Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

米下院がついに対中強硬法案提出、台湾防衛へ本腰

 中国の外交総括役の楊潔篪国務委員(外交担当=共産党外事工作委員会主任)は8月7日に発表した文書でこう言い切った。
「米国の一部反中勢力が米中関係を不可逆的に破壊するため、米中の交流を阻み、米国民を誤った方向に導いている」
 習近平国家主席の外交ブレーン、楊氏が米国内に燃え上がる反中気運を本心からそう思っていたとしたら、完全な間違いだ。
 確かに当初は人権問題には史上最も疎いドナルド・トランプ大統領にとっては、中国攻撃は再選狙いの一環でしかなかった。
 ところが「香港国家安全維持法」制定を契機に、人権問題には敏感な米議会では、反中スタンスに火がついてしまった。
 以前から米議会には超党派で反中マグマはあった。
 米中貿易摩擦、中国の米知的財産盗取、スパイ活動、南シナ海・東シナ海での準軍事威嚇活動、ウイグル族抑圧――。
 その反中マグマに火をつけたのが「香港国家安全維持法」制定だった。
米議会は反中で一致、媚中派ゼロ
 米議会はトランプ大統領よりも先へ先へと動いた。
 中国が「香港国家安全維持法」制定の動きを察知するや、パット・トゥーミ―上院議員(共和、ペンシルベニア州州選出)が5月21日、「香港自治法案」(Hong Kong Automy Act)を上程。米上院は6月25日、同法案を可決、成立させた。
 米下院は、中国共産党全代人常務委員会が6月30日、「香港国家安全維持法」を制定した直後、「香港セーフハーバー法案」(Hong Kong Safe Harbor Act)*1を可決成立。
 上院でも、マルコ・ルビオ(共和、フロリダ州選出)、ボブ・メネンデス(民主、ニュージャージー州選出)が同日、同法案を上程、直ちに可決、成立させた。
*1=同法案は、民主化運動などで当局から逮捕される恐れのある香港市民を米国が特別難民として受け入れることを明記している。
「香港国家安全維持法」制定、つまり「一国二制度」の事実上の終焉とみた米議会は、「次は中台統一」と見た。
 上院では、ジョシュ・ハウレイ議員(共和、ミズーリ州選出)が6月29日、「台湾防衛法案」(Taiwan Defense Act)を提出した。
 下院ではマイク・ガラファー議員(共和、ウィスコンシン州選出)が同趣旨の法案を提出した。
 この法案は、米政府が1979年に制定した「台湾関係法」に明記された中国からの軍事的脅威に直面する台湾に対する米国の軍事的責務を再確認するよう求めたものだった。
 これまでにも米議会が出してた法案だ。いわば議員たちの抗議表明であり、中国も批判するがある程度黙認してきた法案だ。
下院外交委員会の重鎮ヨホ議員
 ところが、反中法案ラッシュが続く中で7月29日、これまで中国の対香港政策を厳しく批判してきたテッド・ヨホ下院議員(共和、フロリダ州選出)が従来の枠から外れた超強硬法案を下院に提出した。
「中国の台湾侵攻に対抗して米国は軍隊を出動させる権限を大統領に付与すべきだ」とする法案を出したのだ。
 その名称は「台湾侵略未然防止法案」(Taiwan Invasion Prevention Act)。
 ヨホ議員は下院外交委員会東アジア太平洋小委員会の委員長格。
 これまでにも香港における中国政府の民主化運動抑圧を激しく批判してきたが、反共保守強硬派ではない。獣医出身の当選4期のベテラン議員だ。
 同法案は次のような点を盛り込んでいる。
一、米大統領が台湾を軍事攻撃から守ることを保障するために米軍隊を出動できる権限を与える。
一、中国が台湾に軍事力を行使、澎湖諸島、金門島、連江を含む台湾領土に侵攻、台湾軍兵士はじめ台湾人に軍事的脅迫をした場合には、米大統領に軍事力を行使する権限を与える。
一、中国に対し、台湾に軍事力を行使しないことを要求する。
一、米国、台湾、そして(中国に対して)意見を共有している安全保障上のパートナーとの安保対話および軍事合同演習のメカニズムを構築する。
一、台湾に対し、(中国との)不釣り合いな武器弾薬の拡充、予備役改革、米国とのサイバー防衛協力強化などに国力をさらにつぎ込むよう助言する。
一、米通商代表部は台湾との二国間貿易協定交渉を開始させる。
一、米大統領、あるいは国務長官は訪台、首脳会談あるいは外相会談を行う。
一、台湾総統が訪米し、米議会で演説ことを歓迎する。
