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香港危機で「米韓同盟」は死に体へ、「米台同盟」が現実化する理由

茂木 誠


2019/09/25 06:00


米中貿易戦争や、韓国文在寅政権の北朝鮮への肩入れ行為など、東アジア情勢からは目が離せません。今後、東アジア諸国の関係はどのように変化していくのでしょうか?今回は、韓国と台湾の問題について、駿台予備学校・世界史科講師の茂木誠氏が解説します。
中国史に名を刻むため、
習近平は台湾統一を目指す
 香港で逮捕された被疑者を中国本土に送還できるようにする「逃亡犯条例」の改正案とそれに反対する香港市民の大規模デモ。習近平政権の意向を受けて対話を拒否し、警察による武力弾圧を命じた林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は9月4日に記者会見し、「逃亡犯条例」改正案の完全撤回を明言しました。
 しかし、市民側が要求する林鄭行政長官自身の辞任、行政長官の直接選挙、警察の責任追及、「暴徒」として拘束されている市民の釈放は拒否し、問題解決には程遠い状況です。今年10月1日の国慶節(建国記念日)は、中華人民共和国の建国70周年記念日にあたるため、習近平政権は国家の威信をかけて「香港の治安回復」を強行するでしょう。この1週間は香港から目が離せません。
 習近平が香港の先に見据えているのが台湾です。中国共産党の歴史観では、「台湾の主権はカイロ宣言に基づいて日本から中国に移ったが、その後、反乱軍である中国国民党政権の占領下に置かれたままで、中華人民共和国の行政権が及んでいない。したがって1日も早く台湾を占領し、祖国に復帰させなければならない」という論法になります。香港返還協定を実現した鄧小平が称賛されたように、「台湾の祖国復帰」を実現すれば、習近平は歴史に名を刻むことができます。
 ところが国民党政府は1980年代に戒厳令を廃止し、その後の台湾は民主化されてしまいました。大統領に当たる総統は国民の直接選挙で選ばれ、親中派の国民党と独立志向派の民進党が交互に総統を出しています。「台湾が反乱軍の占領下にある」という論法はもはや通用せず、台湾の民族自決権は台湾人自身が握っているのです。現在の台湾総統は蔡英文。独立志向派の民進党の総統です。この蔡英文総統が再選をかける総統選挙が、来年1月に迫っています。
米国は台湾関係法改正と
F-16戦闘機売却を決定
 1972年のニクソン訪中以来、米国は台湾から中華人民共和国へと乗り換え、北京政府の「1つの中国」という原則に理解を示し、台湾との外交関係を断ちました。その一方で、米国議会は台湾関係法を制定し、「連絡事務所」の名目で事実上の大使館を維持し、軍事援助も継続してきました。いわば二股をかけてきたのです。
 地政学的に見れば、台湾とフィリピンの間のバシー海峡は、東シナ海と西太平洋を結ぶチョークポイント(戦略的要地)であり、中東から日本に石油や天然ガスが運ばれるシーレーンです。中国人民解放軍が台湾に進駐すれば、沖縄やフィリピン、グアムの米軍に重大な脅威を与え、日本経済の命綱をも握ることになるでしょう。台湾の地政学上の重要性については、拙著『日本人が知るべき東アジアの地政学』でも解説しています。興味のある方はぜひご一読ください。
 習近平政権が南シナ海で展開したサンゴ礁の領土化作戦は、米国防総省を警戒させるのに十分でした。トランプ政権になってからの米国は、中国の軍事的台頭を警戒して台湾側への傾斜を強めています。米国議会は台湾旅行法を成立させて台湾要人と米国要人の相互往来を可能にしました。国務省は最新鋭のF-16戦闘機を66機、台湾へ売却することを承認しました。
 これは習近平政権にとっては由々しき事態です。しかし、中国人民解放軍が「台湾のリーダーは選挙で交代する」という現実を無視して占領すれば、台湾人の激しい抵抗を招くどころか、民主国家を武力で圧殺した独裁政権として、中国は西側諸国から糾弾され、制裁を受けるでしょう。米国トランプ政権による貿易戦争で、すでに青息吐息の中国経済が西側諸国全体を敵に回したらどうなるか、「終身国家主席」習近平の側近たちも、その程度の政治判断はできるでしょう。
香港デモは台湾人の独立心を刺激、
中国が仕掛けた「世論戦」は敗北間近
 とすれば、習近平政権は、台湾人自身が「中国復帰」を選択し、親中派の総統を選出するように台湾世論を誘導していくしかありません。いわゆる「世論戦」です。そのために中国はツメを隠して紳士的に振る舞い、「中国に復帰しても台湾の今の体制は変わらない、何も心配ないのだ」、と宣伝する必要があります。そこで習近平は「台湾の一国二制度」を打ち出しました。今年(2019年)、年頭の挨拶で習近平は、台湾政策に関する5大原則を発表しています。
・台湾との平和統一を実現する。
・「一国二制度」を台湾に適用する。
