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安倍総理の志は死なない!!

世界的孤立進む中国が韓国などに秋波、日本はどう対応すべきか

中国は孤立を避けるため
韓国などの外交を強化し始めた
 中国が米国や欧州諸国との関係悪化もあり、国際社会で中国の孤立感が高まっている。その背景には、新疆ウイグル自治区での人権問題や、香港の国家安全維持法の施行、新型コロナウイルスの感染などをめぐって、米国や欧州諸国、さらにはオーストラリアなどとの関係がややこじれていることがある。
 わが国やオーストラリア、EUは中国や香港での人権的な問題などへの懸念を表明し、自由資本主義陣営と国家資本主義を標榜する中国との溝が深まっている。それに加えて、領土問題で対立するインドや、ベトナム、台湾なども中国に対する警戒感を強めている。
 欧米との関係が冷え込む中、中国の習近平国家主席はさらなる孤立を避けるため、アジア各国への外交を強化し始めた。
 目下、最も重視しているのが国の一つが韓国だ。
 習氏は早期訪韓の意思を文在寅(ムン・ジェイン)政権に伝えた。習氏は韓国を「自国の陣営」に取り込み、米国に対抗することを望んでいるはずだ。現在、半導体の製造能力が十分ではない中国にとって、韓国との関係強化はサムスン電子などの生産技術を吸収するためにも重要だ。
 一方、韓国は安全保障を米国に依存している。その韓国が、中国の陣営に本格的に参入することはできないとみられる。早期の訪韓が実現し、文氏が対中関係を重視する考えをより鮮明に示したとしても、短期的に韓国を巡る情勢が大きく変わるとは考えづらい。逆に、文氏が経済面での対中関係を重視すればするほど、米国が韓国に厳しい姿勢を示すことも考えられる。それに対してわが国は国際世論の変化を機敏にとらえ、“大人の姿勢”で安全保障体制と経済基盤の安定、強化に注力すべきだ。
孤立回避に向け
アジア外交を重視する中国
 先述したように、足元、米国の自由資本主義体制と、中国の国家資本主義体制の衝突が激化している。そんな中、ポンペオ国務長官は「中国の台頭が自由資本主義の脅威である」と主張し、連携強化による対中包囲網の形成を世界各国に呼び掛けている。欧州やわが国など米国とともに安全保障の体制をとっている国々がそうした見解を支持し始めている。
 特に、オーストラリアの対中批判は明確だ。モリソン政権はコロナ発生の独立調査を国際社会に求めた。独立調査を求める国が増えれば、中国共産党は内外の強い非難に直面するだろう。習主席はその展開を避けなければならない。中国は豪州からの農産品などの輸入を制限し、歯向かえば経済面で大きな代償を支払うことになると警告している。
 一方、中国の圧力が国際世論に変化を与えていることも事実だろう。いち早く回復基調をたどり始めた中国と、スマホアプリの遮断やファーウェイへの禁輸強化などに動く米欧との溝は深まっている。
 そうした状況を打開するため、中国はアジア各国との外交政策を強化し始めた。今のところ、アジア地域ではカンボジア、ラオス、ミャンマーが親中姿勢を示している。中国はそうした国を増やしたいと考えているだろう。中国習政権はアセアン諸国との関係強化を目指しているものの、今のところ目立った進展はないようだ。
 8月22日、事態打開を目指して中国の外交トップ楊潔チ(チの字は竹かんむりに“褫”のつくり)政治局員が訪韓した。それは、中国が対韓関係を重視し始めたことを意味する。文政権は経済面で対中関係を重視している。もし、米国の同盟国である韓国が中国との経済的な関係の強化に動けば、親中に傾くアジアの国は増える可能性がある。
 それは、中国が米国の覇権にくさびを打ち込み、世界経済の成長に重要な役割を果たすと期待されるアジア新興国地域への影響力を強めることにつながるだろう。それに加えて、DRAMなど世界の半導体市場でシェアの高い韓国との関係強化は、中芯国際集成電路製造(SMIC)など中国の半導体受託製造企業の成長を促進するためにも重要だ。
積極的な姿勢で
対中関係強化に動く韓国・文政権
