「Go To トラベル」での政府対応が、ダメすぎる5つの理由
Go To トラベルを
かたくなに優先する政府
11月に入って以降、多くの都道府県で新型コロナウイルスの感染者数や重症者数が、過去最高を更新している。本格的な感染拡大が始まったというのに、どう見ても政府の対応はのんびりしている。感染拡大を防止しようとする危機感(本気度)が、国民に伝わってこないのはどうしてなのか。そこには大きく5つの理由がある。
1つ目は、感染症対策よりもGo To トラベルをかたくなに優先させる姿勢だ。
政府は、Go To トラベルを全面的に中止あるいは停止する気はまったくない。
政府の分科会が「拡大した要因の一つが人の動きだ」という方針を示したので、仕方なく感染拡大地域では一時停止にした。どうしてそんなにGo To トラベルをやめたくないのかというと「菅首相の肝いり政策だ」とか「せっかく経済効果が出てきたので水を差したくない」というのだ。
しかし、今までにない「感染者数と重症者数の増加という危機的状況」にあって、首相の肝いりかどうかは関係ない。経済効果について、首相は「政府の役割は国民の命と暮らしを守ることで、暮らしを守らなければ命も守れなくなる」というが、命がなくなれば暮らしもない。当然、命が最優先で暮らしはその次になる。
どうして中止しないかというと「Go To トラベルが感染拡大の原因だという証拠はないからだ」という。首相は「移動では感染はしない、という中で取り組んできた」とも述べている。
だが、分科会も移動そのものを問題としているのではない。移動することによって、人と接触する機会が増えることを問題としているのだ。
そもそも「Go To トラベルが感染拡大の原因だという証拠はない」というが、それは「証拠がない」だけであり、Go To トラベルが感染拡大の原因である可能性を否定するものではない。
首相は、11月25日の衆議院予算委員会で「4000万人が利用して180人しか感染していない」と述べているが、それはあくまで判明した人数であり、感染者の多くが感染経路不明である現状では「180人もGo To トラベルが原因で感染してしまった」と考えるべきだ。
その後、26日現在で202人が感染し、宿泊施設では38都道府県の130施設に及んだ。しかも、従業員で感染した人は177人、宿泊施設は27都道府県の103施設と増えている。
30日にも、福岡県で「Go To トラベル」を使ったバスの団体旅行で、10人の感染が確認されている。表面化していない感染者はかなりの数になると考えるべきだ。
科学的にも現実的にも「Go To トラベルが感染拡大の原因ではない」とはいえないのだ。首相や政府は「Go To トラベルをやめたくないので、無理やり理由をこじつけているだけ」に思えてならない。これでは、国民の多くは納得しないだろう。
首相自らが
おきて破り
2つ目は、猫の目のようにめまぐるしく変わる政府の対策と責任転嫁だ。
政府(菅首相)は、よほどGo To トラベルをやめたくないのだろう。それは、Go To トラベルの対応を見てもよく分かる。
当初、あまりにも感染が拡大したので、世論も怖くなって、大阪市と札幌市限定でGo To トラベルを停止した。大阪府と北海道にせず、市だけに限定したことでも、何としてもGo To トラベルはやめられないという思いがヒシヒシと伝わってくる。
しかし「大阪市と札幌市に入るGo To トラベルは停止するが、大阪市と札幌市から出るGo To トラベルは続ける」という方針には、多くの国民があぜんとしたのではないだろうか。まったく意図が分からない。「そこまでしてGo To トラベルをやめたくないのか」とあきれるばかりである。
そもそも、5月に発表された「新しい生活様式」では、移動に関する感染対策の一つとして「感染が流行している地域からの移動、感染が流行している地域への移動は控える」となっている。したがって、政府自ら「新しい生活様式を破っている」ことになる。
自分たちで国民に守るように作ったおきてを、首相自ら破ったのだ。そこまでしてGo To トラベルに固執する姿を見ていると、もはや「政治や政策の領域ではなく、単なる個人の意地でしかない」と思えてしまう。
政府の対応に我慢できなくなった分科会から「拡大の原因の一つが人の動きだ」と注意されたことで、感染地域(大阪市と札幌市)に入ることだけでなく、感染地域から出ることも規制することになった。だが、実際の方針は「入ることは停止だが、出ることは自粛」にとどまっている。
まさに、茶番である。
全国で一番感染者と重症者が多い東京都についての対応はさらにひどい。
12月1日、首相と都知事の会談で「重症化リスクの高い65歳以上の高齢者と基礎疾患のある人だけ、都内発着の旅行を自粛する」と決まった。小池都知事は「停止を要請した」が、菅首相に却下されたようだ。
重症化リスクを避けるという意味は理解できるが、あくまで「人の移動による接触(Go To トラベル)では感染を拡大させない」という前提に立っている。
しかし、「Go To トラベルが感染を拡大させている証拠もなければ、拡大させていないという証拠もない」ということは、つまり、Go To トラベルが感染を拡大させている可能性はあるのだ。そもそも人の移動(接触)が感染を拡大しないのであれば、世界中でロックダウンなどしない。
新しい生活様式どころか、世界中の常識を無視しているとしか思えない。
何ら有効な対策が取れず、ここまで感染を拡大させたのは、政府と東京都の連帯責任である。首相と東京都知事が「おきて破り」を続けているようでは、国民も都民もついていけない。
「勝負の3週間」で
生活は元通りになるのか
3つ目は、3週間我慢すれば元通りの生活ができるという政府の呼び掛けへの疑問だ。
春から夏にかけて、政府や専門家がよく使った言葉が「瀬戸際」だった。国民は「いったい何度瀬戸際があるんだ」とあきれた人も多かった。今度は「勝負の3週間」である。しかし、3週間我慢したら何が待ち受けているのか、元の生活に戻れるというのだろうか。
