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リニアの裏で静岡県、「東電ダム」から巨額収入

川勝知事“命の水"は欺瞞に満ちた言動だ
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2020年12月16日
筆者による静岡県への情報開示請求で、東京電力が田代ダムの流水占用料として年額3000万円超を県に支払っていることがわかった。1980年以降の40年間だけでも優に10億円を超える。このお金をもらうことで、大井川から最大毎秒4.99㎥の水が山梨県側へ流出している。
川勝平太静岡県知事は、「JR東海の南アルプストンネル建設でトンネル湧水を山梨県側へ1滴も流出させない」として、2014年に“命の水”を守るために立ち上がったと主張するが、翌2015年、田代ダムの水利権更新の際、東電には“命の水”を取り戻す働き掛けをまったくしなかった。結果的に、川勝知事にとっては東電からの多額の現金収入は“命の水”よりも優先されるべきもののようだ。
田代ダムから県外に流れる水は”命の水”ではない
田代ダムは1928年建設された大井川で最も古い発電所用のダム。1955年、従来の毎秒2.92㎥から毎秒4.99㎥に取水が増量されると、大井川の水枯れ問題の象徴となり、流域住民の「水返せ」運動が始まった。
1975年12月の水利権更新で、静岡県は毎秒4.99㎥のうち、毎秒2㎥を大井川に返してほしいと要望したが、東電は「水利権は半永久的な既得権」と退けた。それから、30年間、「水返せ」運動は県知事、流域市町の住民らによって地道に続き、2005年12月の水利権更新でようやく毎秒0.43〜1.49㎥(季節変動)の河川維持流量(渇水時等に維持すべきと決められた流量)を勝ち取った。
12月7日の静岡県議会一般質問で、2005年の水利権更新当時、島田市長で「水返せ」運動の中心にいた桜井勝郎県議が、田代ダム問題を取り上げ、「知事はJR東海を悪者に県民の不安を増幅させる印象操作をしている。大井川の同じ水でありながら、田代ダムから山梨県に放流される水は“命の水”ではないのか。2015年の水利権更新で県は東電に対して、“命の水”は譲れないと主張したのか」などと知事を追及した。
この答弁から知事は逃げた。代わりに難波喬司副知事が、県、流域市町を中心とした大井川水利流量調整協議会の議論で河川維持流量の合意形成をしてきた経緯を説明、「2015年度の更新の際には無条件で水利権が更新された」などと答え、実情を明かさなかった。
しかし、実際には、水利権更新前の2015年9月に開かれた同協議会で、大井川流域8市2町の首長、議会議長で構成する大井川の清流を守る研究協議会が「今以上の水量増加」「リニアによる流量減少の懸念を踏まえ、慎重な対応を求める」などの要望を提出している。決して、副知事が答弁したような無条件などではない。
同協議会に出席した島田市、川根本町の首長が、「大井川は豊かな水の流れになっていない。1滴でも多くの水を流したい」などと要望した。田代ダムの水利権では、冬場に毎秒0.43㎥を大井川に戻す維持流量で合意したが、実際は、凍結などで発電施設に支障が出るとして、約束した毎秒0.43㎥を下回る水量しか大井川に返さない“特例”が認められている。この問題に、首長らから異論、反論が出て、東電に対応を求めたのだ。
県は田代ダム問題を避けている
同協議会では「東電だけの検証で第三者の検証を行ったのか」「冬場に凍結させない技術があるのではないか」などの意見も出たが、結局、今後10年間で東電が検証していくという結論で議論を終えてしまった。東電の既得権を何とかするためには、県のトップ、知事が先頭に立つことが不可欠だが、同協議会の会長職は県河川局長に任されている。リニア問題を話し合う県リニア環境保全連絡会議などに比べて、県が田代ダム問題に力を入れていないのは明らかだ。


