Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

激戦州で優勢のトランプ大統領が急減速した違和感

──米時間の11月3日に米大統領選の投票が行われました。ここまでの情勢を見ると、ペンシルベニアやジョージア、ノースカロライナなどの激戦州の開票結果次第という情勢です。ここまでの情勢をどう見ますか?
酒井吉廣氏(以下、酒井):4日の午前4時頃(米時間)までトランプ大統領がリードしていたのに、ジョージアとノースカロライナは3日深夜から約1日たってもその後の開票が進んでいませんでした。フロリダとテキサスも開票に遅れが見られました。その間に、アリゾナ、ウィスコンシン、ミシガンの開票が進みましたが、ウィスコンシンとミシガンでは、トランプ優勢が徐々にバイデン候補の優勢に変わっていきました、郵便投票の結果でしょうが、さすがに不自然に感じました。
 トランプ大統領も黙っていないでしょうから、2000年の時のブッシュVSゴアと同じような再集計を州規模でやるか、最高裁判断になると思います。既に、ウィスコンシンには再集計を、ミシガンは集計そのものが不自然だと訴えました。トランプ大統領は当初、最高裁に対して4日の午前4時時点で集計を止め、その時点の集計結果を開票結果にせよと要請しましたが、既にその時間を過ぎており、4時時点の票数は分かりませんから、最高裁から差し戻されたようです。
──大統領選の速報を見て、何か感じたことはありますか?
酒井:はっきり言えるのは、かなりの人が「反トランプ」だったということです。リバタリアンを主張する集団は元来、共和党の一部のような存在ですが、今回は共和党とは別に大統領候補を立て、わずかではありますが票をとっています。微妙な票争いをしている接戦ではあり得ないことです。それだけ、トランプ大統領が嫌だったのでしょう。


──今回の選挙を事前にはどう想定していましたか。
酒井:前回(2016年)の流れを考えて、接戦州のうち4日未明段階で優位にあったウィスコンシン、ミシガン、ジョージア、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ネバダ、アラスカ、そしてメインのうちの1票を取って勝利。あるいは、ウィスコンシンとミシガンを落としても、それ以外で275を確保して勝利。従って、バイデン候補が敗北演説をするという流れだろうと思っていました。実際、トランプ陣営はパーティーも始めていました。
──バイデン候補は早々に勝利宣言を出しました。その意図は何でしょうか。激戦州での票読みが予想通り推移しているということでしょうか。
やはり混乱を生み出した郵便投票
酒井:「勝利へのパスを信じる」という主旨の話でしたから「犬笛」だったんだろうと思います。犬笛は犬にしか聞こえない周波数でなる笛のことで、政治の世界では特定の関係者にアピールする演説を指します。つまり「(これからも届く)郵便投票を待て。じっくりカウントせよ、勝ちに行くのだ」と宣言したのです。不正をしろとまで言っているかどうかはわかりませんが、楽勝でなくなったのがわかり、票のカウントを遅らせようとしたのだと思います。
 これを「犬笛」と考えないと不自然なのは、選挙翌日の未明になって、劣勢にある側の候補が、何で翌日以降の集計を信じるなどと話すのか。むしろ、自信があるなら急いでカウントせよ、と言うべきでしょう。カウントを遅らせれば、続々と郵便投票が届き、トランプ大統領も勝利宣言ができませんから。
──一方、トランプ大統領も勝利宣言をすると同時に、投開票の無効を訴えています。これはどういう意図でしょうか?
酒井:トランプ大統領は政治家を職業としていませんから、こういう時は直截的に話します。この段階では、特別な意図というよりも、素朴に自分が勝っているんだと言いたかったのだと思います。しかし、これをツイートした際、「注意」マークがつきましたね。相変わらず、プラットフォーマーは社会の仕置き人然としています。
──州によっては投開票がストップするなどの動きがあったようです。
酒井:それ自体が不自然なんです。トランプ大統領は、問題は民主党の州で起こっているとツイートしましたが、今度はツイートがブロックされました。数時間後には集計はスムーズに戻ったようですが。


