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旧日本軍を徹底研究、中国の失敗しない太平洋戦略

軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム


2020/11/05 06:00


© JBpress 提供 南太平洋の美しい島々が毎年少しずつ中国の手中に収まりつつある(写真はバヌアツの港)
 2020年2月に、中国海軍駆逐艦などの4隻が、太平洋の日付変更線を超え、41日間、1万4000海里を航海した。
 解放軍報は、今回の行動を「米国覇権への挑戦であり、今後回数を増やしていく」と伝えた。
 同グループがグアム西方約380海里の海域で、偵察飛行中の米海軍「P-8」哨戒機にレーザー照射を行ったことに、米国防省は、危険行為であると中国側に抗議した。
 平時において、米中間の軍事的な鍔迫り合いが、南シナ海を超え、西太平洋にまで広がっていることを示す事件であった。
米・豪・英・仏との衝突の兆し
 中国は、南太平洋に広域にわたって点在している多数の島嶼(トウショ)国家と外交関係を結び、台湾とそれらの国家との国交を終わらせた。
 そして、多くの中国人を移住させ、経済的支援という“罠”を仕掛け、返済できないほどの大きな債務を負わせた。その見返りに軍港として使用できる港を建設しようとしている。
 ほとんどが10万~20万人規模の国家である。
 その中に、多くの中国人が移住して来れば、国ごと乗っ取られるという脅威となる。さらに、これらの動きに中国軍海軍艦艇が連携して、活動を活発化させている。
 つまり、中国の民間レベルの工作を、軍が背後から支えて、暗黙の睨みを利かせているのだ。
 中国は、これらの島嶼国家に進出し、領域を逐次拡大して、軍事的拠点として利用することを企図しているようだ。
 その理由には、米軍と対峙する中国のA2/AD(接近距離・領域阻止)戦略に含まれる第2列島線内における領域拒否を実行するために、南太平洋島嶼国家に、中国の軍事拠点を構築する必要があるのだ。
 また、台湾への侵攻の際、米軍の介入を妨害するためにも、必要なエリアとなっている。
 そして、この戦略は、かつての旧日本軍が進めた南方進出戦略とも似ている。
 だが、中国のやり方は、国家をも乗っ取ってしまうあくどいものだ。
 島嶼国家が中国に取られてしまえば、南シナ海と同様に、中国の海になってしまう。そうなれば、中国軍が南太平洋の島々を拠点に、西太平洋を自由に暴れまくることが可能になる。
 米軍基地が存在するグアムやハワイが、背後から脅威を受ける。オーストラリアの防衛にも直接深刻な影響が出てくる。
 また、軍事的な観点から見れば、中国の出方にもよるが、何らかの衝突が生起することはあり得るであろう。
 今後、米中による島嶼争奪戦略と米中衝突を読むには、以下の4点を考察することが必要である。
①かつて旧日本軍と米軍が南太平洋上で戦った戦史とその教訓。
②南太平洋島嶼国家の軍事的重要性。
③南太平洋島嶼国家の米中による争奪戦略の分析。
④長中期的に見て、米中はどのような衝突が生起する可能性があるか。
太平洋戦争を徹底研究
 太平洋戦争において、日本と米国は、西および南太平洋の諸島とその周辺で激しい戦いを繰り広げた。
 この大戦で、日本が喪失した空母を含む1等巡洋艦以上の艦艇51隻のうち、航空機によるものが28隻、潜水艦によるものが13隻であった。
 それに対し、艦艇によるものは7隻にしか過ぎなかった。
 航空機および潜水艦により撃沈された割合は約80%にも上ったのである。日本帝国海軍が想定していた「艦隊決戦」はほとんど生起しなかった。
 皮肉にも空母を集中運用し、大規模な航空兵力投射を行うことの有用性は、真珠湾攻撃で日本が実証したものであった。
 さらには、マレー沖海戦で英国の戦艦2隻を航空攻撃のみで撃沈したことも、海戦史上初めてのことであった。
 旧日本帝国海軍はこれだけの成果を上げながら、その教訓を生かすことができなかったのだ。
 戦い方の変化に柔軟に対応できない国は、戦争に勝てないということを如実に示すものである。
 現在、最強を誇っている米海軍空母機動部隊でさえも、新たに生起する戦争を予想して、これに対応できなければ、今後とも最強である保証はない。
 太平洋は極めて広範な海域であり、同海域における戦闘様相は、南シナ海や東シナ海における戦闘様相と大きく異なるものと考えられる。
 今後、米中間の太平洋における軋轢が高まるにつれ、最悪事態には、実際に干戈を交えることも否定できない。
 この大戦における日米の戦いを分析することは、将来の米中間の太平洋における戦いの様相を見積もる上で有用であろう。


