Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「トランプ敗北」が台湾人を失望させた深刻な理由

混乱を深めるアメリカ大統領選挙は、不透明な投票方式や開票作業、トランプ大統領の不正投票への追及姿勢などで簡単には収拾がつきそうにはない。この混乱は、「敗北宣言」のない法廷闘争へ移行するのだろうか。それはアメリカの分断、そしてさらなる世界の惨事惨禍を呼ぶ可能性すらある。その大きなあおりを受けそうなのが「台湾」だ。台湾が今回のアメリカ大統領選をどのように見ていたのかをレポートしたい。(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司代表 藤 重太)
台湾人の多くが
トランプを支持する理由
 台湾時間11月4日20時頃、アメリカ大統領選挙の開票が進む中で確定票はバイデン候補がトランプ大統領を抑えていたが、残りの優勢地域の票を足すとトランプ大統領の勝利が見えていた。その時点では、台湾は活気に沸いていた。
 台湾の友人からは、「これで世界も台湾も安泰だ」との歓喜の電話が掛かってくるほどだった。中には、「バイデンが大統領になったら家族を守るために共産党に入党しようかと思っていたよ」と悪い冗談を言う友人もいたくらいだ。
 しかし、翌日には赤い州が青い州に変わり様相は一変してしまった。
 台湾人にとってはアメリカ大統領選挙の結果は、そのまま台湾の存続に直結しかねない。単刀直入に言えば、トランプ大統領再選ならこのまま対中包囲網をアメリカと共同で進めていける。しかし、バイデン候補当選ならその構想が瓦解(がかい)して、すぐにでも中国の台湾侵攻の可能性大の事態に陥ると考えている台湾人も多くいた。バイデンが副大統領だったオバマ政権の苦い経験を覚えているからだ。
 当時のオバマ政権は、弱腰外交で中国にも気を使い「一つの中国」を尊重していた。事あるごとに、中国寄りの政策が目立っていた。「台湾関係法」の存在と米議会の圧力により、台湾に武器を売却したのはオバマ政権の8年間でわずか4回。一方、トランプ大統領はこの4年間で10回、F16戦闘機を含む非常に戦略性の高い武器を台湾に売却している。
 また、オバマ前大統領は任期満了前の演説で「一つの中国、現状維持を台湾人は望んでいる」と台湾独立派とトランプ大統領にくぎまで刺して引退している。
 これに対し、トランプ大統領は台米の高官の往来や交流を促す「台湾旅行法」(2018年3月)や台湾を世界から孤立させないための「TAIPEI法」(2020年3月)なども成立させている。
 それゆえにアメリカ大統領選挙への台湾人の関心は非常に高く、筆者の周りの少なからぬ人たちが、トランプ大統領やバイデン候補やそのブレーンらの発言、発表をライブで聞いたり原文を読んだりして、綿密な分析を行っていた。
 その中で筆者が信頼する筋から聞き、注目したのは下記の5つだった。
(1) トランプ陣営は、メディア操作の疑いが濃厚だった台湾選挙の経験やオーストラリアの政治家懐柔および政治介入事件などから、中国の選挙介入に警戒している、また、郵便投票での不正を早くから訴えていた。
(2) バイデンファミリーと中国最大のエネルギー企業である中国華信能源との関係や不透明な取引もある程度把握しているはずだ。
(3) トランプは集会において、今回のアメリカ大統領選挙はアメリカと中国の戦いだと認識し、アメリカ国民に訴えている。
(4) バイデン自身が失言や問題行動を繰り返していて、民主党の大統領候補としての資質が問われている。
(5) 選挙戦における共和党の盛り上がりを見ると、バイデン有利の予想は大きく外れる可能性がある。キャンペーングッズの売り上げも、トランプ大統領がバイデン候補を圧倒していた。これは、2016年と同じ傾向だ。