(https://yoho.house.gov/media-center/press-releases/yoho-introduces-taiwan-invasion-prevention-act)
 法案提出に先立ち、ヨホ議員は、6月29日、フォックス・ビジネスとのインタビューでこう述べている。
「米国はこれまで台湾に対して十分な支援をしてこなかった。その理由は、米国の対中、対台湾政策に存在する戦略的な両義性、あいまいさのためだった」
「習近平国家主席は、万難を排して台湾を中国に組み入れると公言している。中国は台湾人がどう考えているかすら聞こうとしない」
(https://www.newsbreak.com/news/1602543348282/gop-rep-yoho-im-introducing-legislation-to-authorize-force-if-china-invades-taiwan)
 数年前ならこうした台湾防衛のための米軍出動論は、「ミミズのたわごと」ぐらいにしか受け止められていた。
 同法案は、下院外交、軍事、歳入各委員会に送られており、どの委員会が審議するかは、下院議長の判断で決められる。
 可決・成立は別として、「台湾有事」に米軍が出動するか否かが本格的に論じられるのは初めてだ。
 米軍が台湾有事で出動することになれば、まず在沖縄米海兵隊が投入される可能性大だ。「台湾有事」に日本がいやおうなしに巻き込まれることになる。
 いずれにせよ、「ヨホ法案」は、米議会が香港情勢をいかに真剣に受け止められているかを示す動きだ。
アザー厚生長官訪台の意味するもの
 米議会の動きに触発されたか(?)トランプ政権も台湾に急接近し出した。
 アレックス・アザー厚生長官が急遽、台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。
 同長官はジョージ・W・ブッシュ第43代大統領(子)の下で厚生行政に携わって以降、公衆衛生一筋のエキスパートだが、大統領継承順位でも第11位の重要閣僚の一人だ。
 同長官は米台国交断交以降、米政府が派遣した最高位の現職政府高官。大統領継承順位11位だ。
 今回の訪台はただ単に新型コロナウイルス対策で台湾当局と意見交換するだけが目的ではない。
 青天白日満地紅旗を前に行われた蔡総統との会談の模様はテレビで全世界に流れた。
 トランプ大統領が重きを置く「絵になる外交」を地でいったことは言うまでもない。
 だが、今のような状況が続けば、その延長線上にヨホ議員が提起している大統領や国務長官の訪台の可能性すら見え隠れし始めた。
制裁は対象議員たちにとって「勲章」
 楊国務委員の認識不足は、冒頭で触れた発言だけではない。
 同氏がおそらく習近平主席に助言した8月10日の対米制裁措置に盛り込まれた対象者たちの選出についても言える。
 ルビオ上院議員ら上下両議員6人とNGO団体の理事長5人の計11人。
 制裁の具体的な内容は明らかになっていないが、おそらくこれらの人物や団体がこれまで中国に対しての発言や活動が極めて反中国的だという理由からだろう。
 米国人の香港問題に対する動向に詳しい米主要シンクタンクの研究員B氏は筆者にこう語る。
「推察するに、これの人物が反中国の法案や決議案を出したり、香港問題で中国を激しく非難している『反中強硬派』だというのが制裁の理由だろう」
「だが、これは天に唾するだけで、習近平主席を取り巻く外交専門家たちの国際情勢掌握のお粗末さを露呈するようなものだ」
「ルビオ氏とテッド・クルーズ上院議員(共和、テキサス州選出)は2016年の大統領予備選に立候補し、今や押しも押されもせぬ上院でも有力議員。2024年には大統領選に再出馬する可能性も出ている」
「また制裁対象になっているトム・コットン(共和党、アーカンソー州選出)、トゥ―ミー両議員はともにハーバード大卒の議会知性派。感情的な反中議員ではない」
「特にコットン議員はアフガニスタン、イラク戦争に参戦した退役陸軍大佐。地元では絶大な人気を誇っている」
「ハウレイ議員はスタンフォード卒、イエール法科大学院で法務博士号を取得した州司法長官だ」
「2019年10月には香港を視察、『香港は今や警察国家だ』と言い切っている」
「さらにこれらの上下両院議員たちは中国国内には没収されるような財産など全くない」
「この制裁措置は、米国が8月7日に香港の自治を侵害したとして制裁に指定した林鄭月娥・香港行政長官ら11人を香港の自治を侵害したとの理由で制裁を科した報復措置だというが、米側には実害はない」
