Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

廉価版イージス・アショアを配備せよ

織田 邦男


2020/08/04 06:00


 自民党は7月31日、国防部会などの合同会議で、ミサイル防衛に関する提言案を了承した。
「イージス・アショア」ミサイル迎撃システム(以下「陸上イージス」)の山口、秋田両県への配備断念(6月24日国家安全保障会議決定)を受け、今後のミサイル防衛のあり方を与党として提言するものである。
 そもそも迎撃ミサイルのブースター落下による被害(あるかどうかも不明)を懸念するあまり、もし核弾頭であれば数十万人の被害が予想される弾道ミサイルを迎撃する陸上イージスの導入を中止すること自体、前代未聞である。
 なぜ陸上イージスが必要なのか。先日公表された防衛白書(令和2年度)には次のように書かれている。
「北朝鮮は(略)核兵器の小型化・弾頭化を実現しているとみられるとともに、わが国全域を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有・実戦配備している」(257頁)
「わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている中、平素からわが国を常時・持続的に防護できるよう弾道ミサイル防衛能力の抜本的な向上を図る必要があることから(略)イージス・アショア2基を導入が決定された」(260頁)
 白書公表以降、北朝鮮にミサイル削減などの動きは全くない。であれば政府の脅威認識と対応の考え方は変わっていないはずである。
 この深刻な状況下で陸上イージス配備が断念されたため、早急に代替機能を確保する必要がある。
 提言は「総合ミサイル防空能力の強化」「抑止力向上のための新たな取組」「関連施策の推進」の3項目からなっている。
 1番目の「総合ミサイル防空能力の強化」については、①イージス・アショア代替機能の確保(常時持続的な防衛が可能)②経空脅威の増大・多様化への対応(極超音速兵器、無人機スウオーム飛行等、経空脅威の増大・多様化に対応)が挙げられている。
 もともと陸上イージスの代替機能が具体的に検討されるものだと思っていたので、提言が「代替機能の確保」となっているのを見て詐欺にあったような思いがしたのは筆者だけではあるまい。
 代替機能についての筆者の考えは最後に述べる。
 2番目の「抑止力向上のための新たな取組」については、①日米の基本的役割分担の維持と同盟全体の抑止力・対処力向上 ②抑止力を向上させるための新たな取組が述べられている。
 特徴的なことは②で「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要」と述べている。
 これまで自民党は「敵基地反撃能力」として提言(2017年)してきたものを「間違った印象を与えてしまう」(小野寺座長)として言い換えたものである。
 筆者はこれを読んで、周回遅れのマラソンランナーがようやくホームストレッチにやってきたかという印象を受けた。
 2015年に改訂された日米防衛協力の指針(以下「新ガイドライン」)では、「弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦」に関する日米の役割分担をこう述べる。
「自衛隊は、日本を防衛するため、弾道ミサイル防衛作戦を主体的に実施する。米軍は自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」
 では、弾道ミサイル防衛とはどこまで含まれるのか。あまり知られていないが米国の定義では、弾道ミサイル防衛には、発射準備中のミサイルを地上で破壊することも含まれる。
 2017年12月に策定された米国国家安全保障戦略で、弾道ミサイル防衛システムについて、”This system will include the ability to defeat missile threats prior to launch.”(「このシステムは発射前のミサイル脅威を破壊する能力を含む」:筆者訳)と定義している。
 今回の提言でいう「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」は、米国の定義では既に「ミサイル防衛」の範疇に含まれており、とっくの昔から「自衛隊が主体的に実施」しなければならなかったのである。
 これが「周回遅れのマラソンランナー」といったゆえんである。
 こういう事実を直視せず、自分に都合の良いように「米国は矛、日本は盾」と条件反射的に単純化し、今なお思考停止に陥っている姿は異常と言える。
 1997年策定の旧ガイドラインと比較すれば、日米役割分担の変化がさらによく分かる。旧ガイドラインはこう記述する。
「自衛隊及び米軍は、弾道ミサイル攻撃に対処するために密接に協力し調整する。米軍は、日本に対し必要な情報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する」(下線筆者)