島嶼国家の占有とその軍事拠点化
 先の太平洋における日米の戦いは、島嶼周辺の戦いおよび島嶼そのものの争奪戦に集約された。
 現在、太平洋島嶼国家は、国土や人口も少なく、それぞれの島が孤立しており、観光を除き産業を興しづらいという特徴がある。
 だが、中国が太平洋に進出を企てている現在、米中間の広範な海域に点在する地理的環境であるからこそ、軍事戦略的価値は極めて高い。
 第1次世界大戦後の国際秩序を構築するために1921年から行われたワシントン会議は、米英日の主力艦保有割合を5:5:3の比率とした海軍軍縮会議として名高い。
 しかしながら米国にとっては、日英同盟の破棄、および太平洋諸島における軍備制限を定めた日英米仏の四カ国条約の方が、戦略的には重要であった。
 第1次世界大戦後に日本の委任統治となった太平洋諸島の要塞化を防げたことは、米国にとって、ハワイと当時植民地であったフィリピンの間で日本海軍が跳梁するという事態を避けることができたということである。
 日本が正式にワシントン体制からの離脱を宣言したのは1938年であり、1941年の開戦までの3年間では、太平洋諸島の軍事化のための時間が十分ではなかった。
 日本が委任統治していた島嶼に、滑走路を含む軍事基地を建設し、それぞれのネットワークを完成させていれば、空母を含む米海軍艦艇の西および南太平洋における活動を把握することができ、有利に戦争を遂行することができたであろう。
 日本の敗戦はミッドウェー海戦において4隻の空母を一挙に失ったこともあるが、西、南太平洋において、占領していた島嶼が孤立し各個撃破されたことも大きな要因となっている。


旧日本軍の南方進出と中国軍の南太平洋進出予想

© JBpress 提供 出典:筆者作成
 当時の日米の国力差を見れば、長期戦となれば日本に勝ち目のないことは当然である。
 しかしながら、日本が太平洋諸島に航空兵力を展開、濃密な監視体制を敷き、情報を共有することができたならば、もう少し戦闘様相は変わっていたのではないかと考えられる。
 つまり、中国は、この戦史を教訓に、南太平洋島嶼国家の軍事的重要性を十分認識していると見ていい。


