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安倍総理の志は死なない!!

メディアが報じない香港。国家安全法による市民への弾圧が始まった!

ハーバー・ビジネス・オンライン


2020/07/31 08:31



 国家安全法で自由は奪われた――そう報じられる香港の実態とは? 現地に住む日本人ジャーナリストが逮捕覚悟で7月1日以降の民主化活動をリポートする。
国家安全法による市民への弾圧が始まった!
 7月1日の香港は異様な雰囲気に包まれていた。
 前日には中国本土で香港国家安全法が成立し、同日夜11時頃に香港で施行。国家の安全に影響を及ぼすと判断される行為を「国家分裂罪」で裁く、としたのだ。同法が「外国勢力との結託」を違法行為に認定したことを受けて、海外との連携を強めてきた民主派政党「香港衆志(デモシスト)」は解散を決定。同党の中心メンバーだった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や周庭(アグネス・チョウ)らは一足先に脱退を表明した。党首の羅冠聰(ネイサン・ロー)は7月2日に香港を離れたことを公表。「海外から民主化活動を支援していく」と表明したのだ。
 香港はどう変わるのか? 「高度な自治と自由を保証する一国二制度が崩壊した」と報じられるなか、筆者は香港を練り歩いた。そこで見たのは、逮捕覚悟で抗議活動を続ける市民たちの姿だった。
 ’03年以来、初めて7月1日のデモを禁止された民間人権陣線(民陣)の陳皓桓副招集人は“個人活動”として「15時に東角道を出発する」と呼びかけた。東角道は香港の渋谷とも言うべき銅羅湾にある商業ストリートだ。そこから日本の丸の内にあたるオフィス街・中環を目指す計画を公表したのだ。
 これに呼応するように、14時頃から大勢の香港市民は東角道に集まり始めた。国安法の施行に伴い、「香港独立」や北京政府を批判するシュプレヒコールを上げれば、即逮捕。そもそも、香港政府はこの日を念頭に、新型コロナ対策で打ち出した「51人以上の集会の禁止」を7月2日まで延長していた。抗議者を逮捕する口実はいくらでもあった。そのため、デモの始まりは静かなもの。「光復香港(香港を取り戻せ)」のシュプレヒコールが局地的に起こるも、多くの市民は黙して抗議の意を示し続けた。
 だが、時間の経過とともに警察との小競り合いが発生。至近距離からペッパースプレーを吹きかけられ、路上にうずくまる抗議者の姿も……。こうした警察の強硬な鎮圧行為がかえって、抗議者たちの反発を呼んだのは間違いない。
「自由が脅かされた今だからこそ声をあげなければいけない」
 街頭でチラシを配布していた40代の会計士は次のように話した。
「国家安全法が施行され、自由が脅かされ始めた今だからこそ声を上げなければいけない。だから、9月に予定されている立法会選挙で民主派が過半数の35議席を獲得できるよう投票に行こうとチラシで呼びかけているんです」
 民主派に支持される香港紙『アップルデイリー』の記者は国家安全法の影響で広告収入が落ち込んだことをボヤきながらも、民主派を支援し続けることを強調した。
「海外移住を考える友人が増えましたが、私は香港に生まれ、香港で死にたい。今後どうなるかわかりませんが、ウチの創業者の黎智英(ジミー・ライ)がゴリゴリの民主派ですからね(笑)。民主活動が続く限り、取材を続けます」
 ジミー・ライはジョシュアとともに、「国家安全法施行後に真っ先に逮捕される」と噂されている人物。そのトップを差し置いて、現場の記者が民主活動を放棄することはできない、というわけだ。
 デモに参加していた40代の教師も、自身の厳しい境遇に悩みながらも「あきらめたらそこで終わり。教え子にもそれが伝わるように、今日ここに来た」と覚悟を決めた様子で話していた。
実力行使続ける勇武派。選挙で変える「抗争派」
