Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日本近海で活発な中国潜水艦、不測の事態に備えよ

軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム


2020/08/03 06:00


© JBpress 提供 海上自衛隊の対潜哨戒機「P-1」(海上自衛隊のサイトより)
 2010年4月にキロ級潜水艦2隻を含む10隻の中国軍艦艇が沖縄・宮古島間を通過し西太平洋で訓練を行った。
 中国の解放軍報はこの時、この活動により「三戦」を行うと報じた。
「三戦」とは、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」の3つからなり、「中国人民解放軍政治工作条例」に規定されている。
 条例には、「中国が三戦を実施し、敵軍の瓦解工作を展開する」と記述されている。
 中国があらゆる活動について「三戦」を意識して、独善的な国益獲得を目論んでいるのは周知のことだ。
 そして、昨今注目されている武力攻撃に至らない「グレーゾーン」事態は、まさにこの「三戦」が活発に行われている状況である。
 日本も積極的に「三戦」を仕かける必要があり、後れをとってはならない。
 我が国周辺海域における中国潜水艦との攻防を、「三戦」の観点から分析する。
中国潜水艦が悪意ある動き
日本も「世論戦」に対応せよ
 6月18日、奄美大島沖の接続海域内を潜没して通過した潜水艦について、防衛大臣が「中国の潜水艦と思われる」と述べた際、記者が、「今後とも公表していくのか、中国の反応を確かめるために今回特別に公表したのか」と質問した。
 これに対し、大臣は、「様々な情勢に鑑み判断する」と回答している。
 防衛省が警戒監視活動によって探知した目標を公開することは、自らの能力を暴露するといった考えもある。
 しかしながら、「世論戦」の観点から、中国の傍若無人な活動を世論に訴える効果がある。
 最近、尖閣諸島周辺のみならず、南シナ海などにおいて中国の強圧的な行動が目に余る。今回の公表は、中国政府に対し、「逃さず見ているぞ」という圧力を加える意図もあったと考える。
 中国は、自らに都合の悪い情報を隠蔽または無視する。
 今回、潜水艦が浮上していないことから、「事実無根」と切り捨てることも可能であるにもかかわらず、大臣の発言に対し否定も肯定もしていない。
 確実な証拠を握られていると中国が認識しているためであろう。今後、潜水艦の活動に慎重になる可能性があり、中国に対する圧力の観点からは効果的であったと思われる。 
 2018年1月に「商」(シャン)級原子力潜水艦が浮上し中国国旗を掲げた事件では、中国のネット上で「みっともない」、「白旗を上げて降伏したのに等しい」という言葉が氾濫した。
 精強さや高い能力といったプロパガンダばかり聞かされている中国国民にとって予想外だったのだろう。
 潜没航行中の潜水艦を探知され、攻撃を恐れ浮上し、国旗を掲げたということは、近代化の著しい中国軍が実は「張り子の虎」なのではないかという疑問を抱かせるには十分な出来事であった。
 今回、中国が報道しない理由に、このことを国民に思い出されることを嫌っている可能性もある。
潜没航行する中国潜水艦
追尾する海自護衛艦との心理戦
 対潜水艦作戦で注目されるのは、潜水艦の運用に関する中国軍首脳および深い海の中を航行する潜水艦乗員の心理への影響である。
 艦艇や航空機はその姿を見せるという「示威行為」により相手に心理的圧力を加える。
 米国が南シナ海で行っている「航行の自由作戦」(Freedom of Navigation Operation:FONOPS)はその典型である。
 一方、潜水艦は姿を見せずに、「いるかもしれない」という可能性で相手に圧力を加える。
 接続水域とはいえ、長時間にわたり潜没潜水艦を追尾したことは、海自の対潜能力の高さを示したものと言える。
 このため、中国海軍首脳は、活動中の潜水艦すべてが海自に把握されている可能性を認識し留意しなければならない状況となった。
 このことは、潜水艦の運用に大きな心理的圧力を加えたと言える。
 次に、実際に追尾される潜水艦乗員の心理はどうなのか。
 潜没潜水艦を探知する方法は、潜水艦が発する音を探知するパッシブと、自ら音を発信し反響音を探知するアクティブの2種類がある。
 静粛化が進んだ潜水艦をパッシブで追尾するには高い技術と卓越した能力が必要である。
 アクティブは、パッシブに比較すると確実性が高いが、追跡者の位置や意図を潜没する潜水艦に暴露する。
 潜水艦にとって、アクティブソーナーの発信音は精神的に大きなプレッシャーとなる。
 今回どのような方法で追尾したのか明らかにされていないが、筆者の経験から判断すると、少なくとも接続水域航行中はアクティブであったのではないかと考える。
 2018年12月、日本海警戒監視区域内で監視中の海自「P-1」哨戒機に対し、韓国海軍駆逐艦が射撃管制用レーダーを照射した。
 射撃管制レーダーの照射は、軍艦などが遭遇した場合にやってはならないこととして国際的なコンセンサスがある。
 なぜなら、射撃管制レーダーと対艦ミサイルの発射とは連動しているからだ。
 韓国軍は照射を認めず、逆に海自哨戒機の接近飛行を批判した。
 射撃管制レーダーは航空機にとって極めて脅威が高いものであり、これを他と間違える可能性はない。
 さらに、海自哨戒機の映像を見る限り、危険な飛行には見えない。韓国が照射という誤った行為を押し隠すために「逆切れ」したというのが正しい見方である。
 アクティブソーナーの発信は、射撃管制レーダーの照射と異なり、「やってはならないこと」という国際的なコンセンサスはない。
 しかしながら、アクティブソーナーで位置を確実に把握されていれば、対潜攻撃兵器によって何時でも攻撃されるという状況である。
 その観点から、潜水艦にとってアクティブソーナーの音を受けるということは、航空機が射撃管制レーダーの照射を受けたことに匹敵する。
 接続水域は、公海とはいえ領海に接する海域である、領海への侵入を警戒しなければならない海域であり、アクティブソーナーの使用は、潜水艦に対する警告となる。
 潜没航行中の潜水艦にとっても想定内であろう。とはいえ、継続的にアクティブソーナーで追尾されることは、潜水艦にとって大きなプレッシャーとなる。
 また、アクティブソーナーの探知距離は、季節や場所によって大きく異なり、夏場は一般的に探知距離が短くなる。
 このため、水上艦艇が比較的近距離を航行することとなり、これも潜水艦にプレッシャーとなる。
 潜水艦には比較的精神的に強い人間が配置されるが、長期間、近距離でアクティブソーナーの発信音を聞かされることは、乗員を精神的に追い込み、思いもかけない行動を引き起こす可能性も否定できない。
 このように、日本近海での対潜戦において、平時においても、高度で、緊迫した心理戦が行われているのが実態である。
接続水域を潜没航行する潜水艦と対戦作戦