 このような話を聞いたこともあり、筆者自身、「トランプ圧勝」を確信していたが、その予想は見事に外れることになった。
台湾の総統選挙は
大統領選挙の前哨戦
 台湾の新興政党「台湾基進党」の党首である陳奕齊(YC Shinichi Chen)氏は2019年10月、台湾台南で筆者が主催した講演で、「2020年1月の台湾総統選挙は、アメリカ大統領選挙の前哨戦だ」と語った。
「2018年の台湾統一地方選挙の民進党の敗北で、中国共産党の脅威はすぐそこまで迫っている。実際、選挙後の2018年12月の講話で習近平は『両海峡関係の発展におけるイニシアチブとリーダーシップをしっかりと掌握した』と語り、台湾の選挙介入への自信をのぞかせている。中国共産党は2019年春から香港の支配を強化し、2020年1月の台湾総統選挙では中国と関係が深い国民党の韓国瑜候補の勝利で台湾統一を進め、そして11月のアメリカ大統領選挙で中国共産党と歩調を合わせやすい民主党の勝利で民主主義の瓦解を狙っている。それを阻止できなければ、自由民主主義国家は終わる」とすさまじい形相で語っていたのを覚えている。
 さらに陳党首は、「2020年は、民主主義が勝つか、共産主義が勝つかを決する天王山。その初戦が台湾の総統選挙であり、最終決戦がアメリカ大統領選だ。もし最終決戦に負ければ台湾だけでなく日本も危ない。だから日本には世界第3位の経済大国としてふさわしい正しい振る舞いをしてほしい」と力強く訴えていた。
 そして、台湾で2020年1月12日に行われた総統選挙では蔡英文総統が見事に再選を果たした。また「台湾基進党」も陳柏惟候補が台中の絶対優位の国民党前職を破って、立法委員(国会議員)の議席を1つ獲得している。現在「台湾基進党」は「中華民国大政奉還、台湾新国家の完成」を掲げて人気を集めている。
蔡英文総統は
国民に冷静さ訴え
 Newsweek誌は大統領選挙の当確270議席獲得の一報が出る前の11月5日、『台湾総統が米大統領選で異例の声明「トランプ敗北でも冷静に」(Taiwan President Urges Calm As Pro-Trump Citizens Panic Amid Biden Vote Surge)』と報道した。
 記事は台湾の動揺を伝えるとともに、蔡英文総統の談話として「台湾は米政府、上下両院、二大政党、さらにアメリカのシンクタンクや市民団体と常に緊密な関係を維持している」と紹介した。
 また、蔡英文総統は自らのSNSでも「台湾海峡の情勢注視と国内政経環境の維持」「アメリカの民意は台湾支持にあると信じている」など、冷静にアメリカ大統領選挙を見守るように訴えている。
 前出の台湾基進党の陳奕齊党首は11月7日夜、筆者とのWEBインタビューで次のように語った。
「台湾やアメリカのマスコミの多くがバイデン優勢を唱えていても、私はトランプの再選を信じていた。候補者は熱狂に近いブームを作らなくては、有権者に投票行動をさせることはできない。バイデン候補は、コロナ禍で活動を自粛しその熱量を作れたとは思えない。一方自らコロナに感染しても支援者の熱量を保ち続けたのはトランプ大統領側だった。トランプが敗北した今、私は『亡国感』を超え『亡球感(地球・世界がなくなってしまう感じ)』に襲われている。後はアメリカの正義と理性に期待するしかない」と語った。
 台湾在住の日本の友人は、「トランプが敗北を認めるべきかどうかについて、多くの台湾人は黙して語らない。だが、逆にそれが事の重大さを感じさせる」と話す。軽々に評論などしてはいられない。台湾の命運の一端がアメリカ大統領選挙の最終決定にかかっているのだ。台湾人の中では、いまだアメリカ大統領選挙は終わっていないようだ。
 いずれにせよ、台湾人は国際政治への関心や危機感が、日本人よりもはるかに高く、いろいろと学ばされる。そして、こうした意識の高さこそが、台湾へのコロナ流入を防いだ要因のひとつでもあったといえるのではないだろうか。