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静岡リニア「非公表資料」県は守秘義務違反か

非公表資料を県はJR東海に無断で公表したのか
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2020年11月17日
静岡新聞は9月10日に「大井川直下『大量湧水の懸念』 JRの非公表資料に明記」という記事を1面トップで報じた。その後も、「大量湧水の懸念」と「非公表資料の公開」を繰り返し報道した。10月27日に行われた国土交通省リニア有識者会議の翌日の朝刊でも静岡新聞は「地質議論深まらず」と独自の論調を展開。県もその報道を追認している。
しかし、問題は「非公表資料」を誰が静岡新聞にリークしたかだ。この資料は第三者に譲渡・提供はしないという条件でJR東海が県に貸し出したものだ。事の経緯は2020年10月2日付記事(静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ)で詳細に説明しているが、筆者が改めて「非公表資料」を誰がリークしたか県に問い合わせたところ、難波喬司副知事は「全面公開されていたから、新聞報道されることは何ら問題ない」という見解を明らかにした。非公表資料のはずが、全面公開された資料にすりかわってしまった。
第三者に譲渡・提供しないはずの資料
そもそもの発端は2018年10月だ。JR東海は県から「毎秒2トン減少」の根拠を示すよう求められたため、地質調査、ボーリング調査結果や水収支解析などに使った膨大な基礎データ54冊を県に貸し出した。その中の1つが、南アルプスの地質調査データを示した大開き1枚の断面図で、注釈として数多くの「コメント」が付けられていた。静岡新聞は、その「コメント」の1つを写真撮影、9月10日付記事に掲載した。
基礎データ資料を貸し出すに際して、JR東海は借用書を求めた。県の担当課長は、目的を「リニア工事に伴う大井川の河川流量減少量を毎秒2㎥と試算した根拠等を確認するために使用する」、使用範囲を「県職員及び県専門部会委員、専門部会を運営補助する業者に限定」、期間を1カ月としたうえで、「借用した資料は目的以外に使用しない」、「借用した資料は第三者への譲渡及び提供はしない」、「目的が完了した際には速やかに返却する」という3つの条件を遵守するとした借用書をJRの静岡工事事務所所長宛に提出した。
JR東海は9月30日、静岡新聞に基礎データ資料の「コメント」が掲載されたことを重く見て、3条件などを遵守する約束を踏まえて、「資料及び借用書」が静岡新聞に掲載された経緯について確認して回答するよう県に求めた。
県は10月2日、JR東海の「資料及び借用書」が静岡新聞に掲載された経緯について「承知していない」と2人の担当課長名で回答した。一方、10月27日のリニア有識者会議の終了後、宇野護JR東海副社長は「資料はJR側から提供されたものではない」と改めて県関係者からのリークを示唆した。
このため、筆者は県の担当課長に、県が借用した資料が新聞に掲載されたのだから、公文書管理の問題として、改めて調査すべきと申し入れた。
この申し入れに対して、県のリニア問題責任者、難波副知事が10月30日に「新聞報道により掲載された資料の公開についての県の見解」という文書を公表した。
副知事の文書によれば、「本資料は2018年11月21日に全面公開で開催された県の会議で誰もが見えることができる状態で、ホワイトボートに掲載された。全面公開の会議の場で一時的に公開された資料であることから、この資料が報道されることに何ら問題はない」との見解が示された。
この説明は新聞掲載はホワイトボードの資料を写真撮影したことを示唆しており、県関係者からリークしたものではないと受け取れる。
無理がある副知事の説明
9月10日付1面トップ記事で「JR非公表資料」を伝えた静岡新聞は翌日(11日)朝刊で、「非公表資料は県の関係者に閲覧は限られた」などとしており、ホワイトボードで掲示されたことについては一言も触れていない。もし、ホワイトボードに掲示された資料を写真撮影したならば、それは「非公表資料」ではなく「公表資料」であり、その後、紙面でたびたび「公表」を求めることもない。その意味では、ホワイトボートの資料を写真撮影したという説明には無理がある。
しかし、実は「非公表資料」が一般公開の場で誰もが写真撮影できる状態にあったことが問題なのだ。
この資料について、当時の担当課長が実名で「JRの担当者から、外部に公表しないでもらいたいのでサインがほしい、と求められた」、「資料の所有者はJRなので、条件をのむしかなかった」と同紙にコメントを寄せている。少なくとも、担当課長は「外部に公表しない」ことを承知していた。
2018年11月21日の会議に、JR関係者は出席を求められていない。JR東海に確認したが、ホワイトボードへの掲示について県からの意見照会もなく、まったく承知していなかったのだという。資料をホワイトボートに全面公開したことは、JR東海の許可を取らずに、県が無断で行ったことになる。
県は「借用書」で目的、使用範囲、条件を遵守することを約束したにもかかわらず、JR東海との約束を破り、誰もが写真撮影できるような場所に掲示して「全面公開」したことになる。県担当者及び責任者は、地方公務員法第33条(信用失墜行為)、同34条(守秘義務)違反を免れない。もし、罪に問われれば、34条違反は懲役1年以下又は50万円以下の罰金という罰則が科せられる。
副知事はなぜ、非公表資料を「全面公開」と発表したのか?
考えられるのは、「大井川直下の断層」問題を有識者会議の結論で終わりにしたくないからだろう。県リニア担当理事も近く、県専門部会を開き、改めて「大井川直下の断層」について議論する意向を明らかにしている。
JR東海の資料データを県から提供され、「大井川直下の断層」が問題と指摘してきた塩坂邦雄・県専門部会委員は「リークしたのは自分ではなく、2018年11月の会議でホワイトボードに掲示されていた資料を記者が写真撮影したのではないか」と副知事と同じ説明をした。塩坂委員に、県専門部会で「大井川直下の断層」の疑問を主張してもらうために、副知事は県担当者が守秘義務違反に問われても仕方ないと考えたのかもしれない。
流域市民が工事差し止め訴訟
大井川流域の市民らが10月30日、JR東海に対して、リニア静岡工区の工事差し止め訴訟を静岡地裁に起こした。
請求原因は、ほとんど静岡県の主張に沿ったものである。訴状には、9月10日付静岡新聞報道を取り上げて、「専門家が指摘してきた大井川直下の褶曲地層に大量の水が貯留していることを知りながら、その事実を有識者会議にも専門家会議にも報告せず、(JR東海が)隠ぺいしてきたことが明らかになった」と記されている。これだけ事実を歪曲されれば、県民の不安は解消されないだろう。
同紙記事に「JR東海が隠ぺいした」とは書かれていないが、同紙の報道による影響を見れば、JR東海があまりに大きな不利益を被ったことは確かである。