Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米中緊迫「低烈度紛争」への準備が尖閣で始まっている

牧野 愛博


2020/08/07 06:00


JAPAN 提供7月22日、尖閣諸島周辺の領海の外側にある接続水域で、中国海警局の公船4隻が航行しているのを海上保安庁が確認した。尖閣周辺で中国公船が確認されるのは、これで100日連続となった。日本政府関係者や専門家の証言によれば、尖閣周辺での中国公船の動きには大きな変化がみられるという。
中国海警局は昨年ごろから5000トン級のヘリコプター搭載船を尖閣周辺に投入するようになった。中国が昔、同海域に投入していた公船は1000トンにも満たなかった。船艇の大型化が意味するものは何なのか。小型船舶の時代、中国が尖閣周辺で活動する期間は数日間に過ぎなかった。同海域は荒れることが多く、小型船では、乗組員が長期間の乗船に耐えられなかった。食糧の補給にも問題があったとみられるが、船艇の大型化でこうした問題が解決された。
では、長期にわたって尖閣周辺に居座る行為は何を意味するのか。元自衛隊幹部は「これは、警察権を行使し、パトロールを行うという法執行機関の発想ではない。プレゼンスを示して制海権を握るという軍の動きそのものだ」と語る。中国海警局の公船4隻は二手に分かれて、海上保安庁の巡視船の動きを攪乱したこともあった。同幹部は「これも軍の発想。陽動作戦だ」と説明する。実際、防衛白書によれば、中国海警局は2018年7月、国務院(中央政府)の指揮下を離れ、中央軍事委員会が指揮する武装警察の隷下に入った。軍と海警の連携強化が進んでいるわけだ。
一方、中国がむやみに強硬な道を突っ走っているかと言えば、そうとも限らない。
今年5月、中国海警局の公船が尖閣周辺の領海内で、与那国島の日本漁船を追いかけ回す事件が起きた。政府関係者によれば、中国は7月、尖閣周辺での日本漁船の操業を禁じるよう、外交ルートを使って日本側に求めてきたという。ただ、日本漁船が尖閣周辺で操業するのは今年5月が初めてではない。中国海警局の公船も黙って見守っていたという。5月に海警局の公船が尖閣の日本領海内に入ったときは、半日ほど接続水域で停止した後で侵入したともいう。
日本政府関係者は中国の一連の行動について、「おそらく与那国島の日本漁船が過去、尖閣諸島に上陸を目指す政治家や運動家を乗船させた過去があるとして、中国側が問題視していたからではないか。彼らなりに尖閣諸島に上陸する可能性があると判断し、過激な行動に出たようだ」と説明する。公船が日本領海に入る前に半日間、停止していた状況については「きっと、中央軍事委員会など上部機関の指示を仰いでいたのだろう」と語った。
中国は、日本や国際社会から激しく反発されて、自分たちが積み上げてきた「既成事実」が壊れないよう、圧力を少しずつ慎重に高めていくつもりなのだろう。別の政府関係者は「中国にとって、利害関係国が多く、米軍の動きも活発な南シナ海への対応の方が喫緊の課題だ。尖閣諸島を含む東シナ海に対しては慎重にゆっくりと対応していくつもりなのだろう」と語る。
中国の海洋調査船が7月9日~18日まで、日本の領土だと認めていない東京都の沖ノ鳥島島沖の排他的経済水域(EEZ)内で調査活動を行った。日本政府関係者によれば、中国の調査船がこの海域に出現して調査を行うのは、1年に2度ほどある。ただ、従来は2~3日で調査を終えていたのに対し、今回は10日間と異例の長期間にわたった。これも「既成事実の積み上げ」にあたる行為だろう。EEZ内での不法な活動を取り締まる国内法がない日本の弱点を突く行動という意味もある。
中国は次に、どのような行動に出てくるだろうか。政府関係者の1人は「尖閣付近で操業する日本や中国の漁船を日中両国で共同管理しようと言い出すのではないか」と語る。わざと多数の中国漁船を派遣したうえで、取り締まりに四苦八苦する海上保安庁の巡視船に協力する形で、国際社会に対して日本と中国との間で領土問題が存在する事実をアピールするのではないかという予測だ。「尖閣諸島を巡る領土問題は存在しない」という日本政府の主張を突き崩す、第1歩につながる。中国海警局の公船が漁船を取り締まる行為は、尖閣諸島周辺で中国が施政権を行使しているというアピールにもなる。
別の元自衛隊幹部は中国のこうしたアプローチについて「このまま中国が脅威を高めていけば、いずれ尖閣諸島の領有を巡る低烈度の紛争(*通常戦争と平和状態の中間にあたる紛争状態のこと)が起きるかもしれない」と語り、次のような事態を憂慮した。すなわち、日中間で本格的な戦闘に入らなくても、中国海軍と海上自衛隊が至近距離でにらみ合うような状態が長期間続くことになれば、日本のシーレーンに大きな影響が出かねない。日本の交易が打撃を受け、日本に対する海外からの投資が減ることになれば、日本国内から厭戦の声が出て、中国に譲歩しても仕方がないという展開になるだろうというわけだ。
日本も何もしていないわけではない。日中は7月30日に外相電話会談を行ったのに続き、翌31日には、外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長と中国外務省の洪亮・辺境海洋事務司長がテレビ会議方式で会談した。いずれも尖閣諸島周辺で起きている事態が取り上げられたという。海上保安庁や海上自衛隊はこの海域に投入する巡視船や護衛艦の建造を急いでいる。EEZ内での不法行為を取り締まる法整備の検討も始まっているという。果たして、こうした一連の努力が実を結び、中国の脅威の増大を食い止めることができるかどうかは、まだわからない。
こうしたなか、米国がむしろ、積極的な姿勢をみせている。在日米軍のシュナイダー司令官は7月29日、インターネットを使った記者会見で、尖閣周辺での中国公船や漁船の活動について「日本政府の状況把握を支援するため、ISR(情報収集・警戒監視・偵察)能力を提供する」と語った。日米関係筋によれば、東シナ海や南シナ海で日本の海上保安庁と米沿岸警備隊が協力して活動する案も日米間で検討されているという。
別の日本政府関係者は「尖閣諸島にも日米安保条約を適用すると発言してもらうために四苦八苦したオバマ前政権と、全く対照的な動きだ」と語る。「米国の動きはもちろんありがたいが、米国が余り前に出すぎると、逆に緊張が高まらないかという不安も出てくる」とも述べた。
尖閣諸島で近い将来、何が起きるのか。今はまだ、誰も見通せない。