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コロナ第3波に無策の菅政権、 今こそ実現すべき安倍前首相の「遺言」

上久保誠人


2020/11/27 06:00


新型コロナウイルスの感染が再拡大し、「第3波」を迎えている。菅政権は「Go Toトラベル」の見直しなどが出遅れ、国民の不安も高まる一方だ。しかし、安倍前首相が辞める直前に触れた「遺言」ともいえる策を実行していれば、今の混乱は避けられたのではないか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
「第3波」到来、無策で迷走する菅政権
 菅義偉首相は、観光支援事業「Go Toトラベル」に関し、感染が広がっている地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止することを明らかにした。全国の1日当たりの新型コロナウイルス新規感染者数は急速に増え、感染症の専門家らの「分科会」が「Go Toトラベル」の見直しを提言していた(20年11月24日現在)。
「第3波」と呼ばれる感染拡大は、20代、30代が多かった真夏の「第2波」と違い、重症化する可能性が高い高齢者・基礎疾患がある人への感染が広がっている。家庭内感染や、介護施設、医療機関での感染が増加しているという。特に、高齢の感染者は宿泊療養施設に入ってもらうわけにはいかないため、入院患者が増加し、再び「医療崩壊」が懸念される状況だ。
 この真夏の「第2波」が過ぎ去ってから「第3波」到来までの菅政権、地方自治体の対応は、「無策」と断ぜざるを得ないものだったと考える。「第3波」が広がり始めたとき、菅首相は国民に「静かなマスク会食」を求めた。
 また、小池百合子東京都知事は会見で、「5つの小」と書かれたボードを取り出した。会食時の対策として、「小人数」「小一時間」「小声」で楽しんで、料理は「小皿」「小まめ」に喚起や消毒を徹底することを呼び掛けたのだ。
 いずれも、感染対策の徹底を訴えたものだが、経済活動への悪影響を恐れて、踏み込んだ対策を避けて、小手先でしのぐことに終始していた。しかし、結局「Go Toトラベル」の一時停止という、唐突な政策転換に追い込まれてしまった。しかも、菅首相は「停止は地方の判断で」と言い、小池都知事は「停止は国の責任」だと批判するという迷走ぶりだ。
 だが、菅政権は「高齢者・基礎疾患がある人への感染拡大による重症者の増加」という事態に対する準備をすることができたはずだ。
「指定感染症2類以上」として扱うことをやめるべき
 8月28日、安倍晋三首相(当時)が辞任を発表した記者会見で、新型コロナ対策に関する重要な発表が行われたことを覚えているだろうか。それは、現在「指定感染症2類以上」の取り扱いとなっている感染症法における新型コロナの運用を見直すというものだった。
「指定感染症2類以上」となると、感染者は法に基づいて入院・隔離措置が取られる。また、感染者が入院・隔離となった場合、その費用が公費負担となる。感染が疑われた場合、保健所、行政に届け出なければならない(忽那賢志『【新型肺炎】指定感染症になるとどうなる?』)。
 当時、国際政治学者の三浦瑠璃氏など、多くの政治家、医療関係者、有識者は、現在の「指定感染症2類以上」から除外するか、もしくは季節性インフルエンザと同程度の5類感染症扱いにすべきだと主張していた(窪田順生『いいことずくめの新型コロナ「指定感染症解除」に、厚労省が後ろ向きなワケ』)。
 筆者も、同様の主張をし、安倍首相に対して、覚悟ある強いメッセージを出して、決然と政策変更を断行するべきだと訴えた(本連載第248回)。そして、実際に首相は辞任記者会見という重要な場で、次の首相に託す、いわば「遺言」ともいうべき重みのあるメッセージ(感染症法における新型コロナの運用を見直すということ)を託した。
 ところが、その後自民党総裁選、菅政権誕生という流れの中で、この「遺言」はなぜか雲散霧消してしまった。菅政権でこれが議論されている形跡もなく、政権内の「経済vs防疫」の主導権争いが続いている(第246回・p5)。菅首相は、「指定感染症2類以上」からの除外を一つの方針としてとりまとめられず、安倍前首相の「遺言」をなかったことにする選択肢しかなかったのかもしれない。