 そんな市民に対する警察の鎮圧はエスカレートしていった。放水車と装甲車が縦列を組んで銅羅湾周辺をグルグルと巡回。放水して、デモ隊を散らしにかかった。夕方4時を過ぎた頃には、放水車が無防備な報道カメラマンを狙い撃ちした様子がSNSで拡散。強烈な放水によって、文字どおりカメラマンが吹き飛ぶ衝撃的な映像だ。「民主派を応援するメディアには容赦しない」。警告を込めた放水と受け取った周囲の記者らは怒りを露わにしていた。
 筆者もその現場に急行すると、目に強い痛みと息苦しさを覚えた。水には催涙スプレーが混ぜられていたのだ。周囲には何人もの咳き込む市民の姿が。店内にも流れ込んだのか、レストランから駆け出ていく市民の姿も見られた。
 警察の暴力的な鎮圧を受けて、大通りでは勇武派による対警察工作が活発化。数々の抗議活動で最前線に立って警察と対峙してきた彼らは、手際よく歩道に敷き詰められたレンガをほじくり出しては道路にばら撒いていった。警察車両の進入を阻止するのが狙いだ。そんな勇武派が逮捕されないように、穏健派の抗議者らが警察の接近をいち早く察知して知らせる。規模は縮小したものの、昨年の反逃亡犯条例運動と変わらぬ闘う香港人たちの姿がそこにはあった。
 最終的に370人以上が逮捕され、うち10人が国安法違反で逮捕されたが、それ以降も小規模ながら各地で抗議活動は続いている。同時に、9月6日の立法会選挙に向けた民主化運動も盛り上がりを見せている。7月11・12日には票の分散を避けるために民主派が候補者を絞り込むための予備選挙を開催。香港政府が「国安法違反の可能性がある」と脅しをかけたにもかかわらず、主催者目標の17万人を大幅に上回る60万人以上の市民が予備選に投票したのだ。
 林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が「香港の施政を阻むために立法会で過半数の議席を獲得することを目的とするならば、国安法の違反の可能性がある」と脅しても香港人はどこ吹く風だ。
「中国共産党政権の下でも、香港人は屈服も、投降もしないことを国際社会に示す」
 7月20日、SNSにこう書き込んだのは、立法会選挙への立候補届を提出した前出のジョシュアだ。彼をはじめ抗議活動を支援する候補者らは「抗争派」を名乗って支持を訴えている。まず、政府の手によって民主派候補の多くが出馬取り消し処分を食らうことは必至だろう。それでも民主化運動は続くのか? 9月の選挙で香港人の覚悟が見えるだろう。
香港人は中国にない選挙という意思表示手段がある
 国安法施行を受けて今後、香港はどう変わるのか? 亜細亜大学アジア研究所所長の遊川和郎氏は「中国と同じように統治しようというのは無理がある」と指摘する。
「確かに過激な抗議活動や独立の主張は国安法の名の下、厳しく取り締まられるでしょう。しかし、声高に政府批判ができない人でも、香港なら個人を特定されずに投票行動で意思表示が可能です。そこがすべてを監視される中国本土との違い。すると当局はますます弾圧を強化するという悪循環に陥り、著名な活動家が投獄される可能性も出てくる。そうなると第2の劉暁波を生み出しかねません。中国本土で政権転覆扇動罪に問われた彼は’10年に獄中でノーベル平和賞を受賞し、3年前に獄死しました。このようなシンボル的な政治犯をつくってしまうと、中国政府に対する世界の風当たりが強くなるのは必至です」
 すでに海外に移住する政治活動家も現れているが、「中国政府にとっては香港の中国統治に反発する輩は出て行ってくれたほうがいい。替わりの人材は中国国内にいくらでもいますから」と分析。一方で、外国人が国安法の下、逮捕されるリスクがある点には注意したい。
「国安法第38条は、香港人以外でも同法の適用対象であると明記しています。一般的な言動の範囲内ならば問題視されることはないと思いますが、特に香港の活動家を支援する行為、便宜供与や資金面での援助は危険です。香港に入った途端、いや香港の飛行機に乗った途端、国安法違反で逮捕される可能性があります」
【亜細亜大学アジア研究所・遊川和郎教授】
日立製作所、在香港総領事館外務省専門調査員、日興リサーチセンター上海駐在員事務所所長などを経て、中国・香港研究を専門とする大学教授に
<取材・文・撮影/佐藤健一 写真/AFP/アフロ>