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安倍総理の志は死なない!!

静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ

怒り心頭の川勝知事発言はマッチポンプか
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2020年10月02日


今年6月、JR東海の宇野副社長らとリニア工事現場を視察した静岡県の川勝知事(左、筆者撮影)
「そんな事実があったのかと驚いた。(JR東海は)資料を公開していない。非常に不愉快だ」
9月23日、静岡県の川勝平太知事は記者会見で静岡新聞1面トップ記事の感想を聞かれ、JR東海を強く批判した。
翌日、金子慎JR東海社長は「出し渋りも隠してもいない」と反論したが、“非公表資料”は県議会でも「住民不信を募らせる」と問題視され、JR東海はさんざんに叩かれている。
今回の大騒ぎを演出した真相を探っていくと、川勝知事が果たしている役割がはっきりとわかる。このままでは、リニア「静岡問題」解決は絶望的である。
その静岡新聞の記事とは、9月10日付の1面トップ記事『大井川直下「大量湧水の懸念」 JR非公表資料に明記』だ。
同紙は、JR東海に委託された地質調査会社が報告した南アルプス地質データを入手して、『JR東海の非公表資料が存在することが、9日までに分かった』というスクープを打った。記事は、東俣川(最上流の西俣川分岐から大井川本川の呼び名)に沿う断層が分布するとして、「東俣から涵養された地下水が大量に賦存(潜在的に存在)している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」など調査会社の記した「メモ」を基に構成、「メモ」写真も掲載している。
記事を受けた解説は「大井川直下の地質を重点的に調べるボーリングの追加調査は必須」などと書いている。
1年前にほぼ同じ記事が…
ところが、スクープ仕立てにした記事内容は、ほぼ1年前、同紙に掲載されていた。2019年10月1日付で『大井川直下に断層か』という大見出しで同じく1面に掲載された。今回と同じような図も付けられている。また、今回の解説と同じく、「本流近くでボーリング調査をする必要がある」と結論づけている。
驚くことに、社会面には「専門家 JR姿勢疑問視 地質情報 非公表条件に県へ提供」と「地質データ 知事、公表求める考え」という2本の記事が並んで掲載された。当時も、知事は「公表したほうがいい」と発言したが、今回のような大騒ぎにならなかった。
あとで詳しく紹介するが、今回のスクープ記事に掲載された“非公表資料”は、県専門部会委員も県担当者もすべて承知している内容だ。県の「南アルプス自然環境有識者会議」(現在の地質構造・水資源専門部会、生物多様性専門部会)でも何度か取り上げられている。
昨年の記事に『JRは目的外の使用を避けるよう県に求め、県は「公表できない」(くらし・環境部)としている。』とあるから、そのとき、県は静岡新聞に資料を提供しなかったようだ。それから1年たって、誰かが“非公表資料”をリークしたのである。
知事は1年前のことをすっかりと忘れたかのように、23日の会見で「非常に不愉快だ」と語気を強めた。県関係者のすべてが承知している情報が新聞記事になったくらいで、「不愉快」発言とは“自作自演”かと、疑いたくなる。
資料は段ボール箱10箱分
発端となった「メモ」は、2018年10月、JR東海が県に提供した段ボール箱10箱の河川流量や水収支解析に使った報告書など54冊にわたる膨大な資料に含まれていた。「毎秒2トン減少」というJRの流出予測の根拠を示すよう県に求められ、それにJRが応じた。その中の1つが南アルプスの地質調査データを示した大開きの断面図であり、そこに注釈として「メモ」が付けられていた。


段ボール箱10箱などJR東海提供の資料(静岡県提供)
南アルプスは世界最大級の断層地帯とされるリニア工事の最難関地域である。地質会社の調査でも断面図には東俣川の1カ所だけでなく、10カ所ほど「懸念する」「要注意」などの「メモ」が付けられていた。それでも、同紙はほかの「メモ」は問題にせず、なぜか、たった東俣川の1カ所の「メモ」のみを記事にした。その理由は昨年10月の記事を読めば、はっきりとわかる。
それは、東俣川直下の断層を問題にする専門家がいるからである。
今回の記事では、南アルプスの地質に詳しい研究者(実名)の「追加調査の必要がある」という談話が掲載された。この研究者に確認したところ、「私の発言は今回の記事とは関係ない」とのことだった。以前、別の地域に関して指摘したことが、今回の報道価値を高めるために使われたようだ。
JR東海は、県の専門部会委員、県、会議運営の委託会社を対象に資料を貸し出した。資料のデータ化、コピーは許可されていた。
調査会社の資料は、JR東海が南アルプスの特異性等を踏まえてトンネルを施工できるかどうかの判断材料の1つに使われ、施工できるとの結論を得た。「命の水」を守るとして知事が問題にする湧水の県外流出については、不透明な点が多いから、現在、議論が続いている。本当に東俣川直下が問題かどうかは、県委員が指摘するはずだから、専門家会議の議論に任せればいいのだ。
今回の「メモ」は生資料であり、そのまま公表した場合、恣意的な記事づくりの材料にされるおそれがある。そんなリスクを避けるのはJR東海に限らず、どこの企業でも同じだろう。
2018年10月、JR東海が県に提供した資料を、知事は県委員に資料を公開したが、JR東海に対して一般公開は求めなかった。
また、県は報道機関に対しては、段ボール箱の写真と報告書の内訳のみを提供した。専門性の高い内容、民間企業の有する機密性保持を踏まえれば、「段ボール箱の中身をすべて公表しろ」と報道機関が要求するほうがおかしい。


静岡県に開示請求した会議資料。難波副知事発言の墨塗りとされた部分
ところが、今回、知事は同紙に同調して、全面的な一般公開を求めている。もしそうならば、県がリニア関連の資料すべて公開しているのか。
筆者は、昨年5月県庁で行われたリニア問題をテーマにした「大井川利水関係協議会」会議録を県情報公開条例に基づいて開示請求した。県中央新幹線対策本部長の難波喬司副知事が「準備工事の取り扱いの考え方」の見解などを示したものだが、この中で、難波発言の2カ所が12行、7行分墨塗りされ、内容はまったくわからなかった。
知事はマッチポンプの役割か
非開示の理由は、「公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に県民の間に混乱を生じさせるおそれ」というものだ。担当課は「会議のテーマとは別件を話題にしたから」と説明した。
知事はJR東海に対して、県民が誤解を招きかねない資料の全面公開を迫っているが、県の会議録は「県民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるとして、非開示。これをご都合主義と呼ぶ。
いちばんの問題は、同紙がどのようにして、JR関連の資料を入手したのかである。JR東海は県関係者にしか貸し出していないのだから、資料データを所持する県関係者のリークしかないだろう。
だとすると県は同紙を使って恣意的にJR東海批判をあおり、知事はそれに火をつける“マッチポンプ”の役割を果たしたことになる。もし、県関係者が静岡新聞に情報を提供したのであれば、「資料を第三者への譲渡および提供はしない」約束を破られたJR東海は、県に厳重に抗議したほうがいい。
10月2日に難波副知事が日本記者クラブで会見して、県の正当性を訴える。県は、これまでもJR東海と国土交通省を相手に“情報戦”を展開してきた。今回の大騒ぎも難波会見もその一環なのだろう。ただし、見え透いた演出をすると、思わぬところで足元をすくわれることもある。正々堂々と「闘う」ことを勧めたい。