10月の県議会リニア集中審議の委員会で田代ダム問題について議論したことはないと答える難波喬司副知事(右端、筆者撮影)
それどころか、知事は田代ダム問題を避けている。今年10月5日、県議会委員会リニア問題集中審議で、「田代ダムについての審議はこれまでなかったのか」という質問に対して、難波副知事が「一切ない」と回答した。県議は再度、確認したが、副知事は強く否定した。
県リニア担当理事によれば、2014年春から2018年夏までの4年間に限定した時期に「田代ダムの審議は一切ない」という都合のいい答弁だったらしい。ただ、これで、2015年田代ダムの水利権更新に当たっての大井川水利流量調整協議会の審議は知事、副知事には一切、無関係であると断言したことになる。つまり、田代ダムから流出する水は、知事には“命の水”には当たらないと公言したに等しい。
ところが、2019年6月、難波副知事名でJR東海に送った「中間意見書」に「田代ダム」が登場している。「上流部の河川水は、その一部が東電管理の田代ダムから早川へ分岐し、山梨県側へ流れている。このことを踏まえた上で、静岡県の水は静岡県に戻す具体的な対策を示す必要がある」などとJR東海に求めている。非常にわかりにくい文章であるが、ふつうに読めば、田代ダムから流出される水を大井川に放流するようにも取れる。JR東海は「当社から東電に取水の制限をするのは難しい」と回答している。
JR東海の回答に対して、同年8月に開かれた大井川利水関係協議会意見交換会で染谷絹代島田市長は「場合によっては、(JR東海が)東電から水利権を買い取るという方法もある。取水の制限を要請するのは難しいが、水利権を買うという方法も考えられる」などと述べ、流域の首長はリニア問題解決に当たって、JR東海が田代ダムから流出する水で代償させる方策を述べた。
これまでの県専門部会の議論で、JR東海は先進坑が開通するまで、工事中の作業員の安全上、山梨県側に10カ月間毎秒0・08㎥(平均)、長野県側に7カ月間毎秒0・004㎥(同)の流出はやむをえないとしている。染谷市長の現実的な解決策を求める発言にもかかわらず、川勝知事はJR東海とのリニア議論になると、“命の水”を持ち出して「水1滴たりとも県外流出は許可できない」とはねつけ続けている。
水利権の許可権限を持つ国交省静岡河川事務所は「リニア問題については、こちらの担当ではない。水利権を民間同士で売買するという議論をしたことはない」などと回答した。
東電から得た金は一般財源に
染谷発言を受けた昨年9月の知事会見で、石川嘉延前知事が東電に水利権の交渉をしたことにも触れた記者の質問に、川勝知事は「水が取り戻せるかどうか現地(早川町)に入った。早川町にとっては電源立地交付金の入る不可欠な施設(東電の田代川第一発電所、第二発電所)。JR東海がやることは湧水を戻すことで(水利権の買い取りは)筋違い」などと述べ、染谷発言を否定するとともに、知事本人が田代ダムの「水返せ」運動の先頭に立つことへの言及を避けた。
2017年度から2019年度まで3年間の田代ダムの流水占用料について静岡県への情報公開請求で、2017、2018年度に年額3097万円、2019年度に同3125万円を東電が県に支払っていることがわかった。1980年以降の40年間だけでも優に10億円を超える。


県議会12月定例会で田代ダム問題を質問する元島田市長の桜井勝郎県議(前列右)、すぐ隣に川勝知事(前列左、筆者撮影)
流水占用料は一般財源であり、使途は県の判断に委ねられる。田代ダムから得られた多額の費用は水源涵養などの事業には使われていない。上流部では水源を守る森林荒廃が顕著だが、県の対策事業にはなく、護岸整備などの河川管理にも充当されていない。
桜井県議は「田代ダムでそんな多額の流水占用料が支払われていることを初めて知った。川勝知事が“命の水”を守ると言うならば、そのお金を使って、県のやるべき事業をちゃんとすべきだ」などと話した。
「“命の水”を守る」という川勝知事の発言は、内容の伴わない欺瞞に満ちた言動にしか聞こえない。