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安倍総理の志は死なない!!

JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問

大井川流域で圧倒的存在感、住民への影響力大
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2020年11月05日


国交省で開かれた第6回リニア有識者会議。静岡県の難波喬司副知事も出席した(国土交通省提供)
国土交通省のリニア有識者会議が10月27日に開かれ、JR東海は当日の会議テーマとかけ離れた、「大井川直下の南アルプストンネル掘削工事で大量湧水の可能性は小さい」などと説明した資料を提出した。専門家から異論、反論はまったく出ず、JR東海の主張がそのまま受け入れられた。
会議終了後の会見で、静岡新聞は有識者会議の結論にかみつき、国、JR東海へ何度も疑問を投げかけた。これまで同紙はJR東海の非公表資料を元に「大井川直下の大量湧水の懸念」を繰り返し報道、これに応える形で川勝平太静岡県知事は資料の公開を要求、“連携作戦”を展開していた。
JR東海は専門性の高い基礎データであり、住民らに不安を与えると公表を差し控えていた。有識者会議の翌日の新聞各紙の紙面を見ると、ほとんどの新聞が「中下流域の地下水への影響は極めて小さい」という有識者会議の結論を報じていたにもかかわらず、静岡新聞朝刊は「地質議論深まらず」と会議の結論を無視した。これでは流域住民の不安は解消されず、リニア問題解決の妨げになるだろう。
スクープ仕立ての記事
JR東海の言う基礎データとは、トンネル建設で大井川の流量減少を毎秒2トンと推定した調査報告資料。県から「毎秒2トン減少」の根拠を示すよう求められたため、2018年10月、地質調査、ボーリング調査結果、地表踏査や水収支解析などに使った膨大な基礎データ54冊を段ボール14箱に詰めて、県に8カ月間、貸し出した。
その中の1つが、南アルプスの地質調査データを示した大開き1枚の断面図で、注釈として数多くの「コメント」が付けられていた。
静岡新聞は、その「コメント」の一つを写真撮影、『大井川直下「大量湧水の懸念」 JRの非公表資料に明記』の1面トップ記事を9月10日付で掲載した。『JR東海の非公表資料が存在することが、9日までにわかった』と、まるでJR東海が隠していた資料を入手したかのようなスクープ仕立てとした。
記事は、大井川直下の断層について、「東俣から涵養された地下水が大量に賦存(潜在的に存在)している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」と問題視し、「大井川直下の地質を重点的に調べるボーリングの追加調査は必須」と解説した。大見出しで「大量湧水の懸念」を強調したから、流域住民らに与えたインパクトは非常に大きかった。


