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日本学術会議が私の「学問の自由」を奪ったのか?

浜辺 隆二


2020/11/27 06:00


(浜辺 隆二:元福岡工業大学教授、工学博士)
 2020年10月5日、民間シンクタンク「国家基本問題研究所」のサイトに「学術会議こそ学問の自由を守れ」というコラムが掲載された。筆者は北海道大学名誉教授の奈良林直氏である。
 2016年に、北大のある教授による流体力学の研究が、防衛省の安全保障技術研究推進制度に採択された。ところが学術会議に「軍事研究」と決めつけられ、事実上の圧力で辞退に追い込まれたということがコラムに記されている。
 この指摘に関連して、防衛大学の卒業生が大学院に行きたくとも東大をはじめ各大学は自衛隊関係者を断る時代が続いていた、という櫻井よしこ氏の指摘もある(10月14日、BSフジ「プライムニュース」)。大学が一時期自衛隊関係者を断っていた理由としては、1967年に日本学術会議が出した「軍事目的のための科学研究を行わない声明」との関連が取り沙汰されている。
大学院の受験を拒否された
 実は私も1968年に大学院受験を拒否された1人である。
 私を含めた防大卒(および一般大学卒で防衛庁所属)の約20名の研修生全員が、1968年に大学院をなぜ受験できなかったのか、その理由はまったく知らなかった。教授も特にその理由を言わなかった。研修生(国立大学大学院受験希望者)のほとんどが防衛大学校研究科(2年間、当時は文科省所管ではないので大学院修士課程ではない)への進学を余儀なくされたと記憶している。
 53年後(2020年)の今、日本学術会議なるものが関与していた可能性があることを知り、大きな驚きを感じている。
 学問の自由を奪ったかどうかの事実関係については、日本学術会議(または第三者)が調査をして、憲法違反であれば私と他の被害者に謝罪する責任がある。もしも1967年以前までは受験可能だったのなら、その後、いつ・誰が・どのような理由で決めたのか、日本学術会議の過去の資料を調べれば簡単にわかるはずである。被害者の気持ちを無視してはならない。
 菅首相の学術会議任命拒否問題に対し、多くの学者が「学問の自由に違反する行為」であると主張し、テレビや新聞等で非難している。例えば、田中優子法政大学総長は「憲法が保障する学問の自由に違反する行為」と述べている。
 だが田中総長は、将来的に研究職を目指す若者たちの未来が、防大卒というだけで、研究の入り口である大学院の受験さえもかなわず切り捨てられた事実をご存知だったのか。憲法で保障された学問の自由を標榜するなら、田中総長の言葉は、そのまま日本学術会議に向けるべきではないだろうか。なぜなら私を含めたたくさんの被害者が存在しているからである。
 私は、防大在学中に体を壊して自衛官不適となり、研究職に方向転換せざるを得なかった。受験して合格していれば別の人生があったかもしれない。少なくとも私の場合は、この後に厳しい人生が待ち受けていたことを思うと、結果的に大きな影響を受けたことは否めない。多くの若い被害者たちに対する憲法の保障について田中総長や日本学術会議はどう思っているのだろうか。
防衛力の弱体化が目的なのか?
 1968年以降、若干名の防大卒業生が、大学院受験を拒否された後、海外の大学院に入学している。また、“研究生”として国立大学の研究室に数年間所属して、博士号を取得(通称「論文博士」)した人たちもいる。だが、この方たちは大学院に入学し、博士課程を経て博士号を取得(通称「コース博士」)したのではない。
 その後、1980年頃から防大卒の大学院受験を受け入れる国立大学が少しずつ増加してきたそうだが、日本学術会議からの公の受験許可があって入学できたわけではないと聞いている。
 日本学術会議は、防大の卒業生が大学院に進学して研究することが軍事研究に直結すると思って受験不可の縛りを決定したのだろうか。ちょっと考えればそんなことはありえないことがわかる。
 大学院への進学を希望するすべての学生は、修士課程、博士課程を修了して博士号を取得することを目的としている。博士号を取得するためには、指導教授の指導する専門分野の研究テーマに関する学術的な査読付論文が必要であり、このテーマが軍事研究と直結しているとは考えられない。
 さらにその研究成果が博士号取得に適しているかどうかを主査と副査の教授(4~5人)が審査し、その後、全学的な公聴会が開かれる。日本学術会議の先生方も、当然このことは知っているはずである。
 ここまでくると、日本学術会議が主導した53年前の大学院受験拒否に至る理由は他にあったのではないか、すなわち偏ったイデオロギーを持った先生方によって、理由のいかんにかかわらず大学の研究が軍事技術の開発に加担してはいけないという強い押し付けがあったのではないか、と推察せざるをえない。高度の科学技術を学んだ技術者を防衛庁から排除することで、防衛力の増大化の阻止または弱体化の方向でも考えていたのだろうか。
日本の安全と将来を見据えた組織に
 日本学術会議の声明に従って、防衛省関連機関からの研究助成金の受託は大学に止められる、との情報もある。一方で、「千人計画」など中国軍事力の技術発展につながる研究や協力は規制されていない。
 これらの矛盾した施策が国民に理解されるとは思えない。菅首相が、長年の慣例を見直し、より良いと思われる方向へ舵を切るのは当然である。
 中国に支配され民族性をも奪われたウイグル自治区、さらに、民主主義を奪われた香港、民主主義を死守しようとしている台湾、韓国による竹島の軍事的占拠、中国による尖閣諸島付近における毎日の領海侵犯の軍事的脅威、ロシアに占拠された北方領土の軍事基地拡大、北朝鮮による日本の主権を犯した拉致問題やミサイルの脅威などの不穏な現状から、日本国民の多くは国防の重要性とその必要性を理解している。
 現在、新たな日本学術会議の在り方が検討されているが、国防の重要さを考えれば、わずかな人数だが研究の素養を持った自衛官の質の向上は必須である。また、防衛省関連機関からの研究助成を希望する国立大学の先生方の研究が妨害される状況も、ただちに是正すべきだ。日本の安全と将来を見据えた新日本学術会議であることを期待したい。