の際にも厚労省・専門家会議の提言で「夜の街」に焦点が当てられた(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」2020年4月1日)。しかし、「夜の街」で感染が止まることなく、全国に感染が拡大し、院内感染が多発した。現在、再び「夜の街」に焦点が当てられ、新宿の名前が挙がる。しかし、その結果、もっぱら歌舞伎町の特定の店というイメージで捉えられている。新宿で働く方が全員新宿区に在住しているとは限らない。国勢調査によると新宿区で働く者の66%が新宿区以外の居住者である。東京都以外の自治体の公表基準であれば、誰と誰が濃厚接触者であるかが公表されているため、例えば、新宿区居住者の濃厚接触者として世田谷区居住者が挙がっていれば、いずれがエピ・センターかを把握できる可能性が高くなる。
 2つ目の意味は、ある人が感染した可能性がある場所として通勤地が考えられるものの、居住市区町村名が明らかにされない以上、都内の通勤先の市区町村も明らかにされないことである。
 4月初には東京都への通勤率が高い市町村ほど感染率が高かった(高橋「東京都心通勤と新型コロナウイルス感染拡大:1都7県のデータからの検証」)。つまり、埼玉、千葉、神奈川、茨城などで感染拡大がみられた理由の1つとして県民の都内通勤が影響したと推測された。実際、川口市、越谷市、船橋市などは感染したと疑われる場所として会社の所在地が考えられるため、会社員などが都内通勤か否かを明らかにしている。しかし、都内のどの市区町村かは明らかにしていない。埼玉県も当初は職場の最寄り駅名まで公表していたが、現在は通勤が都内か否かも公表しなくなっている。そこにも東京都の公表基準が影響していると考えられる。
都内が感染場所と推定される事例が最近増加
 5月25日に緊急事態宣言された後に感染が増えているが、その感染地を推定したところ、都内の確率が高くなった。
 下の図は5月26日以降に明らかになった全国の感染例について報道も含めて症例ごとに情報をまとめ、テキストマイニングの分析手法で関連性をイメージ化したものである。
 © JBpress 提供 (注)分析に使用したのは2020年5月26日から6月20日までの公表分。ただし、北海道、福岡県はそれぞれの地域内でクラスターが発生していることから除外
 この結果をみると、埼玉、千葉、船橋、神奈川、横浜、川崎で都内通勤者が感染していること、京都、福島、静岡、茨城で都内との往来が関係したことが分かる。一方、神奈川では病院での院内感染、家族間での集団感染、そして入院前検査での判明がみてとれる。大阪との関係でも大阪府内だけでなく、兵庫、滋賀で大阪との往来または勤務が結びついている。
 少なくとも千葉県では38%(10例)、埼玉県では26%(10例)、茨城県、福島県では100%(それぞれ2例、1例全て)、京都府では50%(6例中3例)が東京都内との関係が明らかになっている(5月26日から6月20日まで)。さらに、岐阜県、愛知県の症例では神奈川県との関係、栃木県の症例では埼玉県がそれぞれ感染した可能性がある地域として挙げられている。
大都市圏で重要な情報は勤務先の市町村情報
 埼玉県、千葉県、神奈川県は現在、ほとんどのケースで勤務先が東京か否かを明らかにしていない。しかし、上記の結果から再び都内通勤などを契機に首都圏などへ感染が広がっている兆しが見てとれる。
 第1波からの教訓としてまず率先して取り組むべきことは、東京都が集計値ではなく、感染者情報で市区町村を明らかにすることである。そのことが東京都以外の自治体が東京都内の市区町村名を明らかにすることにつながる。
 さらに埼玉県、千葉県、神奈川県などは通勤先や立寄り先の都内の市区町村名を明らかにすることである。例えば、これらの県の感染者に新宿区通勤者が多いのであれば、感染は夜の街からビジネス街に広がっていることが推察される。第1波の際には港区在住者の感染率が1000人に1.04人、新宿区が1000人に0.88人と多かった(4月末時点)。多くの方たちは企業などの発表資料まで注意してみていなかったと思われるが、その時期に港区内、新宿区で感染発生を公表した企業などがそれぞれ68箇所87人、39箇所45人あった。その中には区外からの通勤者も多く含まれていたと考えられる。
 現在も新宿区居住者の感染数だけをみていてもエピ・センターを見える化したことにはならない。居住地ベースでの感染者数は緊急事態宣言解除後、新宿区が205人と多いが、世田谷区63人、中野区48人、板橋区29人、杉並区22人、練馬区21人などと住宅地の多い区でも増えている(6月24日現在)。世田谷区民が世田谷区内で感染したのか、通勤地のある区で感染したのかで感染対策や区民の予防策も代わってくる。筆者のレポートでも述べたが、居住者+通勤者の生活圏での感染者数を明らかにすることが必要である(高橋「新型コロナウイルス政策における証拠に基づく政策決定(EBPM)」)。
 厚労省も2月27日の都道府県などへの通知の中で、「感染源を明らかにし(感染推定地域および感染源との接触の有無を発信)、国民にリスクを認知してもらう」ために「感染推定地域:国、都市名」を明らかにすべきとしている。これは海外での感染を想定したものであるが、日本国内で感染が広がる新型コロナウイルス感染症に関しては国内に当てはめて「積極的に公表すべき」であろう。
 埼玉県、千葉県、神奈川県、政令市などは東京都に都内市区町村名の開示を求め、自らも都内通勤先市区町村名を明らかにすることが県民、市民を守ることにもつながる。各知事、市長には住民に自衛を求めたり、都での感染拡大に懸念を表明するだけでなく、情報を武器にしたリーダーシップを期待したい。