 韓国の文在寅大統領は、中国との関係を修復し、それを政治基盤の安定につなげたいと、もくろんでいるだろう。足元の文政権の内政は八方ふさがりだ。韓国では不動産価格の高騰に不満を抱く人が増えている。輸出の減少によって景気は冷え込み、若年層を中心に所得・雇用環境も厳しい。外交面では、文氏が重視してきた南北の宥和がうまく進まなくなった。安全保障を頼る米国からは、米軍駐留費用の負担引き上げを求められている。
 その状況下、習氏が早期訪韓を重視していることは、文氏にとって“渡りに船”だろう。韓国が米国のミサイル防衛システムであるTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を配備して以降、中国は韓国への団体旅行を禁止するなど、中韓関係は冷え込んだ。
 習氏の訪韓によって文氏は中韓関係の修復を目指し、中国の需要を取り込む体制を整備したい。それが実現すれば、文政権は自動車や半導体など主要産品の対中輸出を増やして景気を支え、支持率回復を目指すことができるだろう。文政権が香港問題などに関して明確な立場を示していないのは中国への配慮からだ。
 その一方で、文政権は対中包囲網の強化を目指す米国に対しても、明確な見解を示していない。ある意味、文大統領は米中に対して等距離感覚で立ち回ることがそれなりに可能であり、それによって米中双方から利得を得ることができると考えているようだ。
 ただし、現実的に考えると、米国は同盟国である韓国が中国の経済圏に入ろうとすることを許さないだろう。中韓関係の強化は半導体製造能力の向上を支え、国家資本主義体制の強化につながる恐れがある。先行きは読みづらいが、仮に、文大統領が中国との経済的な関係強化に真剣に注力するのであれば、米国が安全保障を理由に韓国に様々な圧力をかける可能性は排除しきれない。特に、韓国にとって、米国の半導体製造装置は不可欠な要素の一つだ。今後の展開によって、韓国の社会と経済は、かなり深刻な状況に直面する恐れがある。
最終的に韓国は
米国への依存体制を崩せない
 国家の存続にとって、安全保障体制の確立は何よりも重要だ。安全保障がしっかりしていることが、経済活動と人々の安心を支える。安全保障を米国に依存する韓国が、中国の経済圏に入る展開を想定することは現実的ではなく、かなり難しい。
 文氏が重視してきた南北の融和に関しても同じことが言える。国際世論は同氏の北朝鮮政策を懸念した。米国は韓国が洋上での“瀬どり”を放置していることを問題視し、大型警備艇を派遣した。英国なども艦艇などを日本海周辺に派遣した。それは、安全保障の確立のために、主要国が米国との政策協調を進めることの重要性を理解しているということだ。
 当面、安全保障面で韓国が米国に頼る状況は変わらないだろう。それを大きく変えることもできないはずだ。サムスン電子をはじめとする財閥企業は、米国のドル覇権や半導体製造分野での知的財産と技術に頼らざるを得ない。
 見方を変えれば、習主席の早期訪韓を目指す文大統領の姿勢は「勇み足」といえる。主要先進国の外交政策を見ると、日米欧を中心に中国に対する懸念が明確に表明されている。その状況下、習氏の早期来訪を目指す国は見当たらない。国際世論と異なる外交政策を重視する文氏の姿勢は、国内の保守派や米国との関係を重視する国から不信を買うだろう。
 わが国は、粛々と米国と安全保障関係を強化し、欧州各国やアジア新興国などとは経済的な関係を強化して、国際世論を味方につけることに徹すればよい。それが、元徴用工問題をはじめとする歴史問題に関して、わが国が韓国に政府間の最終合意に基づいた、現実的な対応を求めることにもつながる。
 11月の大統領選挙後も、米国の対中政策に大きな変化はないだろう。状況次第で、対中強硬姿勢がさらに強まる可能性もある。その展開の中で、韓国が米国に依存する構図は続くだろう。このように考えると、習主席の早期訪韓が国際社会における韓国の立場を大きく変えることになるとは考えづらい。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)