米中による島嶼国家の争奪戦略
(1)南太平洋への中国の進出戦略
 バヌアツ、フィジー、サモアおよびトンガなどは、中国からインフラ開発のため多額の投資を受け入れたものの、今ではその債務に苦しんでいる。
 昨年、大洋州諸国の2カ国、キリバスおよびソロモン諸島が台湾と断交、中国と国交を結んだ。
 豪州の報道では、ソロモンのツラギ島全域とその周辺地域を中国政府に近い企業が75年間租借する交渉が進んでいるという。
 ほかにも、中国とバヌアツの両国とも否定しているが、豪州に近いバヌアツに軍事基地が建設されるという情報がある。
 中国がこれらの国々と国交を樹立して、多額の資金援助を行っているのは、台湾を承認する国を減らすこと、もう一つは、軍事基地を建設して平時から中国軍の外洋進出のための兵站支援を行えるようにするためだ。
 将来、米軍と交戦することになれば、海軍艦艇や空軍機を展開する軍事基地をして使うのではないかと、懸念されるのである。
 なぜ、中国海軍は、西太平洋に展開するために、南太平洋島嶼国家に軍事基地が必要なのか。
 2020年4月に、中国空母『遼寧』が沖縄と宮古島間を通過し、南シナ海で約2週間行動した後、同じルートで帰投した。
 しかしながら、空母『遼寧』の行動海域は南シナ海が中心であり、西太平洋まで進出した活動はわずかである。
 ルーヤン級駆逐艦を中心にジャンカイ級フリゲート艦2隻、補給艦1隻による組み合わせのグループの西太平洋における活動が最も多い。
 これらの艦艇の戦闘能力を見ると、ディーゼル機関は燃料使用量が少なく、補給艦を随版する本艦隊の行動半径は極めて広大である。
 また、各艦艇の戦闘能力は、長距離対艦ミサイルを装備していることも特徴としてあげられる。
 だが、一方で対艦ミサイルのターゲティング(射撃目標標定)には搭載ヘリしか方法がなく、さらには長中距離「SAM」、「SSM」および巡航ミサイル兼用の発射セル数が64基しかないことは大きな制約事項である。
 たった5隻ほどからなる『遼寧』空母機動グループや駆逐艦グループが、中国本土から空軍戦闘機の支援が得られない西太平洋で米空母打撃群と対戦すれば、簡単にひねりつぶされると見るのが妥当であろう。
 南太平洋上空では、中国本土から戦闘機の航空支援を全く得られない空域だ。
 戦闘機の掩護が得られなければ、艦艇は、空からの攻撃には無力だからだ。そのために、中国が使用できる空海軍基地が必要になるのだ。
 これらの島嶼国家に中国が肩入れする理由は、これら島嶼に軍用の港湾や滑走路を建設し、防空火器などを配置して要塞化し、不沈空母や海空軍補給基地、洋上監視基地として使用する必要があるのだ。


中国最新戦闘機「Su-27」の戦闘行動半径

© JBpress 提供 現状と南太平洋に進出した場合(出典:筆者作成)
(2)南太平洋における米海軍の展開戦略
 一方、これらに対し、米軍も軍事的プレゼンスを拡大しつつある。
 米国は、豪州ダーウィンの海兵隊施設の充実を図るとともに、米豪共同でパプアニューギニアのマヌス島に基地を建設する計画がある。
 また、2020年8月に米国防長官として初めてパラオを訪問したマイク・エスパー国防長官に対し、パラオ大統領は米軍の駐留や海兵隊の展開を要望した。
 大洋州諸国に対する米中の角逐が激化しつつあり、これに対し、伝統的に南太平洋諸国に対する影響力確保を目指す豪州が米国を支援する状況となっている。
 米太平洋軍は2020年9月に約10日間グアムおよびマリアナ諸島において「Valiant Shield」演習を実施した。
 同演習はRIMPACなどと異なり、米軍のみで演習を行い、兵力投射能力を確認、同盟国やパートナー諸国に米国の能力を示すことを目的とするものだ。
 2006年から隔年で行われており、今年で8回目となる。レーガン空母機動部隊、アメリカ強襲揚陸部隊を含め、航空機約100機と人員1万1000人が参加した。
 さらに注目されるのは、米陸軍が中心となって行われた「Defender Pacific 2020」である。
 同訓練において陸軍現役兵、予備役および州兵からなる「Task Force Oceania」の編成は、パラオおよびオセアニアの大洋州諸国において継続的なプレゼンスを示し、現地の大使館を支援することを目的とするとされている。
 パラオにおいては、アンガウル島の飛行場を整備し、大型輸送機「C-130」により兵員を輸送するとともに、陸軍の輸送船により2両の「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」を陸揚げした。
 このシステムには、射程32キロの「M26」ロケットなら6発、射程165キロの「ATACMS」であれば1発を設置可能である。
 米陸軍は地上からの対艦ミサイル攻撃能力を強化しつつある。
 2018年に行われたRIMPAC2018において、退役した輸送艦を目標に、陸上自衛隊が12式対艦ミサイルを、米陸軍が「Naval Strike Missile」を発射する訓練を行った。
 米・英・仏が統治する島嶼に、現有よりも射程の長い対艦ミサイルを必要に応じて展開する体制を整えることができれば、グアムに配備している無人偵察機などによる洋上監視能力と組み合わせることにより、第2列島線内を行動する中国艦艇に対する強力な抑止力となる。