JR東海が静岡県に貸し出した膨大な資料。静岡新聞の記事はそのコメントのみを使った(静岡県提供)
9月23日会見で川勝知事は、この記事に触れ、「そんな事実があったのかと驚いた。(JR東海は)資料を公開していない。非常に不愉快だ」などと強く批判した。県はJR東海に一般公開するよう求めたが、10月8日にJR東海は流域住民に不安を与えるとして「公開は適当ではない」と回答した。知事は会見で「南アルプスに関わる。当然知る権利がある」などと強調、改めて公開を求めた。テレビ、新聞各社は「JR、資料公開拒否」などと伝えたから、JR東海の「流域住民に不安を与える」の真意は伝わらなかった。
10月20日に改めてJR東海は「専門知識を有する関係者による分析・議論を踏まえず単に公開すれば、不安を与えてしまう結果になる」などと丁寧に再回答したが、県は22日、国交省に公開を指導するよう求めていた。
難波副知事は資料の性格を承知しているはずだが…
10月2日付の筆者記事(静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ)で、県はJR東海から資料を借りてデータ化していたのだから、知事はじめ県関係者は資料の内容を十分に承知していたことなどを詳しく紹介した。
地質調査会社は地質図や地形判読、現地踏査などで断層を見て、すべての可能性を指摘するのが仕事であり、成果物は専門家によって分析・議論が行われていない生の基礎データ。JR東海の基礎データを元に、2018年11月21日、県は専門部会を開催、この席でもさまざまな意見が出ている。責任者の難波喬司副知事はこの会議でホワイトボードに問題のコメント付きの断面図が貼ってあったことを認めているから、資料の性格がどのようなものか十分に理解していたはずだ。
ところが、静岡新聞は”スクープ記事”を基に、再三再四にわたって、「大量湧水の懸念」を強調、さらに「県はJRに資料の一般公開を求めている」と報道した。JR東海が何度も専門性の高い基礎データであると説明しても、同紙や県は耳を貸さなかった。難波副知事は同資料が膨大な基礎データの1つであり、その中の「コメント」がどのような性質を持つのかも十分、承知していたのにも関わらず、JR東海にひたすら「一般公開」を求めていた。
「第三者への譲渡及び提供をしない」などの条件で、JR東海は資料を県に貸し出しているのだから、当然、県は静岡新聞へ基礎データの資料が渡った経緯を調べる責任がある。JR東海は県に確認するよう求めたが、県は「承知していない」と回答した。同紙の報道はとどまるどころか、流域の利水団体を巻き込む大騒ぎに発展していた。
このような静岡県の大騒ぎをJR東海は放っておかなかった。第4回有識者会議で委員の一人が、南アルプストンネルの断層に触れたことで、大井川直下の断層をあえて説明資料に加えることにしたのだろう。
10月27日、JR東海が有識者会議に提出した「県境付近の断層帯におけるトンネルの掘り方・トンネル湧水への対応(素案)」という54ページに及ぶ資料の最後に、南アルプス断面図が掲載され、静岡新聞が記事にした大井川の直下にある断層を示し、「コメント」を赤枠で囲んだ。
JR東海は「大井川直下の断層についてはボーリング調査で幅3m程度の小規模な区間で湧水量も少なく、大量湧水の可能性は小さい」などと説明した。有識者会議はJR東海の説明に納得した。
ところが、会議後の会見で静岡新聞は異論を唱えた。再三にわたる記者の質問に、JR東海は「地質調査会社は考えられる可能性をすべて挙げた。可能性はゼロとは言えないが、可能性は小さいと判断した」などボーリング調査結果を基に詳しく説明したが、記者は不満を表明した。
大井川流域のシェアは80%
翌日の同紙朝刊は1面で、「大量湧水の可能性を否定しなかった」「JRは県の有識者会議で今回の見解を早期に説明し、議論することには難色を示した」「この個所で詳細な地質を調べるボーリング調査や地下水の分布を把握する電気探査の予定もないとした」などと伝えた。読者は有識者会議の結論ではなく、記者の異論や意見を読んだことになる。これはあまりにも危険なことである。
静岡新聞の発行部数は60万部弱であり、県内シェアは60%超だが、静岡市および大井川流域の市町に限れば、80%近くに上る。いくら新聞離れといっても、新聞への信頼度は高いから、同紙の記事を鵜呑みにしてしまうだろう。
そもそも、この日の会議テーマは中下流域の地下水への影響であり、同紙を除くすべての新聞が「中下流域への影響は極めて小さい」と報道している。同紙のみ会議テーマを伝えていない。
南アルプスは世界最大級の断層地帯とされるリニアトンネル工事の最難関地域。数多くの断層があり、地質会社の調査でそのすべてに「懸念する」「要注意」などのコメントがつけられた。科学的、工学的にすべてがわかれば最善だが、地質学者によって、見解は大きく異なる場合のほうが多い。大井川直下の断層の場合、JR東海の説明に有識者会議の見解は一致しているのだから、そのまま結論を受け入れるのが科学的、工学的な姿勢なのだろう。
静岡新聞記者は会議の結論に異議を唱え、独自の視点で記事を作ってしまった。このような歪められた報道を誘導した静岡県の責任はあまりに大きい。川勝知事は「(リニア問題で)国論を巻き起こす」と宣言したが、恣意的な報道に便乗していると、逆に世論の厳しい批判を受けるだろう。