「中国側の制裁対象者たちは、多かれ少なかれ、子弟を米国留学させたり、米国内に財産を所有しているはず。実害は甚大だろう」
「北京勤務の長かった元米外交官の一人はさらにこう述べている。『クルーズ議員らにとっては、中国からの制裁措置は“勲章”(Badge of Pride)のようなもの』」
「『再選を前にした議員は、選挙民に歓迎されることは間違いなし。もっともどの議員も選挙は強いし、関係ないかもしれないが・・・』。中国は人選をまちがいたのではないのか」
ノーベル平和賞受賞団体を制裁対象に
 それだけではない。
 中国が制裁を科したNGO5団体の中には共和党系の反中強硬派組織もある。
 だが、その中にはノーベル平和賞を受賞したことのある国際機関、「ヒューマン・ライト・ウォッチ」(Humaqn Right Watch=HRW)・ルーズベルト大統領の夫人のエレノア・ルーズベルト氏が創設した「フリーダム・ハウス」(Freedom House)ような権威のある人権擁護団体も含まれている。
 その他、ロナルド・レーガン政権時代に創設された「全米民主主義基金」(National Endoment for Democracy=NDI)や有力現職議員、議員経験者が評議員になっている「共和党国際研究所」(International Republican Institute=IRI)の理事長や会長が制裁対象になっている。
 裏を返せば、こうした自由と民主主義を推進してきた国際的な人権擁護団体が、習近平主席が強引に推し進める「香港の完全中国化」に反対していることを天下に曝しているわけだ。
香港・台湾・尖閣が同時多発的「最前線」に
 中国新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港の自治侵害に抗議する米国の官民挙げての抗議は半端ではない。
 当初は選挙戦略の一環で始めたトランプ大統領の反中スタンスは、こうした米国内の反中気運に煽られて、強化せざるを得なくなっている。
 ポンペオ国務長官は、8月10日、香港での民主派取締り強化についてこう言わざるを得なくなっている。
「中国共産党が香港を党支配下の都市として扱う限り、米国も香港を同様に扱う。中国当局がこうした行為を改めるとは楽観視してはいない」
 トランプ政権が先に廃止を発表している香港に対する経済面などの優遇措置は当面復活させないことを再確認したことを意味している。
 ジョー・バイデン民主党大統領候補が副大統領候補に指名したカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州選出)は、公民権、人権擁護をライフワークにしてきた。
 それだけに、これから3か月間繰り広げられるバーチャル・キャンペーンでは中国の香港政策を取り上げる構えのは必至と見られている。
 トランプ陣営、バイデン陣営はどちらがどれだけ反中スタンスを示せるかを争うことになりそうだ。
 米主要メディアのベテラン記者C氏はそれをこう表現している。
「ご両人にマイク・ペンス副大統領とハリス上院議員も加わり、どちらがどれだけ中国を批判できるか、反中スタンスを取れるか、競うことになる」
「まさに寓話に出てくる、どちらの腹が大きいかを競うカエルの話に似てきた」
「もっとも寓話では最後には腹が破裂してしまうが、米大統領選ではどちらも破裂はしないだろうが・・・」
 著書『中国返還後の香港――「小さな冷戦」と一国二制度の展開』でサントリー学芸賞を受賞した倉田徹・立教大学教授は「国家安全維持法」めぐる「米中新冷戦」についてこう論じている。
「(香港の「国家安全維持法」をめぐって)米中対立が地政学の色彩を帯びてくると、日本にとっても完全に他人事ではなくなる」
「香港・台湾の次は言うまでもなく、尖閣諸島や(東シナ海という)海洋が新たな前線となるからである」
(https://janet.jiji.com/apps/contents/searchstory/20200624/620)
 米主要シンクタンクからは「中国の尖閣諸島での動きに日米統合機動展開部隊を新設すべきだ」と主張する報告書も出ている。
(参照:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61561)
 尖閣諸島は今や香港・台湾の次ではなくなりつつある。「香港・台湾・尖閣」は同時多発的に米中対決の「最前線」になりつつある。
 11月3日には大統領選と同時に上下両院選挙が行われる。現職議員も再選するには反中の旗を降ろすわけにはいかない。
 米議会の動きは要注意だ。