中国の南太平洋侵出をくい止めよ
 中国の習近平国家主席が、「南シナ海を軍事利用しない」と明確に言っておきながら、実際には、人工島を建設し、軍事基地化を進めている。
 2020年の7月には、戦闘機などを西沙諸島に展開。8月には日中国軍が南シナ海に向けて、「DF-21D」と「DF-26B」対艦弾道ミサイル4発を発射した。
 数千キロ離れた海上を移動する艦艇に、対艦弾道ミサイルを発射すれば命中させられるのかという課題がある。
 命中させるには、正確な目標標定(ターゲティング)が必要だが、南シナ海に展開する偵察機やレーダーが、この役割を果たしている。
 これらの動きの始まりは、九段線という境界線を設定してから20年を過ぎ、1974年に西沙諸島を軍事力で占拠してからであった。
 境界線を勝手に設定して、軍事基地にするまで約70年、軍事行動を起こして50年の歳月を使い、関係する隣国の政治的な空白をついて、気づかれないほどの小さな行動を積み重ねて侵攻を進め、占拠して、軍事基地を建設している。
 これは、サラミを薄く切っていくことを重ね、大半がなくなってから、やっとそれに気づくという長期にわたる戦略だ。
 また、見破られそうになれば「うそ」をついて騙す。これが、中国が得意とするサラミスライス戦略だ。
 東シナ海や南シナ海が中国の海と化しつつある事実を押しとどめ、阻止しなければならない。
 今、マイク・ポンペオ米国務長官は、2020年7月に南シナ海での中国の海洋権益に関する主張は完全に違法であるとの見解を示した。
 従来から中国の九段線を不当と批判、「航行の自由作戦」により、不当性を行動で示してきたが、中国の主張そのものを違法と公言したのは初めてであった。
 今後危惧されるのは、中国が南シナ海で長い年月をかけて実行してきたサラミ戦術を、大洋州諸国で行うのではないかという点である。
 事実、台湾と断交し中国と国交を結んだキリバスやソロモンでは、中国から大型の経済協力が行われている。
 バヌアツでは中国の無償援助で港湾施設や首相府庁舎等が整備されたが、その一つである大型会議場は維持するための予算がなく、電気代すら払えない状況と報道されている。
 無償とはいえ、これらを維持するためにさらに中国に依存、「債務の罠」に陥る危険性が大である。
 米国はミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国及びパラオと「自由連合条約」を締結している。
 これは国家としての独立を承認し、かつ経済援助を与える代わりに安全保障は米国が統括するというものである。
 冷戦終結後、米国にとってこれらの国々に経済援助を行う必要性が低下したが、中国海軍の太平洋における活動の活発化から、本条約の役割が見直されつつある。
 南シナ海における中国の人工島建設を黙認したがために、今日のような南シナ海の中国化を招いた。この教訓を生かし、大洋州諸国に対する中国の進出を抑える手段として、本条約の果たすべき役割は大きい。
 かつて習近平主席は「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」とドナルド・トランプ大統領に発言したと伝えられている。
 この発言の既成事実化を防ぐためにも中国の大洋州諸国への政治的、経済的、そして軍事的進出を、周辺諸国だけではなく、世界がこの地域における動向を注視するなどして、食い止める必要がある。