 これに対し、新ガイドラインでは「(米軍は)必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する」というフレーズはもはや消滅している。消滅していること自体に大きな意味があるのだ。
 提言では「(略)憲法の範囲内で、国際法を遵守しつつ、専守防衛の考え方の下、相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を求めて、抑止力を向上させる」とこれでもかというくらい「従来路線」と変わらぬことを念押ししている。
 簡単に言えば、我が国に飛来することが分かっている弾道ミサイル(例えば2撃目)を発射前に地上で破壊するのは、専守防衛の範囲内である。
 しかもミサイル防衛の範疇であり、日米役割分担上も日本が主体的に実施すべき作戦なのである。ここはしっかり国民に説明すべきだろう。
 ただ「ミサイル阻止力」と言おうが「敵基地反撃能力」あるいは「発射前ミサイルの破壊」と言おうが、早急に整備する必要があるものの、これだけでは陸上ージスの代替機能にはなり得ない。
 防衛計画の大綱(2018.12.18閣議決定)にある「平素から常時持続的に我が国全土を防護する」には、イージス艦を増勢しても、敵基地反撃能力を整備しても所要を満たさない。
 どうしても陸上イージス的な装備、つまり24時間365日、即応体制に就ける装備の導入が必要である。
 これまでの議論で、陸上イージスは高価のわりには、変則軌道をとるような新型ミサイルには対応できないと言われてきた。これが今回配備中止となった主な理由だと筆者は想像している。
 だが、これには大きな誤解がある。
 陸上イージスが新型ミサイルを迎撃できないのは事実である。だが、北朝鮮が保有する数百発の弾道ミサイルの99%は従来の弾道ミサイルである。
 従来の弾道ミサイルであれば迎撃技術は既に確立されており、ポーランドに配備されている安価な陸上イージスで所要は満たす。また数百発の弾道ミサイルがすべて新型ミサイルに換装されることは考えられない。
 もともと1基800憶円という価格はポーランド配備型イージスであり、これで北朝鮮の大半の弾道ミサイルは迎撃できる。
 これに対し、改良を加えて新型ミサイルにも対応しようとするから約5倍以上の価格に跳ね上がるのだ。
 新型ミサイルについては今の技術では改修しても迎撃困難である。
 費用対効果上、ミサイルを改修するより提言でいう「ミサイル阻止力」を整備した方がいい。
 つまり陸上イージスであらゆるミサイルに対応しようとするから莫大な価格に跳ね上がるわけであり、安価な陸上イージスと「ミサイル阻止力」ですべてのミサイルに対応するように方向転換すべきある。
 別の問題として地元住民の懸念に対応することも必要である。
 今回、地元住民が懸念した問題は2つある。イージス・レーダーによる電波障害とブースター落下被害の問題である。
 電波障害については、イージス・レーダーを空自のレーダーサイトのレーダーと置き換えることによって解決できる。
 空自レーダーサイトの警戒管制レーダーは配備前に綿密な電波障害調査を実施しており、設置場所に問題がないことを既に実証済である。
 現在ある警戒管制レーダーを陸上イージスのレーダーに換装し、普段は警戒管制レーダーとして使用し、弾道ミサイル脅威が高まれば、弾道ミサイルモードに切り替えて運用すればいい。
 現在、弾道ミサイル探知用「FPS-5」(通称「ガメラレーダー」)は全国4か所のレーダーサイトで同じ要領で運用している。
 ブースター落下の問題については、海辺に所在する空自高射隊(PAC3部隊)に配置すれば、ブースターは海に落下し問題は解決する。
(例えば青森県車力分屯基地、福岡県芦屋基地など)空自PAC3部隊は基本的には機動展開して作戦を実施する部隊であり、陸上イージスの配備によって、他の場所へ配置換えされても特に問題はない。
 以上のように大雑把に考えても、陸上イージス的機能の整備は現実的に可能である。
 河野太郎防衛大臣は「山口・秋田以外の代替地を見つけることは、極めて困難である」と述べたが、何を根拠にそういったのか理解ができない。ここは国民に説明する義務があるだろう。
 今後、自民党の提言を受け、今後のミサイル防衛のあり方が具体的に検討されることになる。
 閣議決定までされた(防衛大綱)「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている」という脅威認識は深刻であり、待ったなしである。
 マラソンランナーをさらに周回遅れにしてはならない。
 条件反射的に「矛と盾」に逃げ込むことなく、自国を守るのは自分である原点に立ち返り、早急に「平素から常時持続的に我が国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威にも同時対処できる能力を強化する」具体策を押し進めてもらいたい。