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トランプ感染を大喜び、バイデン推し偏向報道の異様

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
 2週間後に迫った米国大統領選では、民主党のジョセフ・バイデン候補が相変わらず失言を重ね、政策面でも不透明な対応を続けている。バイデン候補は以前から物忘れや失言が目立ち、認知症疑惑まで指摘されていた。だが、大手メディアはそうしたバイデン候補の問題点をまったく取り上げず、トランプ大統領の言動にもっぱら容赦のない糾弾を浴びせている。
 私はこれまで40年ほどの間、通算8回の米国大統領選を現地で実際に取材してきたが、米国の大手メディアがここまで党派性をむき出しにして民主党支持に走った例はみたことがない。長年の経験からしても今回の大統領選はあまりに異様である。
トランプと主要メディアの“デスマッチ”
 思えば1976年の共和党ジェラルド・フォード現職大統領と民主党新人のジミー・カーター氏の対戦が米国での大統領選現地取材の初体験だった。以来、カーター対レーガン、レーガン対モンデール、ブッシュ対デュカーキスと続き、ブッシュ対クリントン、2代目ブッシュ対ゴア、オバマ対ロムニーなどの選挙戦の取材を重ねてきた。
 だが今回の選挙戦はそのどれとも根幹から異なる。
 異様な要因といえば、まずトランプ大統領までもが襲われた新型コロナウイルスの大感染である。選挙自体の枠組みを大きく変えてしまった。
 第2には共和、民主両党派の前例のないほどの険悪な対立である。ののしり合いが主体となり、政策論議は消えてしまった。
 第3には、トランプ大統領と主要メディアの“デスマッチ”である。大手の新聞やテレビの民主党への傾斜は長年の現象だが、今回はその勢いが一線を越えたようなのだ。
 以上の特徴のうち、現在の日本で語られることの最も少ない現象はメディアの政治傾斜であろう。主要メディアのこの傾向は民主党のジョー・バイデン候補を全面的に支援する偏向報道という形をとっている。
バイデン氏の失言に目をつぶる大手メディア
 バイデン氏が公の場で事実関係の大きな誤りを頻繁に口にすることは幅広く知られている。たとえばコロナウイルスの死者の数をケタ数から間違える。自分が演説をしている州の名を間違える。自分が副大統領だったときの大統領の名前(オバマ大統領)を思い出せない。あまりにも明確な間違いを繰り返すため、全米世論調査では米国民の多くが、バイデン氏が単に高齢というだけでなく認知症を患っているのではないかと疑っている、との結果が出ている(参考「なぜ今? 米国で囁かれるバイデン氏の認知症疑惑」)。
 バイデン氏の公開の場での失言は、投票日まで3週間を切ったここ数日の間にも中立系あるいは共和党寄りのメディアによって報じられている。たとえば以下のような発言である。
「アメリカのコロナウイルス感染による死者は200万人だ」(実際には20万人)
「私はいま上院議員選挙に立候補している」(実際には大統領選)
「私たち民主党はかつて戦った、あのモルモン教の、上院議員・・・州知事の・・・」(ミット・ロムニ―氏の名前を思い出せない)
「トランプ氏は大統領選でオハイオとフロリダの両州で過去2回、勝った」(トランプ氏は過去1度しか大統領選に出ていない)
 バイデン候補は政策面でも不透明さが拭い去れない。たとえばトランプ政権が指名した最高裁判事候補に反対しながらも、対案を一切語らない。シェール石油を採掘するためのフラッキング(水圧破砕工法)を禁止するのかしないのか、不明のままである。トランプ政権の対中政策が軟弱だと非難しながら、自分は具体的な対案を述べない。
 しかしバイデン氏のこうした失言、問題点を、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなど民主党支持の主要メディアは無視あるいは軽視してきた。むしろ、バイデン氏を批判的に報じる側を「偏見」だとして攻撃する。トランプ大統領が「もし私がこの種の間違った発言を1つでもすれば、大統領失格と断じられるだろう」と苦言を呈するのも無理はない。
 民主党寄り大手メディアのバイデン候補支持の傾向は他にも顕著な例がある。
 10月中旬、保守系の新聞、ニューヨーク・ポストがバイデン氏の次男ハンター氏がウクライナや中国の大企業と取引して、父親が現職副大統領だったコネを利用して年間1000万ドルという巨額の「顧問料」を得ていたことを示すEメール記録などを報道した。だが、ニューヨーク・タイムズなどは一切無視した。また、トランプ大統領が以前から民主党寄りだと非難していたフェイスブックとツイッターは、この報道の拡散を防ぐ措置をとった。トランプ陣営は「言論と報道の自由を妨害している」と抗議したが、民主党寄りメディアはこれまた無視した。
トランプ氏のウイルス感染を大喜び
 他方、民主党寄り大手メディアのトランプ大統領への論評は苛酷をきわめる。
 トランプ氏のウイルス感染について、ニューヨーク・タイムズのモーリン・ドウド記者らは「ウソで固めたトランプの世界についに天からの懲罰が下った」と報じ、これで選挙戦の結果が決まったかのような喜びをにじませた。
 同様にワシントン・ポストもデーナ・ミルバンク記者らが「トランプ氏の無謀、無能、無責任、ウソの結果がこの感染であり、米国民への侮辱だ」と論評した。
 CNNテレビはジル・フィルポビク記者らが「トランプ大統領はこの感染でパニックに陥り、常軌を逸し、もはや選挙戦に敗れたと言える」と断じた。
 この種の論評では、トランプ支持層から一般国民の多くまでが示す大統領の感染への心配や同情はツユほどもみせていない。逆に大統領が傷ついたことを歓迎するのだ。しかも大統領自身や医師団の公式の発表はすべて虚偽のように否定する。
 この点を、中立系のウォール・ストリート・ジャーナルや共和党寄りのFOXテレビは「民主党支持にのめりこんだ敵意の偏向」と批判する。そして反トランプ・メディアがバイデン候補に対してはあまりに寛大だと指摘する。
「打倒トランプ」を編集方針に
 振り返ればニューヨーク・タイムズなどのメディアはトランプ氏の当選直後から激しい打倒トランプ・キャンペーンを展開してきた。「本来、選ばれてはならない人物が選ばれたから、選挙ではない方法を使ってでも倒す」という態度が明白だった。
 この方針は2019年8月、同紙の編集会議の記録が外部に流出して、確認された。同記録によると、編集会議で「トランプ打倒を大目標とする紙面づくりを続ける」「これまで『ロシア疑惑』報道をその最大の手段としたが、効果がなかった」「今後はトランプ氏がレイシスト(人種差別主義者)だとする主張を最大の手段とする」──という方針が明言されていた。今年(2020年)5月以降の米国内での事態をみると、ニューヨーク・タイムズの戦略が功を奏したようにもみえる。
 ちなみに日本で論じられない米国メディアのこの種の偏向を詳細に解説して全米ベストセラーにもなった『失われた報道の自由』(日経BP刊)という書が日本でも出版された。著者は共和党レーガン政権の司法省高官だった保守系法学者で、政治評論家のマーク・レビン氏である。レビン氏は大手メディアの民主党傾斜の偏向ぶりを歴史的、構造的に明らかにした。私もこの本に解説文を寄せている。本記事とあわせてお読みいただきたい。