Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

菅政権とパソナ 規制緩和という名の利益誘導が進むカラクリ

 菅政権の「新自由主義政策」のブレーンとされるのが、人材派遣大手パソナグループ会長の竹中平蔵氏である。だが、菅氏と竹中氏の関係は、通常の政治家とブレーンの関係とは趣が異なる。竹中氏が小泉内閣で総務大臣を担当していたころ、菅氏は副大臣として仕える身だった。つまり、主従関係が逆だったのだ。ノンフィクション作家の森功氏がレポートする。(文中敬称略)
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(郵政民営化を通じて)菅を表舞台に引き上げた竹中平蔵は、もともと小泉純一郎政権時代、首相の諮問機関「経済財政諮問会議」に出席していたオリックス会長の宮内義彦とともに、郵政民営化やIT改革に取り組み、数々の規制緩和政策を推し進めてきた。これが格差社会を産む新自由主義だと非難され、旧民主党の鳩山由紀夫政権で見直された。鳩山内閣は新たに国家戦略室を設置し、経済財政諮問会議は、事実上活動を停止する。
 そこから2012年12月、第二次安倍政権誕生により、経済財政諮問会議が復活する。そこで官房長官に就いた菅は、メンバーに竹中の起用を提案した。だが、それに財務大臣兼副総理の麻生太郎が異を唱えた。
 結果、前首相の安倍晋三は新たに産業競争力会議という有識者会議を設置し、そこに竹中を委員として起用した。安倍が菅に配慮した形だ。ちなみに楽天の三木谷浩史が産業競争力会議の民間委員として医薬品のネット販売をぶち上げ、頓挫したのは前号(『週刊ポスト』2020年11月20日号)で書いた通りだ。
 産業競争力会議は経済財政諮問会議より格下だが、安倍前政権の経済政策では、むしろこっちの主張が目立つようになる。それは菅・竹中の連携によるところが大きい。「働き方改革」と名付けた労働の自由化をはじめ、空港や水道の民営化をぶち上げていった。それらは菅と竹中がタッグを組んで進めようとした政策にほかならない。
 現在、東洋大学国際地域学部教授、グローバル・イノベーション学研究センター長の肩書を持つ竹中は、人材派遣大手「パソナグループ」の取締役会長であり、金融コングロマリット「オリックス」や「SBIホールディングス」の社外取締役でもある。人材派遣会社の会長が、残業代タダ法案と酷評されたホワイトカラーエグゼンプションや派遣労働の枠を広げ、今なおデジタル庁構想を後押しする。デジタル庁構想の基幹政策であるマイナンバーカードの普及は、パソナのビジネスにもなっている。
 また竹中が社外取締役となったオリックスは2015年、空港民営化事業に進出。国や地方自治体が施設を所有したまま、利用料金を徴収する「コンセッション方式」なる新たな民営化事業で、その第一号空港が関空(関西国際空港)と伊丹(大阪国際空港)だ。
 空港のコンセッション事業を授けた経営コンサルタントの福田隆之は、竹中の知恵袋であり、2018年まで菅官房長官補佐官を務めた。空港を手掛けたあと、コンセッション方式による水道の民営化を進めようとしたが、仏業者との蜜月関係を指摘する怪文書騒動に発展し、官房長官補佐官を追われるように辞任する(*)。
【*改正水道法の審議中、福田氏が視察先のフランスで水メジャーから接待を受けていたのではないかという怪文書が出回り、野党が追及しようとする中で官房長官補佐官を辞任した】
 福田はその後、竹中がセンター長を務める東洋大のグローバル・イノベーション研究センターに客員研究員として招かれ、今も竹中のブレーンとして奔走していると聞く。
 産業競争力会議は安倍前政権の途中、未来投資会議と名称を改めるが、実態は変わらない。菅自身は自らの政権をスタートすると、その未来投資会議を「成長戦略会議」と改め、ここに竹中をはじめとした経済ブレーンを据えた。インバウンド政策を提唱したデービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)も成長戦略会議に加わっている。
 菅政権ではここにブレーンたちが集結し、規制緩和という名の利益誘導政策を授けている。
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2016年に『総理の影 菅義偉の正体』を上梓。他の著書に『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝 ヤフーを作った男』など。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号