© JBpress 提供 西村金一作成
潜水艦の侵入には法律戦で対抗せよ
 2018年1月、「商」級原子力潜水艦が尖閣諸島の大正島の接続水域を通過した。
 最近では、中国公船が領海内に侵入し、日本の漁船を追跡する事案が確認されている。
 中国軍艦艇や公船は、これらの日本が行使している尖閣諸島における施政権に対抗し、中国が施政権を行使しているという実績を作ることを意図しているものと考えられる。
 徐々に勢力範囲を広げる「サラミ戦術」は中国が得意とするところである。
 施政権行使の一環として、中国潜水艦が尖閣諸島領海内を潜没航行する事態が生起する可能性は否定できない。
 日本にとって明らかな領海侵犯であるが、中国が主権の行使と主張するのは必至である。単に抗議や再発防止の申し入れでは門前払いされるのがおちであろう。
 領海内潜没航行中の潜水艦に対しては、海上における警備行動を発令、自衛隊が主体的に対応する枠組みが構築されている。
 しかしながら、現在の法的枠組みでは絶対に領海内には入れない。
 また、侵入した場合は実力で排除するという毅然とした法体系とはなっていない。
 尖閣諸島周辺における中国の施政権行使を阻止するためには、法律戦の観点からは、実行力を伴う法の整備など、一歩進んだ検討が必要である。
グレーゾーン事態における三戦
 共産党独裁政権下の中国では情報統制が容易であり、それだけ「三戦」を優位に進めている。
 しかしながら、現在のようにソーシャルメディアが発達すると、完全な情報統制は困難であり、状況によっては逆効果になる。
 政府の説明に反する正当な証言などが出てくれば、すべての説明に対する信頼性が低下する。
 新型コロナウイルス感染拡大に関する中国政府の説明が良い例である。
 当初、感染の封じ込めに成功、この成功経験を世界に広げるという戦略をとっていたが、情報隠しや情報操作の疑いが広がり、中国政府がもくろんだ中国影響力拡大は果たせていない。
 島国である日本は、文化的に「三戦」を控えてきた。
「不言実行」では相手の「三戦」に立ち向かえない。言うべきことは言い、やるべきことはきちんとやっていかなければならない。
 その観点から、6月に潜没して接続水域を航行中であった潜水艦を探知し、これを中国潜水艦と推定されると言い切ったことは「三戦」の観点から有効であったと考えられる。
 しかしながら、日中間には信頼関係が欠如しており、戦闘を伴わない「三戦」がいつ武力衝突に結びつくか分からないということには留意が必要である。
 最近、米国研究機関であるCSBAが「Dragon against the sun」というリポートを公表した。
 主として、中国の文献から中国が日本を、特に海自をどのように見ているかを分析した興味深いリポートである。
 日中海軍力の差もさることながら、中国がその差に自信を持ち、武力行使へのハードルが下がっているとの指摘に注目が必要である。
 中国が、監視活動を行っている海自艦艇、航空機の行動に苛立ち、強硬手段をとる危険性は常に存在する。
 日中防衛当局間の信頼醸成措置として、海空連絡メカニズムが合意されている。
 しかしながら、洋上での遭遇に関しては、CUES(Code for Unplanned Encounter at Sea)で規定された通信方式を使用するとされているのみである。
 潜没航行中の潜水艦を継続追尾に関し、不測の事態が生起することを防ぐためには、何らかの基準と迅速な意思交換が必要である。
 海面下では、今後、中国の潜水艦に加え、無人潜水艇などの活動が活発化すると考えられる。目に見えない水面下の敵に対する対応要領について、早急に、法的枠組みも含め考えておかなければならない。