 だが、「第2波」も落ち着いていた時に、新型コロナを「指定感染症2類以上」から外しておけば、無症者・軽症者の入院隔離措置をやめて、季節性インフルエンザ並みの自宅待機に切り替えることができた。医療機関と入院隔離施設を高齢者と基礎疾患がある人が重症化したときだけのために空けておくことができたはずだ。
「第3波」は冬にかけて来襲することがほぼ予測されていた。重症者向けの病床を十分に空けて待ち構えていれば、「医療崩壊」を恐れる必要はなかったのではないか。だからこそ、安倍前首相の「遺言」をなかったことにした菅政権の対応を「無策」と私は断じたい。
季節性インフルエンザと同等の扱いで解決する問題とは
 新型コロナを「指定感染症2類」から除外することの効果は、「医療崩壊」を防ぐことにとどまらない。経済活動をより活発化させて、倒産や自殺者の増加に歯止めをかけることにつながる。というのは、新型コロナを季節性インフルエンザと同等の扱いとすることになるからだ。
 季節性インフルエンザと新型コロナを比較してみよう。例年のインフルエンザは、通常日本では、年間で推定約1000万人以上が罹患するとされている。そして、死亡者数は年によってばらつきがあるが、厚生労働省によると18年は3325人、17年は2569人である。
 一方、新型コロナは11月22日時点で、感染者13万179人で、死亡者数は1974人だ(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年11月22日版)」)。新型コロナの死亡者数は、今後増える可能性はあるが、現時点ではインフルエンザの3分の2程度にとどまっている。また、新型コロナの死亡率は、インフルエンザと同等であると世界保健機関(WHO)が認めている(WHO (Accidentally) Confirms Covid is No More Dangerous Than Flu – OffGuardian (off-guardian.org))。
 特筆すべきは、新型コロナの死亡者の大多数が60歳以上の高齢者と基礎疾患がある人だということだ。これはインフルエンザとまったく違っている。つまり、高齢者と基礎疾患がある人にとっては、季節性インフルエンザよりはるかに恐ろしい「殺人ウイルス」ということになる。一方、日本の若年層・現役世代にとっては、少なくとも死亡率の観点から考えれば、新型コロナはインフルエンザ以下の「ただの風邪」だということだ。
 要するに、新型コロナには「2つの顔」がある。しかし、現在の新型コロナ対策は、これをまったく考慮していない。ひたすら感染を避けるために、全国民に対して行動制限を強いているのだ。
 若年層・現役世代にとっては「ただの風邪」のために行動制限を強いられているということになる。それは、自分自身を守るためではない。新型コロナが「殺人ウイルス」である高齢者と基礎疾患がある人を守るために、行動制限を続けているということだ。
 しかし、例えば「第2波」の時点で既に、大阪府の重症者の7割が感染経路不明で、60代以上が77%以上を占めているという(毎日新聞「大阪、コロナ重症者突出 感染経路不明が7割 60代以上77% 」)。これらのデータを見ると、若年層・現役世代の行動を抑えることで、高齢者・基礎疾患がある人への感染を防ぐというのは、まるで暗闇で鉄砲を撃ち続けるような、効果が見えないことをひたすら続けているということではないか。
増える自殺者、新しい発想で打開策を
 その上、経済活動を制限し、行政からの協力金や補償金などを得てコロナの感染拡大が収まるまでしのぐという手法の限界が明らかに見えてきている。既に、この連載では小池知事が都内の酒類を提供する飲食店などに午後10時までの「時短営業」を要請し、協力金20万円を給付すると発表したところ、飲食店などの経営者は、次々と「応じるのは難しい」「要請に応じて20万円もらっても、営業を止めたら商売を続けられなくなる」と抵抗したことを紹介した(第248回・p2)。現在、この状況はさらに悪化してきている。
 既に、今年倒産に追い込まれた企業が500社に達している。今後、新型コロナの影響がさらに長期化し、政府や金融機関の支援が途絶えれば、事業を継続するのは困難となり、廃業の危機に追い込まれる中小企業が30万社に達するとの調査結果も出ている(NHKニュース「新型コロナ影響で倒産500社 関東地方の企業が4割近く占める 」)。