・外国の干渉と「台湾独立」分子を排除するため、武力行使をも放棄しない。
・中台の経済的な一体化を進め、平和統一への地ならしをする。
・「中華民族意識」を高め、台湾青年への工作を強める。
 この段階で香港の騒乱はまだ始まっておらず、「一国二制度」は少なくとも表面的には上手くいっているように見えました。香港程度の自由を謳歌できるのなら、台湾が中国にのみ込まれても問題ないのではないかという楽観論が、台湾でも一定の支持を集めていました。台湾の経済は日本以上に中国に依存しており、政治的独立より、経済的利益を重視する経済界は基本的に親中派です。
 日本のシャープを買収して話題になった鴻海(ホンハイ)精密工業(以下、ホンハイ)会長の郭台銘(テリー・ゴウ)が、4月に国民党の総裁候補として名乗り出た時、与党民進党の党内対立で蔡英文総統は指導力を失い、来年の総統選での再選が危ぶまれていました。ホンハイは中国国内にiPhone製造工場などを展開して100万人を雇用している台湾企業です。彼自身の政治思想はともかく、中国共産党に首根っこをつかまれていることは間違いありません。習近平の「世論戦」通りに、台湾は中国との平和統一、一国二制度へ舵を切ろうとしていました。
 この流れに急ブレーキをかけたのが、6月に始まった香港の騒乱でした。蔡英文総統はいち早く香港市民にエールを送り、自身のフェイスブックで「一国二制度は失敗だった」と断じました。これまで一国二制度に幻想を抱いていた台湾の無党派層は、香港警察によるデモ隊弾圧の映像を見て冷や水を浴びせられ、ホンハイ会長の郭台銘の支持率は失速し、総統候補を決める7月の国民党予備選で敗退しました。
 逆に追い風を受けた民進党は党内対立を乗り越え、蔡英文総統の再選へ向けて意気軒昂です。香港の運命はいまだ不透明ですが、独裁に反対する香港市民の行動が東アジア全体、特に台湾に大きな影響を与え、歴史を動かしたことは間違いありません。
韓国は見捨てるが
台湾は見捨てない
「独裁から自由へ」という東アジアの大きな歴史の流れに背を向けているのが韓国です。選挙で選ばれた文在寅政権は、一度も選挙で指導者を選んだことのない北朝鮮との「祖国統一」に邁進しています。金大中政権時代の文在寅が、朝鮮労働党員として当時の北の指導者・金正日に忠誠を誓う文書に署名している史料も出てきました(「月刊Hanada」 2019年10月号 篠原常一郎氏の記事)。その真偽を確かめる手段を私は持ちませんが、「さもありなん」と思います。
 文在寅政権は、同じ自由主義陣営だったはずの日本との関係を、「歴史カード」を振りかざして破壊し続けています。自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射、日本製高純度フッ化水素の横流し黙認、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄、竹島での韓国軍の上陸訓練……日本が憲法上「平和を愛する諸国民の公正と信義」に自らの安全を委ね、「戦争のできない国」だから「遺憾の意」で済んでいますが、まともな主権国家であったら韓国を経済制裁の対象にしているでしょう。
 文在寅政権の最終目標は、米韓同盟の破棄と在韓米軍の撤収です。8月末、韓国の国家安全保障会議(NSC)は、米軍基地の早期返還を求めることで合意しました。朝鮮戦争で北朝鮮軍の南侵から韓国を守った米軍に、「出て行け」といっているわけです。
 韓国の挑発に対してトランプ政権はどう出るか?
「よし、わかった。出て行こう」と応えるでしょう。トランプは当選前から在外米軍基地の縮小と、同盟国の負担増を繰り返し主張しています。7月にフランス・ビアリッツで開かれたG7首脳会合でのことです。トランプ・安倍会談でトランプは、米韓合同演習を「戦争ゲームだ」と非難する金正恩の手紙を紹介し、「私もあれ(合同演習)はカネの無駄だと思う」と発言しています。
 ニクソンからオバマまでの米国の歴代政権は、「米韓同盟は死守するが、台湾への中国の浸透は黙認する」という立場を取ってきました。しかしトランプ政権はこれを逆転させ、「台湾を同盟国として扱い、韓国への北朝鮮の浸透は黙認する」という方向に切り替えたのです。
「韓国は見捨てるが、台湾は見捨てない」というトランプ政権の決定が、習近平政権とのすり合わせの上に行われた決定なのか。「台湾との統一」で歴史に名を刻みたい習近平が、これを容認するとは思えません。だとすれば、米中関係は今後ますます悪化するでしょう。
 もはや米韓同盟は死に体となり、代わりに米台同盟が浮上します。この東アジアの激動期に(1)日本はどう動くべきか?(2)中国に関する軍事情報の共有のため、日台軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結すべきか?(3)自衛隊の台湾駐留は可能か?――等々、考えるべきことはたくさんあります。もはや韓国に関わっている暇はないのです。