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安倍総理の志は死なない!!

中国にハリウッドはのみ込まれるのか ムーランの波紋

 アジア系女性が主演を務め、実写化された映画「ムーラン」。今春、世界同時公開される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響でかないませんでした。しかし、公開される前から、映画をめぐり論争が勃発。背景を読み解くと、舞台となった中国に関連する様々な問題も浮き彫りになってきました。


 TBSラジオ「荻上チキ・Session」で放送された「朝日新聞ポッドキャスト in Session」で、パーソナリティーの荻上チキさん、南部広美さんと、朝日新聞の神田大介・コンテンツ編成本部音声ディレクターが語っています。朝日新聞デジタルでは、放送で流せなかった部分も含めたディレクターズカット版をご紹介します。その一部を編集し、記事も公開します。


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荻上:今回は映画「ムーラン」に関する様々な騒動を取り上げます。この問題を報告した記者はどんな方ですか?


神田:藤えりか記者です。普段は東京経済部に所属して、労働問題や働き方の問題を中心に取材しています。元々はロサンゼルスに特派員として赴任して、持ち場のハリウッドや米アカデミー賞の取材もしていました。そういったなかで映画に興味があり、人脈や知見を広げて取材を続けた記者です。


荻上:映画業界も雇用や労働の問題を抱えていて、「#MeToo」もアメリカの映画業界から発信されました。映画は、社会と切っても切れないものですよね。では、映画「ムーラン」について話しているポッドキャストの一部をご紹介します。


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神田:アジア系女優が主演の映画「ムーラン」が、日本では劇場公開されないと決まりました。どういうことなんでしょうか。


藤:元々は春に、世界同時公開する予定でした。ところが新型コロナの影響で、劇場が閉鎖された。アメリカではディズニープラスで配信され、中国はどうなるかと注目されていたところ、劇場公開したんですね。アジア系女性が大作映画の主役を務めること自体、非常に画期的なんですが、昨年からずっと物議を醸してきた映画でもありました。


神田:コロナ以外の部分でもですか?


藤:まず主演のリウ・イーフェイさんは中国本土生まれ。昨年といえば、香港の民主化デモが盛り上がった時期でした。そんななか、彼女は民主派ではなく警察を支持する投稿をしました。もちろん香港の民主派は大騒ぎ。いまもソーシャルメディアでは「#BoycottMulan(ボイコット・ムーラン)」というハッシュタグが出る状態です。


 ただ、ハリウッドの人たちは、この問題についてだんまりでした。良くも悪くも中国マネーの恩恵を被っているんですよね。


 また、映画を新疆ウイグル自治区で撮影したこともまだ言われています。作品として評価しようということになっていないのが切ないですね。


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荻上:「ムーラン」は中国側でもヒットしたといえず、問題を抱えていた。撮影場所が新疆ウイグル自治区で、主演女優も香港の市民運動を否定するような投稿をする。色んな問題が重なりましたね。


神田:ウイグルについては、朝日新聞の記者も現地に入って取材をしています。その時、記者が見たのは、モスクが閉鎖されたり、破壊されたり、カフェに転用されて中に漢族がいたりするという現状でした。ウイグルの人たちはイスラム教徒がほとんどですから、祈りを捧げる場であるモスクは非常に重要。そんなコミュニティーの中心のような存在が解体されて、なおかつ漢族が使っています。


 その前の年には、中国側が「職業訓練施設だ」と主張する施設を、朝日新聞の特派員が取材しました。取材には当局の人も一緒について行き、ウイグルの人たちは「感謝しています」という発言をする。しかしウイグルの方にメモを渡して名前を書いてもらった時、名前だけでなく「私は中国人です」と書いたそうです。「監視役の人がいる」という意識が影響したと思うんですけど。


 そういう状況ですから、国際人権団体やアメリカから「強制的な収容施設として使われているんじゃないか」と強く非難されている。そんな新疆ウイグル自治区を使って「ムーラン」の一部が撮影された。2時間ほどある映画の1分くらいだそうですが、エンドロールに「(新疆ウイグル自治区の)当局に感謝する」というような文言があって、問題視されたようですね。


荻上:この映画を撮ったディズニーは、この間、いろいろな作品の中で、人種や性差の問題などについて進歩を続けてきた。そのなかで、90年代の作品であるアニメ映画の「ムーラン」は、失敗と言えてしまう所がある。女という生き方から自由で、兵士として戦うために戦場に行ったムーランが、最終的には恋愛に着地する物語なんです。同時に、自民族中心主義を強化して、攻めてくる他民族に対抗する物語になっている。フェミニズム映画として後退しているのではないか、植民地主義以降の動きにミスマッチなのではないかと、批判もされたんですよね。


 ただ、時代が変わって「ムーラン」を実写化することになった。ここ数年、ディズニーの実写化は成功しているものが多く、なおかつ「ムーラン」はアジア系女性が主役でアジアが舞台。新しい物語を見せてくれるのではないかと期待する人が多くいた。ところが基礎的な所で大きくつまずいた。中国の資本にハリウッドはのみ込まれてしまうのかと、がっかり感を多くの人に与えた出来事でした。中国資本の影響に多くの人が注視しているからこそ、「#BoycottMulan」につながったとも言えそうですよね。


神田:藤記者もずっと関心を持っていて、聞くところによると、かつて、中国側にとって都合の良くないプロット(物語の筋や構想)は書き換えられる話もあったようです。また、俳優のジョージ・クルーニーさんやマット・デイモンさんに、そういった問題についてどう思うか会見で質問しても、混ぜっ返すような感じで正面から答えない。中国市場の大きさが、物を言いにくい状況を作っているんだろうなと感じたそうです。


 ハリウッドもアメリカも、中国が大きくなるなかで、G7(主要7カ国)の国のような価値観を共有できる国になるだろうと期待したと思うんですが、残念ながら逆行している。映画がその象徴になっているんだろうなと思うんです。


 また、藤記者が言っていたんですが、米アカデミー賞を主催する米国映画芸術科学アカデミーは、作品賞の選考対象として、出演者やスタッフにマイノリティーを対象に入れなさいという条件を決めましたが、これは焦りの表れであると。Netflixが成功しているのは、「ポリコレ(政治的公正)」だからではなく、マイノリティーを出すことが、見る人にも受けるということが証明されているんだと思うんです。「ブラックパンサー」しかり、「パラサイト」しかり。そういう流れのなか、アジア系が取り残されているというのが、藤記者の見立てです。


荻上:「ブラックパンサー」は、黒人系の人たちにリスペクトを込めて制作をしていった経緯があった。でもそれだけ努力をしても、ハリウッド資本がアフリカという表現を搾取しただけにすぎないのではないかという批判はできるわけです。その批判は、真摯(しんし)に受け止めなくてはいけない批判ですよね。一方で「ムーラン」は、「ブラックパンサー」がしていた努力ができていたのか。努力ができていないのならなぜなのか。それは、黒人系以上にアジア系の当事者の声が軽視されがちだからなのではないか。足元の対応の違いも浮き彫りになりそうな気がしますね。


神田:違いを超えていくのが、いかに難しいのか。他のマイノリティーと比べても、中国という国家が入ることで、より大きくなっているんだろうなという印象ですね。