 さらに、自殺者の増加も深刻だ。警察庁の集計で、1~10月の自殺者の累計は1万7219人(速報値)で、昨年同期より160人増加していることが判明した。4カ月連続で前年同月より増加しており、10月の自殺者数は2153人(速報値)となり、昨年同月比で39.9%増(614人増)だった。新型コロナ感染拡大の影響が出ているのは明らかと思われる。
 今後、長期間にわたって感染拡大の波が来るたびに、休業要請や営業活動自粛が繰り返されるかもしれない。だが、その時に休業補償をもらっても焼け石に水のようなものだ。コロナ禍が収まった時に今の仕事や生活は残っていないかもしれないと絶望する人が、明らかに増えている。
 この苦境を乗り越えるには、ただ感染を避けるために静かに耐えるだけでは無理だ。まったく新しい発想で打開策を考えねばならないのではないか。端的に言えば、新型コロナは「ただの風邪」である若年層・現役世代は、季節性インフルエンザの流行時と同様の扱いとして、一切の制限なく経済を動かすことを考えるべきではないか。そして、高齢者・基礎疾患がある人を新型コロナから集中的に守る策を考えるしかない。そのための第一歩が、新型コロナを「指定感染症2類」から除外する、安倍前首相の「遺言」を実行することなのである。
「高齢者隔離リゾート」の提案に、さまざまな反応
 この連載では、「高齢者隔離リゾート」という提案をした (第248回・p6)。これは、現在最も深刻な問題の一つである高齢者への「家庭内感染」への対策として考えたものだ。感染者を入院隔離するのではなく、感染していない高齢者や基礎疾患がある人を隔離する「逆隔離」の発想である。
 感染者の家族に高齢者や基礎疾患がある人がいる場合、検査で陰性と出たとしてもその人たちに隔離施設へ移ってもらう。加えて、現在家族に感染者がいなくても、若年層がいつ新型コロナウイルスを家に持ち込むか分からない。不安に感じる高齢者や基礎疾患がある人の希望があれば隔離施設にすぐに入れるようにする。
 感染前の隔離なので、孤独な個室に閉じこもってもらうのは酷である。全国のリゾートホテルなど、娯楽がある施設に政府の補助を与えて協力してもらい、「高齢者隔離リゾート」を設置する。「Go To隔離リゾート」と称して、高齢者や基礎疾患がある人に補助金を出してもいいのではないか。
 ここまでは、既に提案済みである。これには、筆者にさまざまな反響が届いた。新型コロナ感染拡大の現場に携わる臨床医の方からは、「新型コロナとインフルエンザが同時流行する季節となれば、高齢者隔離リゾートは現実的な対策として考慮すべきものになる」とのコメントを頂いた。
 また、ある地方自治体の有力者は、「私の住む町は、都市部から気軽に行ける距離にある。港町として栄えた歴史もあり、総合病院が4つ、特養、サービス付き高齢者向け住宅が多くあるとともに、観光地でもある。そこに都市部に住む親世代に移住してもらう。そして、週末などに子どもたちに親に会いに来てもらうついでに、宿泊してもらい、観光を楽しんでもらう。町への関係人口を増やし、税収を増やすという政策を、実際に考えたことがある」と述べた。
 この方は続けて、「この政策案を応用すれば、高齢者隔離リゾートは可能ではないかと考える。全国に同様のポテンシャルを持つ自治体が多数あると思う」と指摘した。
 東京都医師会は、新型コロナ対策として「年代別グルーピング」を提唱している。すべての人を「グループA(0歳から40代)」「グループB(50歳から60代)」「グループC(70歳以上)」に分けて、それぞれに合った対策を考えていこうというものだ(日本テレビ「新型コロナ対策『年代別グルーピング』」)。
 海外でも、英国のボリス・ジョンソン政権が実行はしなかったものの、「50歳以上のみの外出禁止令」を検討したという(木村正人「コロナ第二波には50歳以上の外出禁止令か 2度目の都市封鎖回避に英政府が検討」)。年代別に分けた新型コロナ対策の必要性への認識は、次第に広がっていると考えられる。
「高齢者隔離リゾート」は、「時すでに遅し」という感もある。それでも、高齢者・基礎疾患がある人を「殺人ウイルス」新型コロナ感染から守りながら、若年層・現役世代の経済活動を復活させて、倒産・自殺の危機から救う起死回生の秘策として、一度全国で検討してみる価値があるのではないだろうか。