──激戦州のペンシルベニア州はどうでしょうか。
酒井:私の記憶では、4日になる頃にはトランプ大統領が70万票リードしていて、それに対して同州にはまだ集計前の投票用紙が100万票あるから結果はわからないぞ、という反論が出ていました。ニューヨークタイムズの記者は「バイデン候補は勝つつもりだが、周囲はとても不安がっている」と言っていました。
 ところが、4日の朝10時頃になると、開票が進んでリードが60万票差に縮んでいるのに、残りが140万票と増えました。さらに、4日お昼頃には、ペンシルバニアの選挙管理委員会の責任者が「百万票以上を数十人でカウントする」と言っていました。いい加減というか、日本人の感覚ではあり得ないことです。
 集計についてもそうです。投票所は早朝になると長めの休憩を入れるのが常ですが、ペンシルバニアなど映されている集計所の様子を見ると、みなゆっくり休んでいました。その後の映像を見ても、朝食にでも行ったのか、複数のテーブルがごっそりいなくなっていました。私の記憶が正しければ、全米レベルの選挙では、特に下院選挙では集計に手間取るので4時とか5時頃に一休みして、一気に集計を終わらせようというのが普通です。いずれにせよ、手際のよい日本人ではあり得ない話です。
 選挙の仕事をした人はご存じだと思いますが、集計をする場所には余計なものを持ち込めません。偽物の投票用紙を何枚も持ち込むかもしれませんので、そこは厳しく対処します。ところが、一度、食事などに出てしまうと、そこでスマホで全体の状況を見れますね。「ならば、自分の好きな政党に勝たせたい」と思うのが人の心情です。集計時の不正はそういうところから発生する、というのが犯罪学の基本です。
地に落ちた米国の民主主義
──勝者が確定するまで時間がかかるとの話ですが、その理由は何でしょうか。
酒井:このような状況で、誰が集計を信じられますか。勝てばいいけれど、負けだとなれば、再集計を含めて何か手を打つでしょう。これはどちらも同じです。特に、民主党は2000年の苦い思い出があるので、絶対に譲らないと思います。
 相手がズルをしていると思っているわけですから、それを放置することはないということです。これ自体はトランプ大統領らしい喧嘩だとでも思うかもしれませんが、バイデン候補も似たようなものだと思います。
──選挙は民主主義の根幹であり、米国は自由と民主主義の国として世界に評価されてきました。なぜこんな選挙になってしまったのでしょうか。
酒井:米国の民主主義が地に落ちたということではないでしょうか。
──いつから米国は壊れてしまったのでしょうか。
酒井:オバマ政権の頃から徐々にということだと思います。4年前から政治経験のない、かつ破廉恥な人間が大統領になって、政治を専門とする人々には我慢ならない状況が生まれました。そこから一段と壊れたというか、周囲が「壊れたと言うようになった」のだと思います。
 トランプ政権のレガシーの一つであるイスラエルとアラブ諸国の国交樹立も、パレスチナ問題を悪化させる、イランなどの仕返しがあるなどと言うわけですから、何をやっても壊れされたという評価になるのでしょう。
米国の分断は社会主義と資本主義の戦いに
──4年前の大統領選では外国の敵対勢力が選挙を妨害したとして大騒ぎになりました。今回は米国自身が自壊した印象です。
酒井:今回もハンター氏の疑惑をロシアの偽情報だとバイデン氏は押し通しており、質問することさえ許していません。一方、米連邦捜査局(FBI)によるロシア疑惑(オバマゲート)などの調査結果は、まだ出てきていません。9月終わりだったか、トランプ大統領に批判的な元米中央情報局(CIA)長官のブレナン氏が膨大な資料を提出したことも一因だと思います。
 客観的な事実からすると、ハンター氏は父親と一緒に政府専用機で北京に行き、中国の首脳や後のビジネスパートナーと会うなどしているのですから、トランプ政権で米国が壊れたのではなく、10年ぐらい前から壊れていたのですよ。
──大統領選を通して、米国は保守とリベラルの分断がさらに深刻化しました。このまま分極化は加速するのでしょうか。それとも、次の大統領の下で国の融和が進むのでしょうか。
酒井:もともと分断がありましたし、今回は社会主義と資本主義の戦いでもあります。バイデン候補は勝利のためにサンダース上院議員に魂を売った。そもそもは、サンダース候補の方が強い候補で、賛同者も多く、今では民主党の中心的な集団になりつつあります。3月から突然流れが変わったのは、民主党として社会主義者を自負する人間では勝てないと思ったからでしょう。
 私の知る限り、1980年の予備選でもカーター大統領に挑んだテッド・ケネディ上院議員が重鎮らの説得で予備選から撤退しています。民主党はそういう党なのかもしれません。
 一方、前回のことを考えれば、サンダース上院議員を無視するとまた負けてしまいます。「社会主義」や「共産主義」というイデオロギーは、戦前の日本のゾルゲ事件などを見ても分かるように、関わっている人間たちは狂信的な思想に染まっている場合も少なくありません。分断が進むのは当然ではないでしょうか。
──国の団結を進めるには何が必要でしょう?
酒井:バイデン候補が勝つと、サンダース上院議員の一派が、オカシオコルテス下院議員を中心として活動を本格化させます。閣僚にもかなり入るかもしれません。彼女たちはプログレッシブだけで組閣せよと言っていますし。今回は、黒人のLGBTが下院議員に当選しており、それ自体は良いことです。しかし、これらの人が社会主義者で、民主党全体が社会主義に染まってしまうと、なかなか元に戻れません。
 オカシオコルテス下院議員は2018年に初当選しました。その時からサンダース上院議員を師と仰いでいました。また、民主党内にもオカシオコルテス議員をはじめとしたプログレッシブ候補に対する支持者がかなりいました。
 民主党のペロシ下院議長は続投を考えているようですが、過半数を維持したとはいえ、民主党は勢力を落としました。その中でペロシ議長が続投することはオカシオコルテス下院議員などが許さないでしょう。揉めると思います。
 この4年間の分断が本当に進んだのだとすれば、社会主義者が増えたことではないでしょうか。米国が社会主義でまとまるのであれば、民主党でもいいでしょう。ただ、資本主義がいいのだとすれば、トランプ大統領が勝った方がいいと思います。もう戦争もなくなっているわけですから、「人間性」ではなく「仕事」に注目すべきだと思います。
台湾と米国の関係は終わりか
──米国はしばらく、国内の問題に専念しなければならないという見方もあります。中国やイランなど米国の潜在敵はどのように見ているでしょうか。
酒井:傍観ではないでしょうか。中国についてはバイデン候補は関係改善させると明言しています。ただ、マネロンをやったファーウェイのCFO(最高財務責任者)を釈放するでしょうか。中国はこのあたりの対応をしっかり見ていくでしょう。台湾と米国の関係もこれで終わりになるかもしれません。
 イランについても、バイデン候補は6カ国協議に復帰すると言いました。これは、サンダース上院議員に近づきすぎて、オバマ大統領の支援を受けられないと思ったから言ったのかもしれません。その結果として、選挙直前になってオバマ前大統領が登場しました。


