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安倍総理の志は死なない!!

最高裁判事新指名でトランプ陣営が有利になる3つの理由

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
 米国のトランプ大統領が、病死した最高裁のルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の後任として、エイミー・コニー・バレット判事を9月26日に指名した。この指名により、トランプ大統領は11月の大統領選に向けて有利な材料を得る見通しとなった。
 バレット判事は48歳の女性で、ギンズバーグ判事がリベラル派だったのに対し、明確な保守派である。人口妊娠中絶、銃砲規制、国民医療皆保険、違法移民対策などで共和党やトランプ政権の考えに近いことで知られる。


猛反対する民主党・バイデン陣営
 この最高裁新判事の人選は、大統領選で対決する民主党のバイデン陣営との間で、さらに激烈な衝突をもたらした。米国の現実の政治を大きく動かしうる最高裁判所の9人の判事は、今まで保守派が5人、リベラル派が4人だった。バレット判事の就任が決まると、保守6、リベラル3と、さらにトランプ陣営に有利に傾くことになる。だから民主党としては、トランプ大統領がこのタイミングで新判事を指名することに反対し、11月の大統領選挙で民意を確かめてからの新指名を要求しているわけだ。
 一方、トランプ大統領と与党の共和党上院勢力は、11月の大統領選挙の結果が判明する前にバレット判事の最高裁への就任を確定してしまうことに自信を示している。
 上院でバレット判事の指名と承認への手続きを開始するのは司法委員会である。司法委員会のリンゼイ・グラハム委員長(共和党)は、10月から同委員会でその審議を始める方針を明らかにした。10月15日に本格的な審議を深め、22日にはその指名案を上院本会議に送る予定だという。そして上院本会議で過半数の同意が得られると、バレット新判事が誕生する。
 司法委員会は22人のメンバーのうち12人が与党の共和党である。よってこの委員会でバレット判事案が可決されることは確実だ。続く上院本会議は、現在、共和党53人、民主党47人という構成となっている。共和党議員の2人がトランプ大統領のバレット判事指名に賛成しない方針を述べているが、残りの51人による承認は確実とみられる。その結果、上院本会議でも10月22日以降のスピード審議で承認が可決される見込みだ。
 民主党は大統領選挙前の最高裁判事の新指名に猛烈に反対している。だがトランプ政権側の手続きに違法性や違憲の点はなく、阻止は難しい。
 実際に民主党のオバマ政権時代にも、大統領選挙の年である2016年に最高裁の保守派判事が死去したため、オバマ大統領がリベラル派の判事を新指名して上院の承認を得ようとした事実がある。当時の上院は野党勢力の共和党が多数を占めており新判事の承認に反対の構えをみせたため、オバマ大統領は実際の議会の手続きまではとらなかったが、大統領選直前の最高裁新判事指名・承認を阻止しようとするバイデン陣営の主張に法的な根拠がないことは、この事例からも明らかだ。
 米国の歴史を振り返っても、大統領選挙の年に最高裁判事の交代が求められ、時の大統領が新判事の候補をすぐに指名した事例がこれまでに29回あった。そのうちの17回は、大統領支持の政党が上院の多数を占めていたため、指名は承認された。つまり、今回のトランプ大統領の動きも歴史的、法的には異端ではないのだ。


トランプ陣営に有利に働くとされる理由
 さて、こうした動きは目前に迫った大統領選挙にどんな影響を及ぼすのだろうか。
 共和党、民主両党側の政治家や専門家がさまざまな意見を述べているが、総括するとトランプ大統領の側に有利に働くという見方が有力だ。
 その第1の理由は、最高裁新判事指名という手続き自体をめぐる争いで、トランプ大統領側が勝つ見通しが高いことである。すでに報告したように、トランプ大統領のこの時点での新判事の指名から議会での承認取り付けには、違憲や違法という要素はない。そのうえ、上院が共和党多数という事実をみても、同大統領の意向どおりに大統領選挙前にこの争いの少なくとも第1段階が決着することは確実である。もしかすると、その時点でトランプ大統領は勝利宣言をしてしまうかもしれない。
 第2の理由は、保守派の最高裁判事の増員は米国の保守勢力の年来の念願であり、その達成は各州での保守派を元気づける効果があることだ。とくに共和党支持と民主党支持が拮抗するフロリダ、ペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナ、ウィスコンシン、アリゾナなどの激戦州では、共和党側を激励し、選挙資金寄付を増大させるような効果があるという見方も少なくない。
 第3の理由は、大統領選の投票後に混乱が生じ最高裁の介入を必要とした場合、最高裁の判決が保守側に傾斜する可能性である。2000年の大統領選挙では、フロリダ州の再集計に最高裁がストップをかけたことで最終的に共和党のブッシュ氏が民主党のアル・ゴア氏を破って勝利している。判事たちはもちろん法の精神に即しての審理を進めるが、自己の政治信条などがまったく無関係ともいえない。トランプ陣営が保守派の判事に期待を寄せることは事実である。
 以上の理由に加えて、新指名されたバレット判事の家庭環境なども保守陣営へのプラスの要因となることが考えられる。
 バレット判事には検察官の夫ジェシー氏との間に8歳から18歳まで合計7人の子供がおり、「子供たちこそ私の人生の最大の喜び」と述べている。7人のうちの2人がハイチ生まれの黒人の養子であることに対しても一般米国民は親近感や好感を抱くだろうという見方がある。
 ただし以上のような要因はトランプ支持層にとっては強力なプラス材料となっても、反トランプ陣営にはトランプ大統領へのさらなる反発の要素ともなりうる。だからバレット判事指名という新事態の大統領選挙への影響は、現時点ではまだ決して断言することはできないといえよう。