しかも今回は「3週間我慢しなかったら緊急事態宣言を出すぞ」という脅し文句まで付いている。「3週間後にどうなろうとも、すべては国民の責任だ」というのである。我慢しなかったら罰として、緊急事態宣言を出すというのだ。
たとえ3週間後に感染者数が減少傾向になったとしても、根本的な解決にならないことは誰でも分かっている。自粛期間が終わったとしても、しばらくすれば、また感染者は増加傾向になるだろう。
それに今から3週間後といえば年末年始に差し掛かる時期である。政府(首相)が待ち望んでいたGo To トラベルが再開された場合、さすがに年末年始は、お盆の時のように「帰省するな」とは、どの都道府県知事も言い難いだろう。
しかし、夏より冬の方が感染拡大する可能性は大きいだろう。帰省客によって、全国に感染が拡大する心配はないのだろうか。帰省を分散するといっても「家族皆で年を越し、3が日の間に初詣をする」という習慣を崩すことは容易ではない。
しかも3週間が過ぎ、政府が「皆さん、Go To トラベルを積極的に利用しましょう」となれば、年末年始は例年に近い水準まで人出は戻るだろう。そうすると、また感染者が増える。
感染が拡大した地域では、一時的にGo To トラベルを停止して、また国民に「3週間我慢しろ」と言って、その後にGo To トラベルを再開する。その繰り返しになるかもしれない。とにかく「どんなに犠牲が出ようとGo To トラベルが一番の経済政策だ」と突き進むのだろう。政府は、いったい誰を、何を守りたいのだろう。
Go To トラベルの恩恵を
受ける地域と企業は限定
4つ目は、Go To トラベルによる恩恵は極めて限定的ということだ。
とにかく菅政権の「Go To トラベルへの執着」というのは尋常ではない。Go To トラベルさえやれば、新型コロナウイルスは克服できるし、経済も回復できると思いこんでいる。菅首相は「Go To トラベルのおかげで、ホテル、タクシー、食材提供業者、お土産屋さんなどの900万人の雇用を維持している」と衆議院予算委員会で自慢げに答弁している。
しかし、以前から指摘されているように、ホテル、タクシー、食材提供業者、土産屋など、Go To トラベルの恩恵を受けているのは非常に限られた地域の人たちである。にぎわうのは有名観光地の高級ホテルや旅館ばかりだ。地方の小さな観光地や中小企業は見捨てられているといってよい。
しかも、予約は旅行会社経由が前提であり、大手旅行会社ばかりが恩恵を受けているという指摘もある。
Go To トラベルには、1兆円以上の予算を使い、さらに5月の連休まで延長するという話がある一方、同じGo To キャンペーンのGo To イートは、オンライン飲食予約と食事券を合わせても約1500億円であり、オンライン飲食予約は延長せず、食事券は延長するという話は出ているが、おそらく追加予算は1000億円もつかないだろう。
Go To 商店街やGo To イベントにいたっては、キャンペーンがあること(あったこと)さえ忘れられている。
困っているのは観光業だけではない。ましてや有名観光地の大手事業者だけ救えばいいというものではない。政府は、もっと視野を広くすることが必要だ。
感染症対策と経済を
どうすれば両立できるのか
5つ目は、感染症対策と経済の両立は今のやり方では難しいということだ。
Go To トラベルを利用して高級ホテルなどを利用する人たちを見て「何と幸せなことだろう」とうらやましく思っている人は多い。コロナの影響で、今後の生活設計に不安を抱えている人は、たとえ旅行費が半額になったとはいえ、とても旅行する余裕などないだろう。
もちろん「生活にゆとりのある人たちがお金をばらまくこと」は、経済の活性化の一つにはなるだろう。しかし、今は、それ以上に「生活に困窮している人」「このままでは商売を続けられない人」といった生活弱者をいかに救うかが、政治に求められているのだ。
首相も「暮らしを守る」と力説している。それは観光関係者だけのことではないはずだ。
では、そのためにはどうすればいいのか。それは「生活困窮者と事業者への直接給付」しかない。
Go To トラベルを続けるのなら、中間業者を通すことなく、ホテル・旅館に行けば、その場で半額にすればよい。Go To イートも、オンライン予約によるポイント付与やプレミアム付き食事券などの手間暇かけるのではなく「直接飲食店に出向けば、料理を半額にする」という方法が一番簡単で分かりやすい。
とにかく中間業者の搾取をなくし、末端の事業者に手厚い保護をしなければならない。
生活困窮者については、一定の基準を定める必要があるので、そこは公正にしてほしいが、事業者は簡単だ。持続化給付金を支給した企業に、もう一度200万円か100万円を支給すればよい。さらに、1企業に100万円(または200万円)ではなく、1事業所(店舗・事務所等)に100万円(または200万円)を支給するのだ。
時短営業で1事業者に、半月間で数十万円を支給しても、事業が成り立つとはとても思えない。時短要請に応じられないのは、給付金が少なくて商売の継続が困難だからだ。今、政府や地方自治体がやっていることは「体力のない会社は廃業してください」「能力のない従業員は切り捨てなさい」と言っているに等しい。
暮らしを守れるだけの補償をすることこそ、首相の言う「暮らしを守ることが命を守ることになる」のだ。今、年を越すのに不安を抱いている事業者や生活者はかなりいる。
3週間後に緊急事態宣言を出すのではなく、3週間後に苦しんでいる人たちに給付金を配布し「安心して年を越してください」とするのが政治のあり方である。
(消費者問題研究所代表、食品問題評論家 垣田達哉)
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