──選挙結果の確定に向けた、今後の展開について教えてください。
酒井:再集計をするか、それぞれの陣営が話し合いで決めるかですが、前者でしょう。時間がかかると思います。しかし、12月上旬までに雌雄を決める必要があります。ただ、長引いた場合には、形式的とはいえ選挙人が選挙する1月上旬という期限がありますので、それまでに解決するという発想ではないでしょうか。
 2000年のブッシュとゴアの再集計騒動の話に触れましたが、この時のゴア副大統領、また前回のクリントン元国務長官は、どちらも僅差の負けを潔く認めました。ここが今回の重要な相違点です。
──どういう意味ですか。
酒井:皆さんが考えるようにトランプ大統領は引き下がるつもりはないでしょう。私も、ウィスコンシンやミシガン、ジョージア、ノースカロライナの4州の動きには不自然さを感じざるを得ませんから。
 バイデン候補もそうです。彼にはゴア副大統領やクリントン元国務長官のようなエリートとしての自負がありません。デラウエア大学で成績の嘘をついたり、他人の論文を盗用したりということをやってきた人です。トランプ大統領の収入など批判していますが、自分自身もメリーランドに邸宅を構えるほどの収入を政治家として得てきたわけです。そのような人に、果たして二人のようなエリートとしてのノブレス・オブリージュがあるかどうか。
 バイデン候補は1987年以来、大統領の座をずっと狙い続けてきました。ホワイトハウスに対するなりふり構わぬ態度はこれまでにも出ています。